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ベースはなに? トゥーリングが手がけたマセラティのカルトカーとは

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ベースはなに? トゥーリングが手がけたマセラティのカルトカーとは

■パフラヴィ国王がオーダーした特別なマセラティ

 2021年3月10日に競売締め切りとなったボナムズ社のオンライン限定オークション「Les Grandes Marques du Monde a Paris」に、1台の特別なマセラティが出品された。

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 それは、2018年のジュネーヴ・ショーにおいてワールドプレミアに供されたマセラティ「シャーディペルシャ(SCIADIPERSIA)」であった。ミラノ近郊ロー(Rho)に──実はあのザガートと同じ敷地内に──本拠を置くカロッツェリア&デザインスタジオ「トゥーリング・スーペルレッジェーラ(スーパーレッジェーラ)」が、マセラティ「グラントゥーリズモ」をベースとしてワンオフ製作したスペチアーレである。

●名門が国王のリクエストに応じて創った、歴史的名作がモチーフ

 イタリア・ミラノの「トゥーリング・スーペルレッジェーラ」は、1930-1950年代後半にかけて隆盛を極め、ピニンファリーナがその地位を得る以前には、イタリア・カロッツェリア業界の実質的盟主としても知られた名門である。

 1934年に国際特許を獲得した軽量ボディ構築法「スーペルレッジェーラ(スーパーレッジェーラ)」工法を用いた軽量かつ豪奢なボディで、第二次大戦前のアルファ ロメオを皮切りに、戦後はフェラーリやアストンマーティン、ランボルギーニなど名だたるスーパースポーツのボディ架装を担当した。

 とくにマセラティとのコラボレーション事業は成功をおさめ、初の量産モデル「3500GT」クーペモデルのボディ架装を一手に引き受けたほか、1959年から34台のみが製作された超弩級スーパースポーツ「5000GT」でも、3台の架装を担当することになった。

 マセラティのなかでもハイエンドのスペチアーレ的モデルとして企画された5000GTは、同社のレーシングスポーツカー「450S」直系となる、5リッターV型8気筒4カムシャフト+機械式インジェクションの驚異的なエンジンを搭載。フェラーリ「410/400スーパーアメリカ」の唯一のライバルに位置づけられ、この時代における世界でもっともゴージャスかつ高価なスーパースポーツ二大巨頭として君臨した。

 トゥーリング・スーペルレッジェーラは3台のマセラティ5000GTを手掛けたが、オリジナルとなった最初の1台はペルシャ、つまりイランのシャー(王)によって注文されたものであった。

 その輝かしい歴史とモチーフを21世紀のマセラティに投影したのが、新生トゥーリング・スーペルレッジェーラ謹製のマセラティ「シャーディペルシャ」なのだ。

 マセラティ「シャーディペルシャ」の車名に掲げられた「シャー(Scia)」とは、古代イランのササン朝で使われた王の称号。16-17世紀のサファヴィ朝で復活させ、その後のカージャール朝やパフラヴィ朝でも使用されたとのことである。

 そして、このクルマのモチーフとなったマセラティ5000GTを往年のトゥーリング・スーペルレッジェーラにオーダーしたのは、現時点におけるイラン最後の国王であるモハンマド・レザー・シャー・パフラヴィである。

「パフラヴィ2世」とも呼ばれるが、とくに1979年のイラン革命によって亡命を余儀なくされた時期の日本国内報道では「パーレビ国王」と呼ばれていたことを記憶している人も多いことだろう。

 彼は自動車愛好家としても知られ、1960-1970年代を通じてフェラーリの各モデルや「934ターボ」を含むポルシェ、そして、メーカー社内改装の「イオタ仕様ミウラ」(のちに俳優ニコラス・ケイジが所有した個体)などを特注でオーダーするほどの熱心さを見せた超級エンスージアストだった。

 このパフラヴィ2世が、エンスーの萌芽を示した1台こそがマセラティ5000GTトゥーリング・スーペルレッジェーラ製クーペだったともいえるようなのだ。

■ベースはマセラティ「グラントゥーリズモS」

 かつて栄華を極めた「トゥーリング・スーペルレッジェーラ」は、合理化を求める時代の波には抗えず、1966年に破綻した。

 しかし40年後の2006年になって、オランダの実業家などからの資本を得て、ミラノ郊外に復活。その新生トゥーリング・スーペルレッジェーラが、パフラヴィ国王のために製作されたマセラティ5000GTトゥーリング製クーペの伝説を現代に蘇らせた「シャーディペルシャ」は、グラントゥーリズモの高性能版である「グラントゥーリズモS」がベースとなる。

