■ミウラは、少年がいくら背伸びしても敵わない恋敵のシンボルである
1970年代初頭の欧米、ことにフランスやイタリアでは「年上の美女にハイティーンの少年が恋をする……」というプロットの映画が、まさに一大ムーブメントのごとく多数製作された。
イオタの幻影、ミウラSVJ1号車がポロストリコでフルレストア完了
ほろ苦くも爽やかな失恋物語から、イタリアの『青い体験』シリーズに代表される、ちょっとセクシーなコメディに至るまでさまざまな作品が製作され、世界中の少年たちをときめかせたものだ。
1968年のフランス映画『個人授業』は、まさにそのブームの火つけ役になった一本と言えよう。そして、この映画で重要な役割を果たすとともに、銀幕に強烈なインパクトをもたらしたのが、ランボルギーニ・ミウラP400であった。
ルノー・ヴェルレー扮する18歳のオリヴィエは、パリの名門校に通うエリート高校生。ある日パリの街中にて、鮮やかな黄色のランボルギーニ・ミウラが立ち往生しているところに遭遇することになる。
ミウラを運転していたのは、ナタリー・ドロン演ずる若くて魅力的な女性フレデリク。異次元的なミウラと美しい女性の組み合わせに好奇心を覚えたオリヴィエは、渋滞の真っただ中でエンストしているミウラの運転席に乗り込み、プラグをカブらせていたV12エンジンを一発で始動することに成功。アマチュアラリーストである従兄から教わったというオリヴィエの運転技術を信用したフレデリクは、ミウラと自分を家まで送り届けてもらうことにする。
はじめは好奇心からフレデリクと知り合ったオリヴィエだったが、彼女の魅力に次第に惹かれていき、古典英語に精通した彼女から「個人教授」をしてもらうという理由をつけて、しばしば会うことになる。
フレデリクは、世界的なイタリア人レーシングドライバー、ロベール・オッセン演ずるエンリコ・フォンタナの恋人だった。世界中のレースを転戦するフォンタナとの関係に、寂しさを感じつつあったフレデリクは、次第にオリヴィエの気持ちに応えようとするのだが、ある事件を契機に、フォンタナのフレデリクに対する一途な想いを知ってしまったオリヴィエは、オリヴィエとの関係から自ら身を引くことになった……。
恋愛モノのストーリーとしては、当時でも既に使い古されたような物語ではあるが、恋愛映画のエキスパートとして活躍していたミシェル・ボワロン監督は、ヴェルレーの青臭い魅力を巧みに生かし、報われぬ恋に悩む少年の成長を、悲しくも軽妙に描いている。
また、アラン・ドロンの元夫人としても知られるナタリー・ドロンの、ちょっと中性的な美しさ。フランスのギャングムービー「フィルム・ノワール」には欠かせない存在だった悪役スター、ロベール・オッセンの渋い存在感。さらに、この時代のフランス映画では常連とも言うべき作曲家、フランシス・レイのBGMも相まって、ある種のスタイリッシュさも感じさせる佳作となっているのである。
●少年では太刀打ちできない大人の象徴
そしてこの作品において、あたかも映画の代名詞のごとく語られているのが、フォンタナの愛車として登場するランボルギーニ・ミウラである。シックなパリの街で、鮮やかな存在感をぶつけてくるミウラは、オリヴィエ少年にとってのフォンタナが、いくら背伸びしても敵わない壁のような存在であることを言外に示すシンボルとして描かれていたのだ。
ところで、冒頭でもお話しした「歳の差恋愛レッスン」映画の大ブームは、日本にも波及していた。その中でも特筆しておきたいのは、巨匠・市川昆監督が製作した『愛ふたたび』である。
実はこの映画の主演こそ『個人教授』のヒットにより、日本でも人気を博したヴェルレーその人なのだ。現代ならまだしも、40年以上もの時代を遡った当時。しかも遠く離れた東洋の日本にも少なからざる影響を与えた『個人授業』と、その作品中で絶大な存在感を示し、今なお日本の映画ファンの記憶にも刻まれているランボルギーニ・ミウラの偉大さを実感させる一例ともいえるかもしれない。
この作品とミウラの組み合わせは、1960~1970年代のヨーロッパ映画においては、重要なアイコンのひとつだったと思う。
●Lamborghini Miura P400
ランボルギーニ・ミウラP400
・生産年:1967年
・全長×全幅×全高:4360×1780×1080mm
1966年のジュネーブモーターショーで登場したミウラは、翌年市販車が販売され、1973年まで生産されることになる。大きくP400、P400S、P400SVの3区分に別れる。
●『個人教授』/La Lecon Particuliere
・公開年:1969年
・上映時間:83分
・監督:ミシェル・ボワロン
・脚本:クロード・ブリュレ、アネット・ワドマン、ミシェル・ボワロン
・出演:ナタリー・ドロン、ルノー・ヴェルレー、ロベール・オッセン
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みんなのコメント
イタリアやイギリス、アメリカ車は映画を引き立てる程のオーラを纏っているクルマがある。
日本は大量生産だから仕方無いか・・しかしチンクであっても主役に負けず、映画を引き立てよう。
これはセンスなのか・・
コロナに負けるな!