近年、売れているのは軽自動車にしてもSUVにしても、安全装備が優れていて燃費がいい、それに車内が広いような実用的なクルマ。しかし、クルマ好きにとっては、走りのよさ、特に操縦性のよさは重要なポイントだ。
とはいえ、そんな実用性ばかりが求められている今の時代に、“ハンドリング”を語るほどのクルマはあるのだろうか?
北米のIS500 F スポーツパフォーマンス発表で…… 中古レクサスIS Fの価格に動きあり!?
この疑問に「もちろんある!」と答えたのは自動車評論家の松田秀士氏。そこで、松田氏にハンドリングのいいクルマについてのポイントと、現行国産車で語るべきハンドリングを持つクルマを挙げてもらった。
文/松田秀士 写真/べストカー編集部、SUBARU
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■曲がるだけじゃない! 直進性もハンドリングの基本
ステアリングを正面から動かさない時はキチンと直進する、というのも立派なハンドリングの要素だ
今の時代にハンドリングを語るほどのクルマはあるのか? というのが今回のお題。
世間一般で最も販売されているのが軽自動車、それにハイブリッド車、コンパクトカーなど使い勝手優先のモデルで、クルマもシロモノ家電化していると思われているのかも?
さらにEVになれば内燃機関のエンジンに代わって簡素なモーターが装備されるわけだし、EVが普及する将来には「クルマの価格は5分の1になる」とどこかの社長様のお言葉が最近あった。
こうなると、もうクルマはただ走るだけ。「ハンドリングなんて求めるほうがオカシイ」と考えられているように思えるのです。
いやいや、ちょっと待ってください。走るだけじゃマズいでしょ。ちゃんと真っ直ぐ走らないと。
しかし、このように考える人たちにとっては「真っ直ぐ走るって、あたりまえじゃない?」と思っているに違いない。タイヤさえ4つ付ければクルマは自然に直進するものだと考えていないだろうか?
ちゃんと真っ直ぐ走ること。実は、これがハンドリングの基本中の基本なのです。これ、そんなに簡単な話ではありません。
さらに言うと、しっかり真っ直ぐ走れるクルマはブレーキングもコーナリングも優れています。筆者がこれまで経験してきたレーシングカーも一般市販車もなにも変わりません。
もちろんここでの話は一般市販車。そのなかでも語るべきハンドリングのクルマはあるのか? ということで今手に入れることが可能な筆者がお薦めのクルマについてお話します。
■ハンドリングがいいクルマはサスペンションが上手に動く
ステアリング操作にしっかりと追従するには、四輪が路面を同圧力で押しつけているということが重要だ
その前に、「ハンドリングがいい」クルマにするためにはどのようなことが必要になるのでしょうか?
まず、路面の外乱(凸凹)に対してタイヤが常に路面をできるだけ同じ圧力で押しつけていることが重要です。
レーシングカーでは空力のダウンフォースなどがありますが、速度レンジの低い一般車では自車重もダウンフォースのひとつなので、しっかり路面にタイヤを押し付け続けることが安定性につながり、その結果直進性もよくなるのです。
つまりサスペンションがストレスなく上手に動くことが重要ですが、そのためにはサスペンションが柔らかいことが条件のように思えます。サスペンションが柔らかいと乗り心地もソフトになります。
しかし、柔らかいサスペンションは中高速のコーナリングでロールが大きくなり、またコーナリングでの荷重移動が遅くなるので不安定になりがちです。
乗り心地とハンドリングはこのように二律背反の関係にあるのです。
■ボディがしっかりとした高い剛性をもっていることも重要
レクサス ISは改良され、剛性が向上した。土台であるボディ剛性の高さはサスペンションの追従性の高さに繋がる
そして、さらにそのサスペンションの土台となるボディ剛性がしっかりしていることも重要です。シャシーやボディはほとんどのクルマで鉄ないしはアルミニウムという金属でできています。金属は必ずたわみます。
よく曲げ剛性、ねじり剛性などと呼ばれていて、メーカーは堅剛さをアピールしていますね。タイヤ→ホイール→ハブ→サスペンション→ボディと入力が伝わるなかで、ボディの変形が大きいようではサスペンションをしっかりコントロールできません。
