無視できないほど成長した高性能SUV市場
グレートブリテン島北部、スコットランドの風光明媚なドライブルートへ1歩を踏み出す。アストン マーティンとフェラーリの「SUV」による直接対決など、数年前までは誰も想像し得なかった。
【画像】ドライバーズSUV頂上対決 フェラーリ・プロサングエ アストンDBX707 812 コンペティツィオーネとDB12も 全126枚
この戦いは、少し一方的なものになりそうだが、2倍近い価格差を知れば納得もできる。安価な方でも、筆者には現実離れした金額ではあるけれど。
お借りしたフェラーリ・プロサングエは、約41万1000ポンド(約7603万円)に達していた。それでも、3年分の注文が寄せられているという。株主の懐を暖めることは間違いないが、技術者の血の滲むような努力の賜物であることも明らかだ。
フェラーリには、稀に自らの優位性を証明しなければならない場面がやってくる。1994年には、V8エンジンをミドシップした348に対し、初代ホンダNSXが台頭した。それに応戦するため、F355が導き出された。
だが今回は、特定の脅威にさらされたわけではない。高性能SUVの市場が、フェラーリも無視できないほど成長したのだ。ビジネスとして、プロサングエが必要になったといえる。シリアスな姿勢を貫き続ける、マラネロ渾身のSUVが生まれた。
一切の手抜きはない。パワートレインは、ローマが搭載する3.9L V8ツインターボではなく、812スーパーファストと同じ自然吸気の6.5L V型12気筒。
若干デチューンされているものの、最高出力は725psもある。V12エンジンの搭載が発表されると、プロサングエに対する関心は急激に高まったらしい。
他のSUVと一線を画すスタイリングの美しさ
豊満なパワーを伝えるのは、8速デュアルクラッチATの他に、フロント側にも2速ATが組まれる四輪駆動システム。大きなエンジンはシャシーの低い位置へ押し込まれ、前後の重量配分は49:51で理想値といえる。偶然にも、812スーパーファストと同値だ。
対峙するアストン マーティンDBX707は、54:46。ランボルギーニ・ウルスとポルシェ・カイエン・ターボGTは57:43。多くの高性能SUVへ紛れない、血統の違いが表れている。
ボディのねじり剛性は、実質的な先代モデル、GTC4 ルッソより30%も高い。アルミニウム製プラットフォームを基礎骨格とし、比較的低いルーフラインを備えつつ、電気的に制御される観音開きのサイドドアで、リアシートへのアクセスは悪くない。
スタイリングの美しさも、他のSUVと一線を画す。リアへ向けて上昇するウエストラインと、ふくよかに膨らんだリアフェンダー。ほのかにクラシカルな香りを漂わせつつ、フレッシュさに溢れている。
空力特性も磨かれている。フロントフェンダーには、F12 ベルリネッタでも採用された、エアロブリッジが与えられた。プロサングエでは、ダウンフォースを生み出すというより、ホイールアーチ内の圧力を逃し抵抗を減らす役割があるそうだ。
リアのホイールアーチ部分にも同様の処理がある。テールランプの下に、目立たないエアアウトレットが切られている。DBX707の巨大なディフューザーを、大げさに見せてしまうような、スマートな処理ではないだろうか。
走りのクラス王者として評価されるDBX707
鋭敏な身のこなしを叶える後輪操舵システムは、812 コンペティツィオーネの派生版。トルクベクタリング機能は、SF90 ストラダーレ由来だという。SUVでありながら、落とし込まれた技術は間違いない。
とりわけ注目したいのが、サスペンション。マルチマチック社製のダンパーが、独立して超高速で可変するため、アンチロールバーを不要としている。
電圧48Vで稼働するモーターと3枚のギアで、ダンパーのロッドが極めて正確に制御される。カートリッジ内のフルードは、冷却機能も果たすとか。このダンパーの価格は非公表だが、1本数万ポンド(数100万円)はするだろう。
いずれも、技術は確かなものばかり。とはいえ、それがドライビング体験で必ずしもプラスに働くとは限らない。
対するアストン マーティンDBX707を、AUTOCARでは走りのクラス王者として評価してきた。自然で直感的な操縦性が、操る楽しさを形成している。スタイリングもダイナミックだ。
DBX707も、独自に開発されたプラットフォームを基礎骨格とし、革新的な成り立ちにある。メルセデスAMG GT ブラックシリーズ譲りとなる、油圧ブッシュがサスペンションに組まれ、2基の高速ターボが4.0L V8エンジンに組まれている。
電子制御のリアデフは、AMG GT 63 S 4ドアクーペ由来。アクティブ・アンチロールバーとマルチチャンバー・エアサスペンションは、電圧48Vで制御される。ブレーキディスクはカーボンセラミックで、ボディにはエアロキットをまとう。
大きなフォルクスワーゲン・ゴルフRのよう
最高出力は707psに達し、最大トルクは4500rpmから、91.6kg-mが湧き出る。プロサングエは72.8kg-mとやや劣り、発生回転数も6250rpmと高い。
車重は、DBX707の方が少し重い。87Lのハイオクで満タンにすると、2278kgある。プロサングエは、100Lで満タンになり2247kgだ。0-100km/h加速は、3.1秒対3.3秒でDBX707の方が鋭い。最高速度は310km/hで並ぶ。
スコットランドのギャロウェイ・フォレストパークを貫くA712号線で、DBX707はすぐさま本領を発揮する。スーパーサルーンのような落ち着きの中で、驚くほど軽く、望ましい手応えを生むステアリングホイールを操る。
このステアリングラックの印象は、アルファ・ロメオ・ジュリア GTAと似ている。ボディロールは小さくないものの、しっかり制御されている。コーナーを巡るほど、罪深い喜びへハマっていく。
4.0L V8ツインターボが繰り出す、並外れたトルクにも夢中になる。右足へ力を込めると、笑ってしまうほど即座に、91.6kg-mが放出される。爆発するように。
加速は嵐のよう。フロントタイヤが僅かに傾いているだけで、リアタイヤはスライドしかける。知的なアウディRS Q8とは違ってワンパクさを隠さないが、操縦の調整域はSUVとしては例外的に広い。
2278kgと707psある、大きなフォルクスワーゲン・ゴルフRのように楽しめる。好きにならずにいられない。
インテリアも素晴らしい。インフォテインメント・システムは最新とはいえないが、内装は柔らかなレザーで包まれ、外光がふんだんに降り注ぎ、空間的にも余裕がある。
この続きは、フェラーリ vs アストン マーティン プロサングエはDBX707を超えるか(2)にて。
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みんなのコメント
SUVにすれば、大半の我慢が解放されるが、そうなるとフェラーリにはならない。よく、「オシャレは我慢」なんて言葉があるが、フェラーリもそんな感じだよ。だからこそ、カッコよく艶があるわけだし。
過剰に重い車体に過剰な馬力のエンジンとか、無駄の極み。
そもそもこの手の車買う連中は沢山積む用と走り用で分けて複数台買う。
一台で済ませようって発想が貧乏臭い。