■人もクルマも第一印象での決めつけは良くない!
ごくたまに、第一印象がものすごく芳しくない人と出会うことありませんか。だけど、一緒に時間を過ごしているうちに、“あれ?私、意外とこの人のこと好きなのかも……”なんて、触れあえば印象が180度好転することも、ままあります。
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筆者(今井優杏)は普段、クルマに乗り倒し、評論をするという仕事に就いているために、なるべくフラットな気持ちでクルマに向かい、第一印象だけで判断しないように心がけてはいるのですが、三菱の新型「デリカD:5」のエクステリアデザインには、さすがにギョっとさせられました。
先代までの地に足の着いた、朴訥とした雰囲気は見事に一掃され……いや一掃というレベルをはるか上方で裏切って、さらに反対側のアカン方に振り切ってしまっています。
“うわーチャラくなったな!”それが正直な感想。高校球児がプロ野球に入った瞬間、いきなり金髪に染めてシルバーアクセをジャラつかせるようになってしまった、そんな感じでしょうか。
しかし、結論から言えばこの外観への印象は試乗が終わったその瞬間、好印象に入れ替わりました。このえげつない外観に包まれたその中身は、道なき道を切り拓いてきた、まごうかたなき三菱のクルマそのものです。
実に、愚直なほどに作り込まれて信頼感が高いという、走りへのこだわりが凝縮されていました。むしろ先代よりもスッキリと洗練され、一般道想定のクローズド・コースからハードなオフロードまで、試乗シーンのどの領域でも「エクセレント!”と声が出るほどのモノでした。正直、ミニバンでこれほどの楽しさ、運転への手応えを備えているモデルは、他に類を見ないと断言してもいいです。
誤解しないで欲しいのは、この走りの方向性が、きちんと『ファミリーカーとしてのミニバン』という基本的な性格を守った上で成立している、まさにぬる湯の温泉みたくじんわりと伝わる“いいクルマ感”を叶えているということ。走らせて楽しいのに、サスペンションもトルクの出し方も、きちんと乗員みんなに優しいのですからビックリしました。
まず、新型「デリカD:5」のパワートレーンは、2.2リッターディーゼルエンジン専用車で、駆動はすべて4WD仕様。これは、2012年以降、三菱「デリカD:5」購入層の実に9割が4WDのディーゼルを求めるという結果に因るものです。
注目は、三菱の乗用車で初めて採用された、「尿素SCRシステム」。これは、排ガス処理システムの方法の一つなのですが、特性として燃焼の際にNOx(窒素化合物)が出るディーゼルエンジンの排気ガスをきれいにする技術で、マフラーから排出する前の段階で排気と尿素を化学反応させ浄化するというものなのですが、三菱はすでに商用車などでこの技術に対する実績もあり、システム自体への信頼度は非常に高くなっています。
この「尿素SCRシステム」のメリットは、燃焼ではなく、後処理でNOxを処理するために、エンジンの美味しいところをすべて走行にそのまま使えるところ。逆にデメリットは尿素(アドブルー)を1万から2万キロ、だいたいオイル交換と同じような時期で交換しなければいけない点です。さらに尿素タンクを備えなければいけないために、コンパクトカーに搭載することが出来ない、などという点が挙げられます。
欧州系大型ディーゼル車には、すでにお馴染みのものですが、逆に言えば走りを重視するドイツ勢がこぞって採用しているシステムとも言えます。そのため、トルク、パワーともに“爽快極まりない!”ディーゼルの美味しいところ、ディーゼルの気持ちよさを100%享受できるうえ、エンジンサウンドも心地良いです。
新型「デリカD:5」の開発エンジニア曰く、「このサウンドもまた尿素SCRで、エンジンのオイシイところを使える副産物」と話しています。
■飛躍的に向上した走行性能や全体質感
新型「デリカD:5」は、ステアリングが油圧式から電動式に変更になりました。この操舵感も抜群で、すごく軽やかなのに、きっちりとラインをトレースできるという絶妙に正確なもので、思わず唸ってしまいます。
これら以外にもさまざまな改良によって、トルクたっぷりのためアクセルペダルを踏むのも軽やか、さらにステアリングも軽やかな操作感となります。
そのため、女性の私でも運転にストレスがない。しかも、“ただ軽けりゃ良い”みたいな国産ミニバンにありがちなふわふわした遊びの多いタイプとは根本から違っていて、操舵の正確性は抜群ですから、週末は奥様が運転されることの多いミニバンでも、きっと先代みたいに『操作が重い』なんてクレームは皆無だと思われます。
サスペンションも穏やかなロールを活かすモノで、この辺はさすが四駆造りにかけてのスペシャリスト・三菱の腕の見せ所。むろん、旦那さまが週末に運転されるときは、最高のパフォーマンスであらゆる道を走破してくれるでしょう。
この「デリカD:5」が他社ミニバンと一線を画するところは、三菱の技術の粋が結集されている四輪駆動技術のおかげで、ミニバンなのに、完全に一輪が宙に浮いちゃうレベルの荒れたオフロードまでをいとも簡単に走破してしまうところにあります。
新型では、「オート4WD」モードの守備範囲がブレーキベクタリングまでを網羅し、よりハードな路面にも対応できる「4WDロック」モードを選択しなくても、走破できるシーンが増えているのもポイントです。
この走行モードは、シフトノブのそばに備えられえたダイヤルで走行中でも簡単に操作でき、普段は燃費にもやさしい2WDも選べます。
そのため、試乗が終わって「デリカD:5」から降り、このエクステリアを改めて見直したときには“実に押し出し感のある、いいデザインじゃないの”と、自分でも白々しいほど手のひらを返してしまう結果となりました。
『中身が良いと、ルックスも良く見える』その典型例です。あるいは、半日一緒に過ごしている間に「慣れた」のかもしれませんけれども、まあどちらにせよこのクルマ、食わず嫌いするのはかなりモッタイナイ。
先代から飛躍的に向上した、質感の高いクオリティや完成度も素晴らしいので、“えーマユツバ!”と思っている人ほど、実際に試乗してみて欲しいなと思います。 【了】
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