日本の周辺海域を守る要となる海上自衛隊の護衛艦。2021年時点では、46隻がその任務についている。
一口に護衛艦といっても、海自の護衛艦は日本独自の定義であり、下記のようにさまざまな艦種が存在することは、以前の記事で紹介した。(※「護衛艦」ってどんな船? 日本独自の定義とDD、DDH、DDG……艦種記号の意味とは? 記事はこちら)
「護衛艦」ってどんな船? 日本独自の定義とDD、DDH、DDG……艦種記号の意味とは?
・ミサイル護衛艦(DDG)
・汎用護衛艦(DD)
・ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)
・近海警備用護衛艦(DE)
・多機能護衛艦(FFM)
多機能護衛艦(もがみ型)については、2022年3月の就役予定のため、本格運用はこれからとなるが、そのほかの4種について、その違いなどを詳しく見て行きたい。
文・イラスト/坂本 明、写真/海上自衛隊
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■海自戦力の中核! ミサイル護衛艦と汎用護衛艦
海上自衛隊の主力である自衛艦隊の中核を担うのが護衛艦隊である。
護衛艦隊の詳細については後述するが、現在、護衛艦隊の護衛隊群は8艦8機体制(護衛艦8隻、ヘリコプター8機)を戦術単位として編成されている。
これは日本の防衛計画の1つとして、護衛艦隊の海上防衛力近代化のために1980年代初頭に策定されたコンセプトに基づいたもの。
1つの護衛艦隊群を艦隊防空用のミサイル護衛艦2隻、対潜ヘリを1機搭載する汎用護衛艦5隻、対潜ヘリを3機搭載するヘリコプター搭載護衛艦1隻で構成するという編成だ。当初は対潜水艦戦を強く意識した編成だったが、現在はヘリコプターの多用途化やひゅうが型のようなヘリコプター搭載護衛艦の就役で、より柔軟に運用できるようになっている。
中距離対空ミサイルを装備して艦隊の広域防空を主務とするのがミサイル護衛艦(DDG)だ。現在は、こんごう型(同型艦4隻)、あたご型(同型艦2隻)、まや型(同型艦2隻)が運用されており、これらの艦は武器システムにイージスシステムを搭載したイージス艦である。
イージス艦は、その高い戦闘能力で最強の盾とも呼ばれる。
搭載されるイージスシステムは、アメリカ海軍が防空戦闘を重視して開発した艦載武器システムのこと。艦のすべてのセンサー(フェーズド・アレイ・レーダーやソナーなど)や通信機材および兵器をシステムの中枢となるコンピュータを介して連結した統合システムになっている。これによりセンサーが探知した複数の目標(敵ミサイル、航空機、水上艦、潜水艦など)の中から脅威度の高いものを自動的に識別、迎撃手段を選択して順次攻撃することができる。
●まや型ミサイル護衛艦:2020年に就役した海上自衛隊の新型ミサイル護衛艦(DDG)。
《諸元》全長:170m、全幅:21.0m、満載排水量:10250トン、速力:30kt以上、乗員:約300名
また北朝鮮をはじめとする周辺諸国の弾道ミサイルの脅威に対応するためにイージス弾道ミサイル防衛システムの能力も付与されている。
汎用護衛艦(DD)は短距離対空ミサイル、対艦/対潜ミサイル、中口径速射砲、哨戒ヘリコプターなどを搭載して対空戦、対潜戦、対水上戦などの多用途な作戦運用ができる護衛艦だ。現在、あさぎり型、むらさめ型、たかなみ型、あきづき型、あさひ型が就役している。
●あきづき型護衛艦:2012年に1番艦が就役した汎用護衛艦。主任務は、BMD(弾道ミサイル防衛)任務に当たるイージス艦に対する航空攻撃を排除すること。
《諸元》全長:150.5m、全幅:18.3m、満載排水量:6800トン、最大速度30kt、乗員:約200名
ちなみにこれらの艦艇(DD、DDGやDDHを含めて)は他国では駆逐艦に相当する。
■まるで空母! ヘリコプター護衛艦
海上自衛隊が現在運用しているヘリコプター搭載護衛艦が、ひゅうが型といずも型である。
