F1チームには多数の人々が関わり、さまざまな職種が存在する。この連載では、普段は注目を浴びる機会が少ないチームメンバーに焦点を当て、その人物の果たす役割と人となりを紹介していく。今回は、フェラーリのシニア・ソーシャルメディア&コンテンツ・マネージャー、ジョシュ・クルーズに焦点を当てた。
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【F1チームを支える人々:ピート・クローラ/ハース】全体をまとめる“接着剤”的役割を果たすチームマネージャー
F1チームにおいてここ数年に急速に拡大しているエリアのひとつは、マシン開発やレース運営とは異なる、コンテンツ部門である。今のF1では、チーム自体が、出版社や放送局のように、積極的に情報を発信するようになってきている。
バーニー・エクレストンがF1のCEOから退任し、リバティ・メディアがF1商業権を引き継いで以来、このエリアに大きな投資が行われるようになった。リバディは、メディア企業として、ソーシャルメディアの価値を重視し、F1が新たな若い視聴者にリーチしてファンベースを拡大することにそれがどのように貢献するかについて理解していた。
リバティはチームが制作および提供できるコンテンツに関して、自由度を拡大し、それにより、チームのソーシャルメディア部門が急速に成長した。その進化の中心として活躍しているチームメンバーが何人かいる。
そのひとりが、フェラーリのジョシュ・クルーズだ。彼は、オーストラリア・メルボルンのラ・トローブ大学でスポーツジャーナリストとしての学習をし、モータースポーツ界で働くことに強い興味を持った。しかし、オーストラリア在住だと、飛行機で7時間以内の地域で開催されるグランプリは1年に1回しかなく、仕事の機会は豊富ではない。そこで彼は最初のころは、フリーランスのジャーナリストとしての活動に加えて、個人トレーナーなど、他の仕事を組み合わせていた。
その後、ゆっくりとはしごを上り始めた彼は、母国オーストラリアを含む複数のグランプリを取材することができるようになり、それを通して、業界内のネットワークを築き、人脈を広げることができた。『Racecar Engineering』、『Grand Prix Plus』、『RACER』などの出版メディアから仕事を得るようになり、より頻繁に現地取材ができるようになってきた彼だが、それでもできる限りヨーロッパを拠点にして、予算を維持する必要があった。
フリーランスのジャーナリストとして数シーズン懸命に働き、定期的にパドックに出入りしているうちに、チームで仕事をする機会がめぐってきた。アルファタウリの前身トロロッソは、コミュニケーションおよびマーケティング部門のサポートを必要としており、彼はデジタルプロデューサーの仕事を引き受け、コミュニケーションの責任も負うことになり、ファエンツェに移り住んだ。
当時のF1では、デジタルコンテンツ担当者が他の仕事と兼任するのが普通のことだった。チームはアウトプットを増やしたいと考えていたが、そのためにフルタイムで誰かを専任で雇う余裕はなく、コンテンツを他の役職を担う人々に割り振っていたのだ。最も典型的なパターンとして、広報担当者がチームのTwitter(現X)アカウントを管理していた。しかしその後、状況が変化して、現在ではソーシャルメディア・マネージャーが常設されるようになった。
クルーズも、徐々にデジタルコンテンツに集中することができるようになり、ビデオ制作やソーシャルメディアチャンネルの運営にあたり、アルファタウリのポッドキャストの立ち上げに取り組み、そこでドライバーやトレーナーを紹介するということも行った。
彼の仕事は注目を集めた。そして、小規模チームよりも速いペースでこの分野への投資を増やしていたビッグチームからオファーが届いた。それがフェラーリだった。
フェラーリはすでにアルファロメオからペドロ・セブリアンをコンテンツ&ソーシャルメディア責任者として採用しており、彼はこの部門にクルーズを加えたいと考えた。クルーズはマラネロのオファーを受け、2023年の夏にフェラーリに移籍、シニア・ソーシャルメディア&コンテンツ・マネージャーに就任した。
ドライバーとファンの距離を縮めるという彼の仕事は大きな成功を収めた。さらに、ドライバーからの信頼が厚いことは、アルファタウリでのラストグランプリで角田裕毅が無線で彼に感謝の言葉を捧げたことからも分かる。角田はカナダGPでフィニッシュした直後、無線で「ジョシュ、数年間ありがとう。フェラーリでの成功を祈っているよ」と声をかけた。角田はクルーズを「親友」と呼んでおり、ふたりは非常に親しい間柄にあるようだ。
コンテンツチームは、ドライバーのことをファンによく知ってもらうための仕事をするなかで、ドライバーたちと非常に多くの時間を過ごす。それによって、両者の関係が深まるのだろう。
フェラーリに移ったクルーズは、少しずつ有名になりつつある。チームのソーシャルメディア投稿において新記録を樹立したり、フェラーリとレッドブルの楽しいステッカーバトルの動画にも登場している。
とはいえ、彼を含め、デジタル担当者がメディアに登場する機会はほとんどない。彼らはチームの内側から、詳細でパーソナルな映像やコンテンツを外部に向けて発信することであり、クルーズはフェラーリのその分野において大きな貢献をすることを目指している。
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