Kさん所有のトムス仕様レクサスGSFとは
大阪府泉佐野市在住のKさんが所有する「LEXUS GSF TOM’S」が盗まれたのは2023年1月18日午前2時45分頃だった。
【画像】動かぬ証拠! 傷の位置まで一致 盗難風景やヤードの内部【現場から】 全47枚
「いつもは会社の立体駐車場に停めているのですが、その日は帰りが遅かったこともあり、自宅前の屋外駐車場に停めていました。防犯カメラの映像を見ると、いとも簡単に鍵を開けて犯行開始からクルマを発進して駐車場を出ていくまで1分もかかっていない、40秒くらいですね。警察の方と一緒に映像を見ていましたが、警察いわく『リレーアタックで盗まれたのでしょう』とのことでした」
「犯行当時は自宅にいてそろそろ寝ようかと思っていた時でしたが、異変には全く気付きませんでした」
「翌朝、GSFに乗って出社しようと外に出て……クルマがないことに気づきました。すぐに警察を呼んで最初は駐在さんが来て、その後、刑事さん数名が来ました。防犯カメラが8台あるので、その中からデータを抜くのに半日くらい掛かっていましたね」
リレーアタックは玄関などクルマの近くに置いてある電子キーから発する微弱な電波を特殊な機器で増幅させてエンジンをかけて盗んでいく手口である。
CANインベーダーの前はリレーアタックが主流だった。しかし、金属の缶に鍵を入れて電波を遮断するなど比較的簡単に対策ができることから、猛威を振るっていた数年前に比べるとリレーアタックによる窃盗は今は減りつつある。
防犯カメラの映像からもわかるが、CANインベーダーにしてはドア開錠から発進までの時間が短すぎる。
さらに、レクサスLXやLCではフロントバンパーからCANにアクセスできるのだが、設計が少し古いGSFは車内からしかCANにつなげられないため、さらに時間と手間がかかる。
2月9日頃、ヤフオクに初めてGSFのパーツが登場
盗まれてから約3週間経った頃からヤフオクにKさんのGSFのパーツと思われる出品が始まった。
それからも次々と出品されており、出品されたパーツの写真とKさんのGSFの写真とを照らし合わせておこなったところ、盗まれたGSFであることが明らかになった。
不自然な傷が新たに増えているが、タイヤのエアバルブと製造年月日の表示の位置関係が同じ。更に製造年、製造週、銘柄も同じである。最初からあった傷の位置やタイヤとホイールの組み位置も同じだ。
このほか、マフラーやエアロパーツなどでも同一であることが特定できている。
ついには、このパーツを出品した業者も写真に写りこんだ風景などから特定することができた。三重県桑名市にある解体業者でヤフオクへの出品もこの会社のアカウントからおこなわれていた。
KさんのGSFは何者かに盗まれ、解体業者に売られ、バラされたパーツがヤフオクに出品されていたことが明らかになったのだ。
しかし、この状態まで来ても大阪府警は全く動いてくれなかったという。被害届だけは受理されたが、「ヤフオクにパーツが出品されていました」と申し出ても完全無視だった。(なお、ヤフオクの出品物を含め、すべてのパーツは現在、桑名署に保管されている)
Kさん単身で解体業者のヤードへ
「ヤードが特定できたので行ってみることにしました。外から私のGSFが見えました。ハーフカットされた状態でコンテナの上に載せられていました」
「現場には三重県桑名市にある桑名警察署の刑事さんが5~6人、制服を来た警察官とあわせて10名ほどが柔名署から来てくれましたね」
KさんのGSFが見つかった解体ヤードの責任者に聞いたところ、
「このクルマは大阪の業者から40万円で買った。領収書もある。盗難車とは知らなかった」と弁明。自分たちは「善意の第三者である」ことを主張したという。
「日本の業者とイランかアラブ系の外国人とで、うまいこと役割分担をして責任の所在をあいまいにしていると私は感じました」
「ですが、目立った損傷はもちろん小さな傷さえもほとんどないピカピカのGSFを40万円で解体業者が買い取るというのもおかしな話です」(Kさん)
盗難車と知って購入した?
KさんのGSFと全く同じ仕様のクルマを持つオーナーであり、Kさんの友人であるAさんは盗まれたGSFの捜索やヤードの特定などに尽力した。Aさんは怒りをあらわにする。
「出品されているパーツを見てもおかしいと感じます。普通、解体業者に持ち込まれるクルマは事故で大破してフロントがつぶれているとか、リアがつぶれているとか、左右どちらかに大きな損傷があるとか……そういう個体ですよね? ですが、出品されているクルマのパーツを見ると全部揃ってるんですよ。全くきれいな状態で。しかも、盗難車とわからないための偽装工作でしょうか? わざとらしく擦り傷などを付けた痕跡もありました。そしてこのクルマは当然、車台番号の部分も削られているんですよ。1000万円以上するクルマなのに購入価格は40万円。誰が考えてもおかしいでしょう。盗難車と疑わない方がおかしい」
三重県では「ヤード条例」が施行されている
なお、三重県では2021年10月1日から全国の都道府県で5番目となる通称「ヤード条例」が施行されている。
三重県での呼称は「盗難自動車の解体及び輸出の防止等に関する条例」とされており、愛知や千葉などのヤード条例とは異なり条例名に「盗難」(盗難という言葉をヤード条例に使ったのは愛知県が初)のほかに唯一「輸出」の2文字が使用されている。
概要を紹介しておこう。
・取引相手の確認→引き取る自動車が盗難自動車の疑いがある場合は、警察官に申告しなければならない。
・自動車の保管命令→警察本部長又は警察署長は、引き取られた自動車が盗難の疑いがある場合には、その自動車などの保管を命令できる。
・土地貸付者に対する勧告→公安委員会は盗難自動車が引き取られていると認めるときは、土地又は建物の貸付者に対し、必要な措置をとるように勧告できる。
なお、これらの命令に従わない場合や違反をした場合には30万円以下の罰金をはじめとした罰則も適用される。
自動車窃盗は非常に罪が軽い
関係者の話によるとすでに自動車解体業者に40万円で売った相手もわかっているようで全容が明らかになるのも時間も問題かもしれない。
ただ、自動車窃盗は非常に罪が軽い。何度も罪を重ねる窃盗犯も少なくない。
その価値が全くわからない窃盗犯によって愛するクルマを盗まれ、切り刻まれて海外に密輸されたり、ネットオークションに出品されたり……オーナーはもちろん周囲の人々を悲しみのどん底に落とす卑劣な犯行である。
もう少し、重大な罪として罰することが検討されても良いのではないか? と筆者は思う。
また、犯罪の温床となっているオークションを運営する業者も捜査に協力的であるべきだし、盗品を簡単に換金できないシステムを構築すべきだと思う。
KさんやAさんの話では、今回もヤフオクからの協力はゼロだったとのこと。
実際、これまでの例をみてもオークション業者からはほとんど有効な協力は得られない。犯罪者はやりたい放題である。
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何が善意の第三者だよ。共犯だろ。