●2017 カロッツェリア トゥーリング・スーペルレッジェーラ「シャーディペルシャ」

 エンジンは、460psを発生する4.7リッターV型8気筒32バルブである。「MCシフト」と呼ばれるパドル式6速ロボタイズドMT、ないしはパドルシフトも可能なZF社製トルクコンバーター式6速ATのいずれかが組み合わせられることになっていたが、この個体の変速機について公式WEBカタログ内での言及はない。

 いずれにしても、スタンダードのグラントゥーリズモより約120kgも軽量化されたと標榜するシャーディペルシャは、推定最高速度299km/h、0-100km/h加速4.8秒と謳われていた。

 またインテリアについては、より豪華なイタリア製レザーで張り替えられるとともに、マット加工されたアルミニウム製トリムが与えられる程度で、グラントゥーリズモの基本スタイルは維持されている。

 しかし、ボディについてはドナーカーから大幅な変貌を果たし、往年のトゥーリング製5000GTの地を這うような3ボックスのシルエットに基づいて、かなりモダナイズされたスタイルに再デザインされているようだ。

 現在の「トゥーリング・スーペルレッジェーラ」は、2018年のシャーディペルシャの発表に際して、そのデザインコンセプトを示したという。

「すべての傑作と同様に、シャーディペルシャはシンプルなコンセプトからスタートしました。現代的なウェッジシェイプのボディは、視覚的なロング感を強調するためにセンターセクションをスリムなものとしました。その自然なダイナミズムは、フロントとリアフェンダーの稜線によってさらに強調されます」

 純粋な2ドアGTとしては特異な、完全な4シーターを実現したグラントゥーリズモの基本形を生かしながらも、広大なガラス張りルーフとスリムなリアピラーのおかげで、4人の乗客は周囲の景観をよりダイレクトに感じることができるだろう。

 トゥーリングが選んだ外装色は、東洋の澄んだ夜空を想起させる「オリエントナイト・スカイ」。これは、往年のマセラティの多くにペイントされた濃紺も連想させる。

 そして5000GTのノッチバック&スモールキャビン・スタイルを再現するために、ヘアライン加工アルミのアクセントパネルがCピラーをロールバー状に飾るほか、アルミ製の装飾はノーズとテールにも施され、偉大なオリジンへのデザイン上の回帰をアピールしている。

 トゥーリング・スーペルレッジェーラでは、オーナーのリクエストによって仕様に大きな違いが生ずることを予期して、新車価格の設定はおこなわなかった。すべては注文製作とされ、生産予定台数は15台しか計画されてなかった。

 現時点において限定シリーズは完売してはいるものの、クーペで受注・完成に至ったのはこの個体のみとのこと。ほかに「グランカブリオ」ベースのコンバーティブルの製作が進行中との情報もあるようだ。

●約3875万円まで入札されるも、落札には至らず

 今回「Les Grandes Marques du Monde a Paris」に出品された、マセラティ「シャーディペルシャ」は、2017年生産のグラントゥーリズモSをドナーカーとして製作・デリバリーされたのち、現在に至るまでワンオーナーである。現状での走行距離は1万1500km未満で、コンディションは新車同様とのことである。

 また、新車時には76万620ユーロで販売されたことを示す請求書や、2021年に100周年を迎えるイタリアのオーダーメイド専門レザーブランド「Foglizzo(フォリッツォ)1921」が、このクルマのために製作したラゲッジセットなども付属品として用意される。

 ボナムズ・オークション社では「イタリアのコーチビルダー最高のビッグネームのひとつが創り上げた、自動車デザインの傑作を所有する一生に一度の機会」という麗々しい宣伝フレーズとともに、38万ユーロ-58万ユーロ(邦貨換算約4900万-7500万円)のエスティメートを設定した。

 ところが、予想以上にビットは進まなかったようで、オンライン入札の最高額は締め切り前日となっても28万ユーロ。そして、入札の終わる3月10日午後(現地時刻)に30万ユーロ、日本円に換算すれば約3875万円までは到達したものの、現オーナーと示し合わせていた最低落札価格には至らず、その時点で「No Sale(流札)」となってしまった。

 ひと頃ならば、たとえ現代のモデルであってもこの種のワンオフ車ならば相当な高額で取り引きされる事例も多く、ある種の「投資」と見なされていたことは事実である。しかし、刻々と変容するマーケットにおいて、そのトレンドが恒久のものではないということを知らしめたと見るべきだろう。

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みんなのコメント

4件
  • 所有してたとされるポルシェ934ターボの方が高額落札になるような気がする。
    マセラティは超希少車だけど、みんなが欲しがるクルマなのかと言われると厳しいかもしれない。
  • マセラティのデザインセンスは流石。
    車の信頼性は残念。
    天は二物を与えず。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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