いずれの艦も艦容はヘリ空母で、海外の文献ではヘリ空母とするものもあるが海上自衛隊ではヘリコプター搭載護衛艦といっている。実際のところヘリ空母を保有することは長い間海上自衛隊の念願だった。
●ひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦の船体内構造:ひゅうが型は大きな艦内格納庫と、ヘリのメインローターを広げたまま収納・整備が行なえる艦内の整備区画を保有することが特徴。
2009年に1番艦が就役したひゅうが型は、ヘリコプターの運用を第一に考慮して建造された護衛艦である。
艦橋構造物を右舷側に寄せて設置、第1甲板を艦首から艦尾まで全通式の飛行甲板としたことで、ヘリ空母のような艦容になった。これにより3機のヘリの同時発着が可能である。
哨戒ヘリを搭載し、潜水艦の駆逐が主任務である。加えて艦隊の旗艦としての指揮・通信能力、大災害時の救助支援能力などが付与された艦である。
兵装に対空・対潜ミサイルを発射できるMk.41垂直発射システムや3連装魚雷発射艦などを装備しており単艦での戦闘能力も高い。
いずも型は2015年に1番艦が就役した海自最大のヘリコプター搭載護衛艦(全長197m、満載排水量約26000トン)で、同じ全通式飛行甲板を持つひゅうが型に較べ格段に大きい(ひゅうが型は全長197m、満載排水量約19000トン)。ひゅうが型のように単艦での高い戦闘能力を持たず、ヘリコプターの運用に特化していることが最大の特徴だ。そのため武装も必要最低限で、防空能力の高い護衛艦と艦隊を組んで運用される。
また艦内の居住区画には乗員(約70名)以外に500人を収容できるスペースを持ち、医療区画には集中治療室、手術室、X線撮影室、歯科治療室などを備え、35床の入院施設を持つ。こうした設備を備えることから災害派遣などの任務にも対応できる多用途な艦になっている。
■まったく新しい多機能護衛艦の登場
最後に、近海警備用護衛艦(DE)と多機能護衛艦(FFM)について触れておこう。
近海警備用護衛艦(DE)とはその名とおり、近海・沿岸海域の防衛を担うために建造された小型の護衛艦で、現在はあぶくま型の6隻が就役している。満載排水量約2900トンと汎用護衛艦(DD)のむらさめ型などの半分程度となる。
●あぶくま型護衛艦:全長100mほどの小型艦ながら対空戦、対水上戦、対潜戦が行えるように一通りの武器システムを搭載している。
《諸元》全長:109m、全幅:13.4m、満載排水量:2900トン、最大速度27kt、乗員:約120名
また最も新しい艦種の多機能護衛艦(FFM)もがみ型は、あぶくま型の後継として建造されている。もがみ、くまの、のしろ、みくまの4隻が進水済みで艤装中であり、2022年3月にはもがみとくまのが就航予定となっている。従来の護衛艦とは違う新しいタイプの艦で、高いステルス性を備え、省人化が図られている。将来的に22隻まで建造する計画となっている。
■護衛艦を運用するのは護衛艦隊
最後にこうした護衛艦を運用する護衛艦隊について、まとめておく。
護衛艦隊は、機動運用部隊(4個の護衛隊群)、地方配備部隊(5個の護衛隊)、護衛艦隊直轄部隊(海上訓練指導隊群、海上補給隊、海上訓練支援隊)で編成され、司令部を船越地区(横須賀基地)に置いている。これらの内、主力部隊として有事に備えているのが機動運用部隊を構成する4個の護衛隊群で、ローテーションで即応態勢についている。
また地方配備部隊というのは、かつて地方隊の隷下に置かれていた6個の護衛隊を5個に削減して護衛艦隊隷下の直轄部隊としたもので、地方隊の警備区域に配備されている。地方配備部隊が運用するのが旧式化した第1世代の汎用護衛艦(DD)と近海警備用護衛艦(DE)である。
ところで地方隊とは、日本を5つの警備区域に分け、担当区域の防衛と警備および自衛艦隊などの後方支援に当たっている防衛大臣の直轄部隊。また地方隊は災害時や航空機等の遭難では派遣、救難任務も行なう。
地方隊は、横須賀地方隊、呉地方隊、佐世保地方隊、舞鶴地方隊、大湊地方隊の5つ。
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