「日本の自動車ユーザーは、世界一高いレベルの税金を負担している」。2018年10月2日、トヨタ自動車の社長を務める豊田章男氏が、日本自動車工業会の会長としてコメントを発表した。
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「世界一高いレベルの税金」というのは、購入後の保有段階で納める自動車税と自動車重量税のことだ。この金額がイギリスの2.4倍、ドイツの2.8倍、米国の31倍に達するとしている。
これまでも日本の自動車関連税は高すぎると言われてきたが、自工会会長がハッキリと言及するのは異例なこと。では、どの税金をどのように変えることで負担を減らせるのか? 現状も踏まえつつ、ユーザー視点で日本の自動車税制について4つの提案をしたい。
文:渡辺陽一郎
写真:編集部
【1】“二重課税”でもあるガソリンに関わる税の廃止
日本の税金が「世界一高いレベル」とされる理由は、主に自動車税と自動車重量税が高いことに基づく。この2つの税金は高額だが、自動車に対する課税は、それだけにとどまらない。
まず、購入時に納める自動車取得税、購入時と継続車検時に納める自動車重量税、燃料価格に含まれるガソリン税/軽油取引税/石油税は、すべて道路の建設や整備に使う「道路特定財源」として設定された。
自動車ユーザーは道路の恩恵を多く受けるから、道路関連の費用も負担すべきという「受益者負担の原則」に基づいていた。
ところが道路特定財源制度は2009年に廃止され、すでに課税する根拠を失っている。それなのに今でも徴税が続き、一般財源として、幅広い用途に使われている。
つまり自動車ユーザーは、理由もないのに多額の税金を納めているわけだ。国による搾取で、違法性が伴うといっても大げさではない。
従って“元・道路特定財源”の自動車取得税、自動車重量税、ガソリン税/軽油取引税/石油税は、即座に廃止しなければならない。
これらの税金のうち、わかりにくいのがガソリン税を始めとする燃料に含まれる税金だ。
ガソリンには1L当たりガソリン税が53.8円、石油税が2.8円加算され、この2つの税金とガソリン本体価格に、8%の消費税を課している。税金に消費税を課すのだから、正真正銘の二重課税だ。
レギュラーガソリン1Lの価格は、2018年10月上旬時点で155円に高騰したが、ガソリン本体の価格はわずか86.92円だ。この金額にガソリン税:53.8円、石油税:2.8円、消費税:11.48円が上乗せされ、合計155円になる。つまりガソリン価格の内、44%は税金だ。
ガソリン価格が下がるとさらにその比率は増える。仮にガソリン価格が130円になると、税金は66.23円で、ガソリン価格に占める割合は50%を超える。
ディーゼル車が使う軽油の価格は、今は1L当たり134円だ。ガソリンと同様に計算すると、軽油本体の価格は91.55円になる。この金額に軽油取引税:32.1円、石油税:2.8円、消費税:7.55円が加わり合計134円になる。軽油価格に占める税金の割合は32%だ。
注目すべきはガソリンと軽油価格の違いだ。現時点でレギュラーガソリンの本体価格は86.92円だから、軽油の91.55円よりも安い。一般的にガソリンは価格が高く、軽油は安いとされるが、これはガソリン税が軽油取引税よりも高いことに基づく。本体価格は逆転してレギュラーガソリンが安い。
以上のように燃料に占める税金は法外に高く、しかも課税根拠がないから、即座に徴税を停止すべきだ。
【2】自動車税は“車齢”に応じて減額を
自動車税は排気量に応じて課税され、乗用車であれば1000cc以下が2万9500円、1001~1500ccが3万4500円、1501~2000ccが3万9500円。最も高い税額は6001cc以上で11万1000円だ。
自動車税は財産税に含まれる。宝石も財産なのに課税されず、自動車は対象に含めるのは、後者は使うことで利益を生み出すからだ。自動車を利用すれば効率の良い移動が可能となり、たくさん仕事ができてお金を稼げる。さらに高額の資産価値も備わるから、課税の対象にされた。
1958年までは「自転車・荷車税」もあり、文字通り自転車や荷車も課税の対象にされていた。これが今の軽自動車税に繋がったため、市町村税に含まれている(小型/普通車に課税される自動車税は都道府県税)。
しかし、上記の認識は今の自動車の現実とは掛け離れている。自動車は高額商品で税金の上では資産とされるが、今のユーザーにその認識は乏しい。実用的な移動のツールになっているからだ。
