タイヤを履いた芸術品
「最高の一流品を生み出す」。現在メルセデス・ベンツの高級車専用サブブランドとして名を残すマイバッハは、いまから100年前、この言葉とともに誕生した。
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その語り手は、ヴィルヘルム・マイバッハとその息子であるカール・マイバッハ。彼らは1921年9月にベルリンの自動車ショーで「マイバッハ 22/70 HP(W3)」を発表している。
飛行船ツェッペリン号や鉄道用のエンジンを製造していたマイバッハ・モトーレンバウGmbH(エンジン製造会社)にとって、W3は初の量産車であった。当時のドイツ車として初めて4輪ブレーキを搭載し、6気筒エンジンに遊星歯車を用いたギヤボックスを組み合わせ、内装には豪華な木材やレザーをふんだんに使用。あたかも「タイヤを履いた芸術品」のような1台だった。
20年で約1800台を生産
続いて1926年には27/120hp(W3)を、1929年にタイプ12を、そして1939年にはツェッペリン DS7、DS8をリリース。“ダブルM”のトレードマークを掲げたマイバッハ製モデルは、ロールス・ロイスやベントレー、イソッタ-フラスキーニといった錚々たる名門ブランドに並ぶ高級車としてのステイタスを確立していった。
その後、W6(1931年)、SW38(1936年)、SW42(1940年)を投入したが、SW42の生産が第二次世界大戦中の1941年に停止したことを受けて、マイバッハ車の歴史は20年で一旦幕を閉じることになる。累計生産台数はおよそ1800台であった。
1969年に一旦消えた「マイバッハ」の名
終戦までに、生産設備の70%は砲撃により破壊され、辛うじて残った部分もフランス占領軍によって解体。1947年~1951年、カール・マイバッハはパリ近郊でフランス政府のために戦車用エンジンの製造へ従事していたという。
1949年、マイバッハ・モトーレンバウGmbHは活動を再開。当初は船舶や列車用のディーゼルエンジンの開発・製造に着手した。1952年~1960年の間に幾度かオーナーが変わったものの、結局1966年にメルセデス・ベンツ モトーレンバウGmbHと合併。マイバッハ メルセデス・ベンツ モトーレンバウGmbHが誕生する。1969年にはMTU(Motoren-und Turbinen-Union)フリードリヒスハーフェンに改称。マイバッハの名がついに消えることになる。
見事に演出された壮大な復活劇
2002年、ダイムラー・クライスラー(当時)はかつての高級ブランドの名を復活させる。“ダブルM”のエンブレムを掲げたマイバッハ「57」及び「62」は鳴り物入りで登場。ドイツ・ジンデルフィンゲン工場から出荷したばかりのマイバッハを豪華客船「クイーンエリザベス2世」号に載せて大西洋を横断、マンハッタンの桟橋からヘリコプターでウォール街のイベント会場までデリバリーする、という壮大な演出の発表イベントは大きな話題を呼んだ。
ダイムラーは2012年にマイバッハブランドの廃止・生産終了を決定したものの、“ダブルM”は死ななかった。2014年のLAショーでメルセデス・ベンツはサブブランドとしてその名を復活させたのである。まさしく不死鳥と呼びたくなる復活劇であった。
マイバッハの名を冠したピュアEVを予告
現在、マイバッハ仕様は最新型のSクラス、そしてSUVファミリーの長兄GLSにラインナップされている(日本未導入)。そして、マイバッハという生ける伝説は、100周年という記念すべき節目を迎えた2021年に再び新しい一歩を踏み出す模様。すなわち、完全電気自動車の導入である。
マイバッハ初のピュアEVについては、リリースに「details will be revealed in the coming month=詳細は今後数ヵ月のうちに明らかにされる」とだけ書かれている。先般発表したばかりの“EV版Sクラス”、EQSのマイバッハ仕様となるのか。はたまた官能的デザインで話題をさらったコンセプトカー「ビジョン メルセデス-マイバッハ6」の実車化か。公式からの発表を期待して待ちたい。
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