メルセデス・ベンツ S580(W223):メルセデス Sクラスは言わずと知れたメルセデス・ベンツの最高の安全性能を誇るトップレンジを担う高級セダン。穿った見方をすると「社長のクルマ」「上がりのクルマ」「クルマ好きが積極的に選ぶクルマではない」というのがSクラスだ。ところが、Sクラスは極めて優れたスポーツセダンだった!
現行のSクラスは8年の時を経て2021年にW222からバトンタッチした。日本に上陸して間もなく試乗した時には、運転支援機能ばかりに目がいったのと、キープコンセプト的な外観のイメージもあって「やっぱりSクラスってすごいね」程度で全体的には印象が薄かったという記憶がある。
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今回は、とあるクラシックメルセデスの権威を東京から御殿場方面のイベント会場にアテンドするという大役を仰せつかり、ショーファーとして会場へ向かった。日曜日ということもあり、東名高速の渋滞を覚悟していたのだが、拍子抜けするほど空いていたこともあり、現地に2時間ほど早く着いてしまった。そこで、急遽ショーファーからテスターに変身して、箱根のワインディングロードでのSクラスの走りを堪能することができたという、理想的なテスト走行をすることができたのは嬉しい誤算だった。
さらに大きくなったSクラス
それではSクラスをチェックしていこう。S580 4MATIC(ISG搭載モデル)のスリーサイズは5210mm×1930mm×1505mmでホイールベース3105mmだ。先代よりも92mm長く、31mm幅広く、9mm高い。約10センチ長くなった分はほとんど後席にあてられている。
“高級車”という言い方が私は嫌いなのだが、テスト車にはオプションの“レザーエクスクルーシブパッケージ”が装備されていて、明らかに良い素材が使われていることがわかる。特にマキアートベージュという名前のインテリアカラーが高級感を高めている。そしてそのお値段は96万円だ。ここだけ見ても“高級車”という言い方が正しいと思い知らされた。高級車のインテリアはベージュ(タン)に限る。また、スマートキーがずっしりと重いのには驚かされた。
V8万歳!
S580のパワートレインは、最高出力503PS、最大トルク700Nmの4リッターV8ツインターボエンジン「M176」に、20PS、208Nmの電気モーター「ISG」を組み合わせた48Vマイルドハイブリッドシステムだ。トランスミッションは9速ATである。「ISG」が働いていることを直接感じることはできなかったが、街中での低速走行時の静粛性、シフトショックの無い変速に貢献する黒子的な存在なのだと理解する。さらにV8特有の、またAMGのような「V8サウンド」は聞こえてこない。
意のままにドライブできる快感
S580は車重が2トンを大きく超える2190kgの重量級である。月並みな言い方になってしまうが、実際に運転すると、二回りほど小さいクルマに乗っているようだ。比較的に小径のステアリングホイールは大げさだが、その気にさせてくれる。そして自然なステアリング、適度なスロットルレスポンス、強力なストッピングパワーがもたらすトータルパフォーマンスの高さは明らかにEクラスよりも洗練されたものであることが感じ取れる。
コーナリングでは、シートのサイドサポートが自動的に動いて体が無駄に動かないように支えてくれる。これが秀逸で、積極的に攻められるし、体力の消耗を低減してくれる。意外と運転中に上半身は動き、筋肉を使って体を支えていることを実感した。直進性の悪いクルマを運転するとハンドルの修正作業で疲労することは知っていたが、運転中は結構体全体の筋肉を使っているのであった。そのハンドリングの良さを司るのが、AIRマティックサスペンションだ。路面のアンジュレーションに対する追従性が高く、突き上げ感がまったくない。柔らかすぎず、硬すぎない乗り心地だ。S580には大径、極太のBS TURANZAがセットされていたが、完璧に履きこなしている。タイヤの相性も良い。ただ、敢えて消していないのだと思えるほどロードノイズが入ってくるのが意外だった。不思議だったのは、メルセデスには滅法うるさい後席の住人はロードノイズが気にならなかったと言っていたことだ。この辺りのチューニングは見事で、ドライバーには運転していることを認識させる必要な情報を与えて、パッセンジャーには快適に過ごすことができるようにしているというわけだ。
高い安全性能
メルセデス・ベンツが第一に安全性に重点を置いていることはこれまでも色々な形でお伝えしているが、メルセデスが掲げる安全性はクラスそれぞれのアプローチがある。当然Sクラスは、メルセデスの威厳をかけた集大成なので、S580にも最新の安全技術が搭載されている。衝突回避システム、歩行者検知、自動運転支援、インフォテインメントシステムなどが含まれる。
標準装備の「リア・アクスルステアリング」は都市部を主な住処にするSクラスには必要不可欠である。車速が60km/h以下の場合は前輪と逆方向に最大4.5°、60km/hを超えると前輪と同じ方向に最大3°操舵する。このおかげで回転半径が5.4mとなり、細い道での走行が楽に、駐車の容易性が高まるなど利便性が良くなる。
真夏の炎天下を230kmほど走った燃費は、カタログ上のWLTCモードの数値とまったく同じ8.8km/lであった。行きは空いた高速道路をゆっくり流し、帰りは渋滞にはまるという行程だったが、燃費は走行パターンに左右されない方のようだ。
S580の非の打ち所がないまでのパワートレイン、シャシー性能、ハンドリング性能、快適性、優れたパッケージングからなる高いトータルパフォーマンスこそが安全性につながるということを今回のテストで体感することができた。運転していて退屈になるクルマも世の中には存在する。しかしS580のような運転することが楽しくなるクルマ、楽しいから運転に集中できるクルマこそが安全性の高いクルマであって、つまりドライバーの安全性を高めることこそがクルマの安全性を高めることにつながる、という言い方ができるのではないだろうか。
取材協力:MVCJ メルセデスベンツ ベテランクラブ リストランテ 桜鏡 https://sakurakagami.com/
Text&Photo:アウトビルトジャパン
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