タクシードライバーがクラウンを懇願することも
日産はNV200タクシーの生産を終了し、日本国内でのタクシー専用車(営業車)はトヨタJPNタクシーのみとなった。法人タクシーはクラウンセダンやクラウンコンフォート、Y31セドリック、NV200タクシーなどから順次JPNタクシーに入れ替えるかと思いきや、なかなか“日本全国JPNタクシー化”は進んでいない。
利用者からの不満が噴出! トヨタがJPNタクシーの車いす乗降機能を改良
本来ならば、そろそろ発売直後に導入した、おもに東京都内の大手事業者で使っているJPNタクシーが入れ替えで中古車市場に放出され、それを地方のタクシー会社が購入して“JPNタクシー化”を進めるといったプランだったのだが、新型コロナウイルス感染拡大により、タクシー需要の低迷がタクシー事業者を直撃。車両については稼働日数が極端に少なくなり、東京隣接県のタクシーでも年間で1万kmほど走行距離が減ったとの声も聞いている。そのため、車両の入れ替え次期を先延ばしにする動きが目立っているのである。
そのようなかでも、相変わらず“アンチJPNタクシー派”事業者も多く、中古車で良質なクラウンセダンやクラウンコンフォートが奪い合いとなっている。
ここまでは、ざっとタクシー業界の近況をお伝えしたが、法人タクシーは事実上JPNタクシーのみとなっているものの、法人タクシーの一部や個人タクシーではバラエティに富んだタクシー車両が使われている。それでもトヨタ車が多いのはなぜだろうか?
まず個人タクシーで圧倒的に多いのがクラウンコンフォートやコンフォートベースのクラウンセダンではない、一般ユーザー向けのクラウン。法人タクシーでもハイヤー部門のある事業者では、ハイヤーで使ったあとにタクシーとして使用されることが多い。
かつてのクラウンセダンベースのタクシー(コンフォートベースではない)や、クラウンコンフォートは“走行距離50万kmまではメンテナンスフリー”ともいわれた、オイルなどの油脂類交換などはもちろん頻繁に行わなければならないが、50万km以内なら致命的な故障がまず発生しないということになるようだ。
かつてY31セドリックタクシーに乗務していたA氏によると、「あくまで私の経験ですが、走行距離が15万kmぐらいになると、ミッション(AT)が滑り出す車両が目立ちました。また、20万kmぐらいから計器盤などの照明ランプ切れが起きます。最初は空調操作部分から始まり、さらに計器盤の半分が切れ、全部切れてしまう車両もありました。夜間の運転ではスピードメーターが良く見えない車両も多く、勘で走っていました。シートもすぐに座面がペシャンコになるので、座布団などを敷かないと、帰ってきた時にしばらく歩けないこともありました」とのこと。A氏の勤務先ではY31のみだったので、クラウンコンフォートに替えて欲しいという声も多かったとのこと。
メンテナンスのしやすさもクラウンが選ばれる理由
クラウンセダンやクラウンコンフォートの“50万kmメンテナンスフリー”に対し、一般向けのクラウンも個人タクシーやハイヤー、企業の役員送迎需要があるので、「走行距離30万kmまでは手間がかからず乗れるように」と設計されているといわれている。そのため、耐久性という観点でタクシー専用車に近いクラウンが選ばれるのである。
また、タクシーとして使用している場合、たとえば誤って自損事故でドアに損害を与えてしまったとしても、新品のドアパネルに交換ということはまずしない、ドア以外でもリビルトパーツを使い、コスト削減や修理時間の短縮(新品は取り寄せなどで時間かかりやすい)をはかるのである。そうなると、タクシーとして多く使われているクルマの方ほうが、リビルトパーツも豊富に出まわっているので、便利ということもあるのだ。
最近の新車ではヘッドライトがLED化されていたりするが、かつてハロゲン球や、リヤコンビランプは電球が主流だったころは、球切れが起きたら自分たちで交換しなければならなかった。その時の整備性などもタクシー車両として需要の多いクラウンでは、意識的に自家整備がしやすくなっていた。
つまり、長い間日本のタクシーのメイン車種として君臨していたクラウンにタクシー業界としては絶大な信頼を持っているのである。また、JPNタクシーをいまでもラインアップしているというのも大きい。つまり、タクシー業界とのパイプがいまもつながっているということである(タクシー車両の販売についてのノウハウが豊富)。
いまどきのメルセデス・ベンツ セダンは、中国市場をかなり意識し、最新型では乗り味やシートは昔に比べればソフトな印象を受けるが、少し前にEクラスのタクシーに乗った時に、「ベンツだと運転もラクでいいんじゃないですか」と聞くと、「ロング(長距離利用)のお客様を乗せ、高速道路を走った時はやはりいいですねえ。しかし、都内の一般道路を走っていると足まわりが“硬い”印象を強く受けますね。その点ではクラウンは日本の道路にあった足まわりにしていると改めて感じます」と話してくれた。60年近く日本のタクシー車両の代表として君臨してきたのは伊達ではないのだ。
そして、このクラウンの存在があるからこそ、実態はともかくとしても、トヨタ車全体へのドライバーの信頼感が厚く、もちろんディーラーのタクシー車両販売へのバックアップも充実していることもあり、クラウン以外のトヨタ車もタクシー車両として選ばれやすくなっているのではなかろうか。
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みんなのコメント
これができなかったあの会社は沈んでいった。