つまり、いいハンドリングにはボディがしっかりしていること、サスペンションによってハンドリングと乗り心地の両立をしっかりさせることが重要です。すごく簡単に言ってしまうとそうになります。
ほかに最後に路面とコンタクトするタイヤが重要になりますが、ここでは省かせてもらいます。
ここではそんなことを踏まえて、ハンドリングのいい現在の国産車を挙げていきましょう。
■ハンドリングのいい国産現行モデル5車
●レクサス IS(改良新型)
改良されたレクサス ISは直進性が向上し、ハンドリングと乗り心地の良さを両立させている
レクサスISは現行モデルとなったのが2013年。3世代目となってからすでに8年の月日が流れた長寿モデルです。ではその8年前から現在のハンドリングだったかというと、そうではありません。
BMW3シリーズをベンチマークとして開発を進めてきた歴史があります。ベンチマークにしている以上、「いつまでたっても3シリーズを超えられないのでは?」という懸念も持っていました。
しかし、昨年(2020年)11月にビッグマイナーチェンジを行い大きく進化したのです。特に改良の成果を見たのがIS350とIS300のFスポーツモデル。今回のマイナーチェンジでIS350はFスポーツ専用モデルとなりました。
まず直進時の落ち着きが顕著です。そして前述したハンドリングと乗り心地の両立ができています。
ホイールをハブに締結するハブナットをハブボルトに変更して、ナットを廃したことによる軽量化とホイール穴の小径化、また締結力アップによって剛性アップを達成しています。この技術、今後のレクサス及びトヨタ車にも展開予定というから楽しみです。
●ホンダ N-WGN
軽自動車とは思えないハンドリングの良さをみせるホンダ N-WGN
ホンダ車は数年前からハンドリングと乗り心地を兼ね備えたモデルが多くなっています。しかし軽自動車はというと年々進化いてきていましたが、乗り心地はよくてもハンドリングがイマイチでした。
ところがこのN-WGNで驚くほど進化しています。サスペンションの初期の動きが素晴らしく、コーナリングで攻めても操舵が抜ける感触がほとんどありません。
また軽自動車初(?)となるテレスコピックも採用し、ドラポジにも積極的に進化させています。ロードノイズを含めた室内もとても静かで、軽自動車枠でよくここまで仕上げたと感心しますね。
●スバル レヴォーグ
新型になってステアリング操作への反応性が劇的に向上したスバル レヴォーグ
先代は硬くて硬くてどうしようもありませんでした。マイチェンで多少柔らかくなったのですがそのハンドリングを筆者は評価できませんでした。
しかし新型は生まれ変わった。スバルは操舵初期の応答性を重要視します。そこからサスペンションのストロークにつなげてくる連動性。ここにリズムを感じられるか、またそのリズムをドライバーの意思でコントロールできるか。この部分で素晴らしいクルマに仕上がっています。
●マツダ CX-8
3列シートを持つSUVでありながらマツダの理念のもとでハンドリングも良好なCX-8
3列シートのSUVはどちらかというと乗り心地重視に開発されています。しかしCX-8はマツダの「走る歓びの追及」という理念の基、ハンドリングもしっかりしています。
ステアリングを切りタイヤ荷重が増し、タイヤが潰れてゆく(変形すること)過程とサスペンションの動き、そしてブッシュ類の変形をトータルにコントロールしています。
そしてGVCプラスによるコーナー進入から出口でのトルク及びブレーキ介入によって、ドライバーに気付かせずに安定したハンドリングを達成しています。
●スズキ ソリオ
普段使いの速度域では驚くほど気持ちのいいハンドリングを味わえるスズキ ソリオ
驚きます! このコスパ。スズキ車は往々にしてお得感が高いですが、安かろう悪かろうは今やスズキに失礼! とソリオに乗れば理解できます。
このステアフィールの素直さ。新東名での120km/h走行時には意図的にパワステを直進状態に絞り込みすぎていることが気になりましたが、それ以下の速度域ではとても素直にサスペンションが動き、気持ちいいハンドリング。しかも安定感が高い。乗り心地もマルです。
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