現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 「転売するだけで1億円の儲け」と言われたフェラーリF40の真相

ここから本文です

「転売するだけで1億円の儲け」と言われたフェラーリF40の真相

掲載 更新 58
「転売するだけで1億円の儲け」と言われたフェラーリF40の真相

バブル景気に踊らされた”走る不動産”

 日本が好景気に沸いた1980年代中盤、1台のスーパーカーがデビューする。そう、「フェラーリF40」である。

F1ドライバーでさえ乗りたくないと言わせたクルマは? 歴史を変えたスポーツカー5選

 1987年にフェラーリが創業40周年を記念して開発したリアミッドシップ、後輪駆動の2シータースポーツカーで、それまでのカタログ値ではなく、掛け値なしに”最高速300km/hオーバー”の実力を持つ公道最速のフェラーリだった。”Tipo F120A型”と呼ばれる2936ccの排気量を持つV8ツインターボエンジンは、最高出力478馬力を発生。公称ながら最高速度は324km/hとアナウンスされ、当初発表された生産台数は350台とも400台ともいわれた(最終的には約1300台が生産)。

 もちろん、誰でも簡単に購入できるものではなく、当時の輸入元である「コーンズ」が設定した4650万円という車両価格もそうであるが、選ばれたオーナーでなければ購入の権利が与えられなかったのも事実。少なくとも過去にディーラーからフェラーリを何台か購入した実績のある、マラネロ本社が認めたオーナーでなければオーダーリストに載ることさえできなかった。

 1987年7月21日、イタリアのマラネロで開かれたF40の発表会は、当時89歳になるエンツォ・フェラーリ自身が出席するという特別なものであった。参加できたのは、F40をオーダー済み、もしくは購入候補者としてディーラーから案内された人でなければならなかったという。イタリアはマラネロまでの交通費は、もちろん自腹だ。

 日本での上陸イベントは、1988年4月に伊豆までのツーリングという形で実施。フェラーリのオーナーが愛車を駆って多数参加し、その日舞台となった伊豆スカイラインは、さながらフェラーリの大名行列のようであった、と当時を知る自動車メディア関係者は証言してくれた。

 まったくの余談だが、イベントが開催されたのは4月19日(火)で、その模様を当時26日発売の自動車専門誌が掲載。現在のようなデジタルではなかった銀塩フィルムでの撮影と記事制作、雑誌印刷から店頭に並ぶまでの時間を考えれば、かなり驚異的なスピードでの掲載だったといえ、関係者の間では今でも語りぐさになっているそうだ。撮影した画像がスマホで数秒後にアップできる今とは隔世の差である。

F40の影響は他モデルの高騰化にもつながる

 日本の好景気、つまり折からのバブル期も重なって”簡単に購入できない”F40は、取引価格をグングンと上昇。ドイツやスイスでデリバリーされた個体があれば、たとえ倍の価格でも購入者は後を絶たず、輸入販売業者のウエイティングリストには何十人もの名が連なったという。最盛期、その価格は2億5000万円までになったといわれている。

 もちろん、先に購入できた幸運なオーナーは「転売するだけで1億円の儲け」といわれたが、それも大げさではなかった。ごく短期間のことではあったが、転売される度に値を上げ、多くのオーナーの懐を潤したのだ。

 そして、F40に引きずられるようにほかの銘柄も高騰する現象が巻き起こる。当時のラインアップといえば、180度/V12エンジンを搭載する「テスタロッサ」をフラッグシップに、V12エンジンをフロントに搭載した2+2の「412」、3.2リッターV8エンジンをリアミッドに横置きした2シーターモデルの「328」、同じくV8をリアに搭載した2+2の「モンディアル」というラインアップだったが、そのどれもが軒並み高価格で取引された。それは、いまでこそアメ車の一部に残る新車並行輸入販売業者の最盛期とも符合。当時はアメリカよりも圧倒的に欧州からの輸入が多かったのだ。

 例えば、フェラーリ・テスタロッサの1990年当時の価格は2580万円だったが、倍以上ともなる5000~6000万円で販売。程度にもよるが、中古車でも3000万円前後で取引された例が多かったと記憶している。

 しかしながらバブル崩壊後の相場は、イッ気に下落。特に”新車並行”は見向きもされずに店頭在庫となり、運が悪ければ業者の塩漬け物件に。スーパーカーを取り扱っていた中古車店の倒産や夜逃げが増えたのは当然である。1970年代後半のスーパーカーブーム後の需要の落ち込みを凌いだ(といっても、子供中心のブームだったので実害は少なかったらしい)、東京・目黒の老舗スーパーカーショップA社や、後にランボルギーニ正規輸入元となったJ社、東海地方で勢力を拡大し自動車専門誌に派手な広告を掲載していたI社も21世紀を待たずして消えてしまったのである。

 さきほどのテスタロッサについては、後継モデルの512TRやF512Mの登場もあって徐々に値を下げ、もっとも安いプライスでは800万円台まで下がりきった例もあった。

 いっぽうフェラーリの新車は、しかるべき従来のフェラーリコレクターに、正規ディーラーを通じて正規の価格で納車されていったので、それほど大きな影響はなかったと聞く。もちろんだ。正規ディーラーでフェラーリを購入する顧客に、プレミア価格は適用されることなどないからである。

