ポルシェのミドシップ・モデル「718ボクスター/ケイマン」に、自然吸気の4.0リッターエンジン搭載モデル「GTS 4.0」が設定された。ひと足さきにスペインで試乗した河村康彦のリポート。
今や2.0リッターが主流のボクスター/ケイマン
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走りのパフォーマンス向上と使用する燃料の削減を同時に実現する――とくに明文化されているわけではないものの、要はそうした内容を「インテリジェントパフォーマンス」なるフレーズを使って、ポルシェが自車の高効率ぶりをアピールするようになってから久しい。
「カイエン」や「パナメーラ」に設定されたハイブリッド・バージョン(ガソリンエンジン+モーター)はもちろんのこと、ブランドの礎である「911シリーズ」は、GT3を除くすべてのモデルがターボ化されたのも、インテリジェントパフォーマンスのためだ。
“718”のサブネームを与えられた現行「ボクスター」と「ケイマン」にいたっては、ターボチャージャーにくわえ、2気筒レス化にまで踏み込む徹底ぶりである。
その理由には、マーケティング上の狙いもあるようだ。現在、世界最大の自動車マーケットである中国は、日本とおなじくエンジン排気量を基準とした課税制度が取り入れられている。2.0リッター以下の場合、税制上、優遇されるという。
「そういえば最近、”立派なボディに2.0リッターのエンジン”という組み合わせのモデルが少なくないナ」と、思いあたる人は多いと思うが、その多くは”中国狙い”と、判断してもあながち誤りではない。
911では、ベースグレードとSグレードにおなじ排気量を採用する一方、718ボクスター/ケイマンはSグレードの2.5リッターに対し、ベースグレードは2.0リッターである。2.0リッターモデルの投入によって購入のハードルを下げ、中国ではまだ一般化していないスポーツカー市場で覇権を勝ち取りたい、というポルシェの思いが見え隠れする。
現行911カレラ系エンジンがベース
とはいえ、ポルシェは従来のファンも忘れていないようだ。強大なスペックの心臓を搭載する「GTS」を投入したのだ。
正式には「GTS 4.0」という。シート背後に搭載されたエンジンは、ボクスター/ケイマン史上最大の排気量、4.0リッターだ。そんなキャパシティにして最大トルク値が420Nmという点からも察しが付くように、このエンジンは過給システム未装着。
実はこのエンジン、現行911カレラ系のエンジンからターボチャージャーを取り去った上で、排気量を拡大したユニットなのだ。
ちなみに、そんな自然吸気水平対向6気筒ユニットには”出典”があって、102.0×81.5mmというボア×ストローク値や、3995ccの排気量、13.0の高い圧縮比や直噴システムなどは、いずれも前年にローンチした718スパイダー/ケイマンGT4用に搭載されたエンジンと共通のスペックであるのだ。
とはいえすべてが同じというわけではなく、最高出力は20psダウンしているし、レブリミットも200rpmダウンの7800rpmになっている。おそらくマーケティング上のヒエラルキーを明確にするための”忖度”とも考えられる数字だ。ポルシェ・ラインナップのなかにあって。いわゆる”GT系”と位置付けられるモータースポーツ部門が開発したスパイダーやGT4は、サーキット・ユースにも主眼を置いた別格の扱い。それに対しGTSは、高いスポーツ性を追求しつつもあくまでもストリート・ユース主眼のカタログモデルだから、立ち位置が明確に異なるのだ。
日常でも楽しめるフラット6
2020年2月にポルトガルでおこなわれた国際試乗会では、一般道をボクスターで、サーキットをケイマンでテストドライブした。
さすがに”史上最大排気量”のエンジンを搭載するゆえ、スタート直後からの太いトルクが印象的だ。アイドリング状態からのクラッチ・ミートも難なくこなし、緩加速シーンであれば1→3→5→6速といった”飛ばし”のシフト操作も楽々と受け付けてくれる。現段階では6速MTのみの設定であるが、シフトフィールはなんとも秀逸。「AT限定の免許条件を解除してでも乗る価値のあるMT」であることをあらためて付けくわえておきたい。
