バルセロナでのF1テストが終了した。長年ステップドフロアーだったF1だが、今シーズンからは大きなダウンフォースが得られるグランド・エフェクトカー(ウイングカー)になり、抜きつ抜かれつのレースが多くなると期待されている。しかし、グランド・エフェクトカー特有の問題も出てきた。この3日間のテストではどんなことが見えてきたか、元F1メカニックの津川哲夫氏に解説していただいた。
文/津川哲夫、写真/Ferrari,Mercedes,Redbull,McLaren
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■レッドブルRB18は3番手、C5を履いたメルセデスAMGがトップタイム
2022年、新時代F1が動き出した。バルセロナテストではこれまでの発表で使われてきたFIAフレームから変わって、一気に実戦マシンの登場だ。もちろんまだまだ本戦用ではないのだが、どのチームもまだ手探りなのでテストへの真剣度が例年以上だ。
ハミルトンが貫禄の総合トップタイム。しかし、C4を履いたペレスとはコンマ4秒。C5スーパーソフトで出したタイムとしてはちょっと物足りないか
テストを終って見ればメルセデスが速い。もちろんトップはハミルトンだが、2番手にはラッセルがしっかりと付いている。ただし両名とも抜きん出ているわけではなく、C5(スーパーソフト)タイヤを使ったことを考えれば極端に他より速いわけではないのだ。それでも初日から3日目へと、右肩上がりでセットアップを纏めてくる巧みさはメルセデスの真骨頂だ。
とはいえ、今回のバルセロナは事実上シェイクダウンテスト。各チームまだタイムアタックには本気ではないのだから、ラップタイムをあてにしても勢力図は見えてこない。
今回のテストで、今シーズンからの新世代F1マシンには幾つかの問題が露見した。長年ステップドフロアーでここまで来たF1だが、今シーズンからはベンチュリーフロア、つまりウイングカーが認められている。
ベンチュリーフロアはウイングカー故に大きなダウンフォースを作り出す。これに前後のウイングからのダウンフォースを加えてコーナリング速度がかなり上がったという。これには大きくワイドになった18インチタイヤからの影響も大きい。
大きなダウンフォースは車速が上がれば上がるほど大きくなるので、ダウンフォースの最大値はストレートでのトップスピード達成時が最も大きい。実際バルセロナのストレートは比較的長いので大きなダウンフォースが発生する。
■各マシンでポーポシングという問題が発生
今回ストレートを中心に各チームともポーポシングといわれる上下のバウンシング、まるでバスケットボールのドリブルの様な上下動が起きていた。
なかでもメルセデスやフェラーリが大きかったようだが、他チームも多かれ少なかれ同様のポーポシングに見舞われていた。画面を見てもマシンのバウンシングでドライバーの身体や頭が酷く上下に動いている姿が多く見られた。
グラウンド・エフェクトカーになったことで発生するポーポイズ現象。フェラーリも例がなく悩まされていた
ポーポシングの原因は幾つかあるが、今回はベンチュリーフロアからの問題だったようだ。速度が上がりベンチュリー効果で大きなダウンフォースが発生し、車体を路面に強く押下げる。その結果フロア下面が路面と接触し、その瞬間床下空気流が遮断され、ダウンフォースを失ってしまう。ダウンフォースが無くなると車体を抑える力が弱まるので、スプリングが車体を押し戻し車高が上がり床下空気流を獲得する。これで再びダウンフォースを得て、またもや路面に接触するまで車高を下げてしまう。この繰り返しがポーポシングを生み出すのだ。
これもベンチュリーフロアのダウンフォース発生効率の高いマシンほど起りやすいと考えれば、メルセデスやフェラーリのベンチュリーフロアはかなり攻め込んでいるとも考えられる。
しかしポーポシングが起きていても大きなダウンフォースはコーリング速度を上げているし、新規則ではレース中のコンボイ走行で前後のマシンが接近してもエアロ的不安定さは少なくなり、これまでは前車の作る乱流が収束するまで3秒ほどかかっていたのが、バルセロナでは1秒ほどにまで縮まっている。最終コーナーを1秒以内の差で通過できれば、ストレートへの立ち上がりで離されること無くより効果的にDRSを使えて追い越しが楽になるというわけだ。
ポーポシングの問題はエアロなので、サスペンションのセッティングで路面と床の関係を制御すれば解決出来る。実際今回のテストでもハードスプリングを使ったチームもあったし、プレロードの調整でライドハイトを上げることでも対処出来るはずだ。
■新しくなった18インチタイヤ。各チーム&ドライバーの印象は?
18インチタイヤも性能向上と耐久力を増した設計がされた、というのはピレリのコメントだが、実際内圧が昨年よりも3psi前後低い設定がされて、いわゆる正常値に近く、グリップ性能の向上に繋がっている。タイヤのショルダー部が狭くかつ強化されたことで、ハイグリップながら神経質な性格になるのではと思われたが、内圧の低下がこれを若干相殺してくれたようだ。
18インチ化でハイグリップになり、コーナリング速度がかなり上がったようだ
それでも13インチよりもシャープな動き、とはドライバーのコメントだ。
面白いのは多くのチームでアンダーステアーが語られていること。昨年まではアンダーからオーバーステアーへの変化が急でスピンやオーバーランが見られ、リアタイヤのオーバーヒートも多々発生していた。まだ冬のバルセロナテストだけだが、ベンチュリーフロアでのダウンフォースが安定して大きく、この為リアタイヤのグリップが昨年よりかなり増しているという。従ってオーバーステアーへの変化は少なく、むしろリアの勝ったプッシュアンダー状態のようだ。ただし今シーズンのマシンは車重も増しているので、アンダーが出やすい傾向なのは確かだ。
■次のバーレーンでは本気のテスト。今から楽しみである
開幕戦までにセッティングが決まってくればコーナリング速度は増し、昨年よりも1秒落ちなどの予想はすぐに書き換えられてしまいそうだ。
今回、まだ手探りのバルセロナテストだったが、これから開幕戦に向けてセットアップの徹底解析とさらなる開発が続けられる。開幕前のバーレーンテストでは、いよいよ今シーズンのマシン群の全容が見えてきそうだ。
津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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みんなのコメント
同じホンダユニットでも日本人には勝たせないだろうね〜