アウディのミドルクラス・ステーションワゴン「A6アヴァント」の超ハイパフォーマンス・ヴァージョンの「RS6アヴァント」に小川フミオが試乗した。ノーマルとの違いとは?
まるでスーパースポーツカー
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600psという驚異的なパワーを誇るアウディ・RS6アヴァントに試乗した。「アウディ・ラインナップにおける究極のハイパフォーマンス・シリーズ」(アウディ・ジャパン)と、うたわれるモデルだ。
外見は4ドアのステーションワゴンであるものの、4.0リッターV型8気筒ガソリンターボ・エンジンとフルタイム4WDシステムを組み合わせて、スーパースポーツカーのような加速を味わわせてくれる。
一見フツウでいて、じつは速い。いわゆる”羊の皮をかぶった狼”というのが、アウディRSシリーズの魅力なのだ。1994年にポルシェの協力の下に開発したスポーツワゴン「RS2」が、高性能と、ユニークなコンセプトでもって衝撃を与えていらい、RSモデルは着実にファンを増やしてきた。
ただし、”羊”といっても、今回のRS6アヴァントは、大型エアダムや22インチの大径ホイールに超扁平タイヤなど、あまりおとなしそうには見えない。グロスブラック仕上げの「3Dハニカム構造」シングルフレームグリルもすごみを効かせるのに、ひと役買っている。
305km/hの凄み
2020年11月に発表され、2021年1月に発売開始されたRS6アヴァント。最大の魅力は、実用性とスポーツ性の両立にある。SUVが市場のトレンドで、高性能車の分野でもSUV車型が人気を集めるなか、アウディがステーションワゴン型のRS6アヴァントを作ってくれているのは、自動車好きにはうれしいかぎり。
なぜって、ステーションワゴン車型はセダンと同様、車高が低いぶんボディの長さが強調されて流麗に見えるし、快適性が高いというメリットもあるからだ。
かつ、さきに触れたとおり、フツウに見えてうんと速いのは、自動車愛好家にとってある種の美学が感じられるのだ。
じっさいに、RS6アヴァントは期待以上に速い。ちょっとスポーティなモデルかな? と、思って乗ると、頭が後ろにのけぞるような加速が味わえる。
通常のA6アヴァントより速いモデルが欲しいひとには、450psの2.9リッターV型6気筒ガソリンターボ搭載の「S6アヴァント」がある。それ以上を求めるひとのためのモデルだ。
441kW(600ps)という最高出力とともに、800Nmという太いトルクを2050rpmから発生。走り出しから駿足ぶりを発揮する。昨今のドイツの大排気量車の例にもれず、マイルド・ハイブリッド・システムが採用されていて、ごく低回転域では電気モーターが駆動軸を駆動し、トルクを積みましてくれる。これが効いているのか、走りはじめから高速まで、切れ目なく加速する。
試乗車にはオプションで、305km/hのスピードリミッターがそなわっていた。まさに、そんな速度域までずっと加速していきそうな印象だ。電子制御ダンパーを組み込んだ「RSアダプティブエアサスペンション」システムが、車体を地面に押しつけるように働いているのだろう。安定感も特筆ものだ。
ヤル気のあるドライバー向けのクルマ
私がいいなぁ、と、思ったのは、ロケットのような加速というより、どんどんトルクが積み上がっていくかんじにある。アクセルペダルを踏んでいると(右足にそう力を入れていなくても)速度が伸びていく。どこまでも速度が伸びていく感覚は、たいへん気分がよい。
クルマに振りまわされず、自分が“爽快である”と、思う速度域でのドライブが楽しめる。乗ったのはエア・サスペンション装着モデルなので、高速コーナーでもすばらしく安定していた。ゆっくりでもいいし、とばしていても、痛快なコーナリングが楽しめる。短いトラベル(ストローク)で効くブレーキにも、さすが高性能車と感心させられる。
RS6アヴァントは、最大5°、後輪を操舵する4輪操舵システムもそなえているので、コーナーの大きさに関係なく、すいすいと曲がっていく。小さなコーナーだろうとお手のものだ。ボディロールはしっかり抑えつつ、ノーズがきゅっと内側を向く。前輪が切れているのと逆位相に後輪が向くことで、瞬間、ホイールベースが短くなったのと同じ効果が生まれる。巨人の手が車体をつかんで、ぐーっとクルマの向きを変えてくれるような、軽快といえる身のこなしだ。
エンジントルクは、どこからでもどんっと出るので、コーナリング中も、アクセルペダルによる微妙な速度コントロールをじつにやりやすい。もちろん、いちばん感心するのはコーナーから脱出時。ぽんっと踏むと、コーナーの出口に向かって飛び出していく。駆動方式は「クワトロ」というフルタイム四輪駆動で、セルフロッキングディファレンシャルと、リアスポーツディファレンシャルが組み込んである。完全にヤル気のあるドライバー向けのクルマだ。
もうひとつ、おもしろかったのが、加速中のエンジン・サウンドだ。ノイズでなく、意図的に作り込まれた、たとえていうなら楽器が奏でる音(ノート)のような、気持ちよさなのだ。もちろん、ピアノではない。小気味よい炸裂音が、室内に満ちる。
ハニカムパターンのステッチが入ったバケットタイプのシートにからだをあずけ、太いグリップのステアリング・ホイールを握る。
そして、アクセルペダルを一定に踏んだまま加速していくと、ギアがシフトアップしていくに連れて、このサウンドが微妙に変化していく。ドライバ−の気分を昂揚させるたいへんみごとな演出だ。
価格は1764万円。ステーションワゴンのかたちをした、ぜいたくなスポーツカー。ほかにはなかなか見当たらない存在感のあるクルマが欲しいなら、これしかない。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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