また「自動車を持てばお金を稼げる」のは一面の事実だが、年金で生活する高齢者が通院などのために自動車を所有することも多い。ここでの自動車は、生活必需品でライフラインの一種だ。
つまり、自動車を取り巻く使用環境の変化に、自動車税を含めた自動車関連の税制が追い付かず、実態と徴税の趣旨に隔たりが生じているのだ。
そして、自動車税は財産税だから、固定資産税などと同様、課税は資産価値に基づいて行われなければならない。
現状では流通価値が1万円の車両にも、年額3万9500円といった自動車税が課せられるが、徴税の趣旨に合わずユーザーも納得できない。実際には自動車重量税も車検の度に納めるから、自動車の価値を大幅に超えた税金を負担するユーザーも多い。
そうなると自動車税の徴税は、減価償却の考え方に基づいて行うべきだ。財産価値の高い購入直後には、2000ccエンジンを搭載した乗用車であれば年額3万9500円を納めても、時間の経過に従って自動車税を減額していくのが理屈に合う。軽自動車税も時間の経過に応じて減額すべきだ。
【3】矛盾多きエコカー減税の撤廃
今の自動車税制は激しい矛盾を抱える。
前述のように課税根拠を失った「元・道路特定財源」の自動車取得税・重量税を存続させながら、その一方ではエコカー減税も実施しているからだ。違法性を伴う徴税と減税が併存する。
ユーザーから見れば、国と自動車業界による搾取と受け取られる。不当な重税は自動車業界にとっても困るが、購入時にエコカー減税を実施すれば、自動車販売への悪影響は小さく抑えられるからだ。自動車ユーザーに重税を課しながら、国が自動車業界に配慮した形になっている。
特に今の自動車メーカーは、背の高い軽自動車やコンパクトカー、ミニバンなど、エンジン排気量の割にボディの重い車種を販売に力を入れる。
これらの車種は燃費基準を高水準で達成しやすく、エコカー減税にも適合させやすい。ハイブリッド車も含めて売りたい車種の多くが減税対象に入るから(2018年4/5月以降は少し減ったが)、メーカーにとってあまり痛手にならない。
そうなるとユーザーは、エコカー減税で購入時の税額は安く抑えられても、その後は、長い年月にわたって高額な税金を負担することになる。
さらに、前述のように燃料に含まれる税金も高額だ。その負担額はユーザーの使い方で異なるが、1年間に1万kmを走れば相当多額になる。つまり、自動車ユーザーの税負担は、購入時ではなく所有段階で最も重く課せられているのだ。
従って自動車業界が自動車関連の税金をユーザーの立場で考えるなら、エコカー減税の撤廃と“クルマを買った後”の税負担軽減を訴えるべきだ。「購入時の税額が少々高まり、自動車の売れ行きが一時的に下がってもそこは許容する」といった見方も不可欠になる。
所有段階での税負担を抑えない限り、自動車の需要を長期的に保つことは難しい。自動車業界は、短期的で都合の良い国と馴れ合う考え方は捨てるべきだ。
【4】古い自動車への増税廃止
今の自動車税制で最も問題なのは、13年を超えた車両に増税を課すことだ。増税は自動車重量税と自動車税、つまり購入後に納める税金の両方で行われる。
まずは自動車重量税だが、車重1300kgの小型/普通車の場合、継続車検時の重量税(2年分)は、エコカー減税車なら1万5000円だ。減税対象外の車種は「当分の間税率/道路特定財源時代の暫定税率」が適用され、2万4600円になる。
これだけでも高いのに、初度登録から13年を経過すると3万4200円に増税され、18年を経過すると3万7800円に達する。エコカー減税車(1万5000円)の2.5倍だ。
さらに自動車税/軽自動車税も、13年超で約20%の割増になる。2000ccエンジンを搭載する小型/普通乗用車の年額は3万9500円だが、13年を経過すると4万5400円だ。
古い自動車に対して増税する理由は「新しい自動車に乗り替えると環境性能が向上する」というものだが、古い車両を廃棄して新車を買うことがエコだとは限らない。車両の廃棄、新車の生産や流通も環境に負荷を与えて二酸化炭素を排出するからだ。
そして何よりも福祉に反する。古い車両を使う多くの人達は、新車の購入が難しく、仕方なく使い続けているからだ。そこから多額の税金を搾取したり、無理矢理新車に乗り替えさせるのは、国と自動車業界の共謀に基づく「弱い者イジメ」という見方も成り立つ。
「お年寄りを大切にしましょう。困っている人に優しくしましょう。モノは大切に使いましょう」
当たり前のことを忘れてしまったのだろうか。我々の大好きな自動車の世界には、相当な悪法がまかり通っている。
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