Rossen Gargolov有り余るパワーの持ち主ゆえ、街乗りシーンではせいぜい2500rpmもまわせばすべてが事足りてしまいそうであるが、嬉しいのはそうした日常の領域であっても、6気筒エンジンならではの甘美なフィーリングを味わえることだ。すなわち、舞台を日本の都会へ移しても、このエンジンのメリットは十分味わえるに違いない。
GTSグレードのフットワークは、ある程度のサーキット・ドライブを想定したに違いないスポーティなセッティングである。ただし今回、テストドライブをおこなったボクスターには、よりストリートユースにフォーカスしたサスペンション・システム(オプション)が組み合わされていた。
そのため、ストローク感に富んだフットワークのテイストで、なんとも上質で快適。それでいながら、ワインディング・セッションではミドシップ・ロードスターならではともいえる、鋭い切れ味と俊敏さが特徴のハンドリングを楽しめるのは、痛快そのものだ。
Rossen Gargolov高速クルージング時の高い安定性は、ポルシェのミドシップモデルの美点だ。一方、これまでのボクスター/ケイマンと異なるのは、時折耳に入るこもり音である。これは、エンジンが3気筒を休止させる”省燃費運転”をおこなう場面で感じられた。
率直なところ、それはもちろん好ましいと思える現象ではなかったものの、担当エンジニアが「1km走行あたりのCO2排出量を最大11g削減できるこの機構を採用したから、自然吸気の6気筒エンジンを復活出来た」と述べたのを聴くと、これも止むなしである、と、思えたのも事実。
ただし、アイドルストップ機構をオフにすれば気筒休止機能は解除されるそうだ。環境にはよくないかもしれないが。
Rossen Gargolovサーキット走行の醍醐味
GTS4.0は、街乗りシーンで大変好ましい印象を抱いた。が、より好ましい印象を高めたのは、ケイマンによるサーキット走行だ。
試乗車は、セラミックコンポジット・ブレーキやフルバケットシートなど、より”走り”にフォーカスしたオプションを装着したモデル。試乗車のサスペンションはGTS本来の標準仕様で、ロード・テストで乗ったボクスターよりも10mmローダウンされていた。
ピットロードを抜けてアクセルペダルを床まで踏み込む。エンジン回転にリンクして周波数を高める澄んだサウンドが実に官能的。端的に言って、その”エモーショナル度数”は4気筒ターボの従来型とは比べようがない。GTSグレードを選ぶ多くの人は4.0リッターユニットに魅力を感じるはずだ。
GT4用ユニットに比べ、最高出力は20ps低い。が、正直なところ両者に大きな差があるとは感じられない。それほどにパワフルで、かつシャープ。そしてエモーショナル……筆者がこのエンジンに、心から贈りたくなるフレーズだ。
Rossen GargolovRossen Gargolov史上最大の4.0リッターという大排気量エンジンを搭載したモデルであるものの、車両トータルとしてのバランス感覚を微塵も崩していない点にも感心した。
際立つ動力性能に対し、ブレーキ性能も十分以上。前述のオプションのセラミックコンポジット・ブレーキの減速力は強靭そのもの。もちろんミドシップ・レイアウトのアドバンテージもあって、ブレーキペダルに力を込めるほどに路面へと沈み込むよう急速に速度を落とす様が快感だ。
あいにくセミウェットの路面状況ながら、躊躇なくアクセルペダルを踏みます気にさせてくれた高い安定感も、走りのバランスの良さを証明した。
いずれにしても、ストリートでもサーキットでも“ポルシェのミドシップ・モデル史上最高の傑作”と、評するに抵抗のない存在――それがGTS4.0だった。
Rossen Gargolov文・河村康彦
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