 全世界の需要に対してフェラーリ社の生産が追いつかず、納期が通常よりもかかったという影響はあっただろうが、いってしまえば影響はその程度。割を食ったのは優良顧客とは到底呼べない、バブル景気に踊らされ、フェラーリを”動く不動産”と呼んだクルマを金融物件扱いした残念な人たちだったという、至極当たり前のオチである。

こんな記事も読まれています

【新車価格情報】輸入車 デビュー&改良情報(ダイジェスト)※2024年4月20日時点
【新車価格情報】輸入車 デビュー&改良情報(ダイジェスト)※2024年4月20日時点
カー・アンド・ドライバー
【ゴールデンウィーク渋滞予測2024】混雑を避けて移動したい! 道路別・渋滞予測まとめ
【ゴールデンウィーク渋滞予測2024】混雑を避けて移動したい! 道路別・渋滞予測まとめ
くるくら
最近聞かない「水抜き剤入れますか?」のセリフ! なぜ勧められなくなった? 昔はよく声掛けられたのに…なぜ?
最近聞かない「水抜き剤入れますか?」のセリフ! なぜ勧められなくなった? 昔はよく声掛けられたのに…なぜ?
くるまのニュース
修理代を請求されることはある? 教習所で転倒してしまった場合の責任の所在
修理代を請求されることはある? 教習所で転倒してしまった場合の責任の所在
バイクのニュース
MINIに新種『エースマン』登場、航続406kmのEV…北京モーターショー2024
MINIに新種『エースマン』登場、航続406kmのEV…北京モーターショー2024
レスポンス
GW渋滞、京滋バイパス・阪和道・近畿道・西名阪道・京都縦貫道のピークはいつ?【ゴールデンウィーク渋滞予測2024】
GW渋滞、京滋バイパス・阪和道・近畿道・西名阪道・京都縦貫道のピークはいつ?【ゴールデンウィーク渋滞予測2024】
くるくら
ヨコハマタイヤ 日本のスーパーフォミュラマシンを使った無人自動運転レースにアドバンタイヤを供給
ヨコハマタイヤ 日本のスーパーフォミュラマシンを使った無人自動運転レースにアドバンタイヤを供給
Auto Prove
EVけん引役の米テスラ、4年ぶりの減収減益で“大騒ぎ”[新聞ウォッチ]
EVけん引役の米テスラ、4年ぶりの減収減益で“大騒ぎ”[新聞ウォッチ]
レスポンス
日産ではない日産車? 本格4WD「謎のSUV」発表!新型「パラディン」って? 手掛ける鄭州日産、中国で誕生
日産ではない日産車? 本格4WD「謎のSUV」発表!新型「パラディン」って? 手掛ける鄭州日産、中国で誕生
くるまのニュース
スバル『レガシィ』セダン、2025年春に生産終了へ…電動化への移行を反映
スバル『レガシィ』セダン、2025年春に生産終了へ…電動化への移行を反映
レスポンス
ホンダ・WR-V vs ライバル ~ヤリス クロス/CX-3/クロスビー etc.~
ホンダ・WR-V vs ライバル ~ヤリス クロス/CX-3/クロスビー etc.~
グーネット
日産 リビングと車内がシームレスにつながるNissan ConnectにGoogleを搭載
日産 リビングと車内がシームレスにつながるNissan ConnectにGoogleを搭載
Auto Prove
【MotoGP】MotoGPの人気復活にはシュワンツのような男がいる? 大注目の新人アコスタ、“個性”あるライダーの必要性感じる
【MotoGP】MotoGPの人気復活にはシュワンツのような男がいる? 大注目の新人アコスタ、“個性”あるライダーの必要性感じる
motorsport.com 日本版
最大渋滞40km!? 東北道の「GW渋滞地獄」回避するコツは? 鬼門の「羽生PA」 実はけっこうある「意外と空いてる時間帯」は一体いつなのか
最大渋滞40km!? 東北道の「GW渋滞地獄」回避するコツは? 鬼門の「羽生PA」 実はけっこうある「意外と空いてる時間帯」は一体いつなのか
くるまのニュース
ヤマハの電アシ「PAS SION-U」 低床U型フレーム採用車の2024年モデル発売
ヤマハの電アシ「PAS SION-U」 低床U型フレーム採用車の2024年モデル発売
バイクのニュース
スマート第3のモデルはオフロード電動SUVに、航続550km…北京モーターショー2024に展示予定
スマート第3のモデルはオフロード電動SUVに、航続550km…北京モーターショー2024に展示予定
レスポンス
2シーズン目が始まる「フォーミュラ・ジムカーナ」! 「大学の自動車部対抗競技」をなぜ大企業が支援するのか?
2シーズン目が始まる「フォーミュラ・ジムカーナ」! 「大学の自動車部対抗競技」をなぜ大企業が支援するのか?
WEB CARTOP
ホンダが中国市場に投入する新型EVの「烨(yè:イエ)シリーズ」を発表
ホンダが中国市場に投入する新型EVの「烨(yè:イエ)シリーズ」を発表
カー・アンド・ドライバー

みんなのコメント

58件
  • F40はいつまで経ってもカッコイイ。
    ケン奥山がデザインしたエンツォとは大違い。
  • チェーン巻いて雪道走る動画見たらビックリしました!
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村