現在位置: carview! > ニュース > ニューモデル > 【進化を続けた伝説の1台】フェラーリ250テスタ・ロッサ ル・マンでの優勝 後編

ここから本文です

【進化を続けた伝説の1台】フェラーリ250テスタ・ロッサ ル・マンでの優勝 後編

掲載 更新
【進化を続けた伝説の1台】フェラーリ250テスタ・ロッサ ル・マンでの優勝 後編

シーズン優勝をかけた1960年のル・マン

text:James Mitchell(ジェームス・ミッチェル)

【画像】フェラーリ250テスタ・ロッサ 全29枚

photo:Luc Lacey(リュク・レーシー)

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)


1960年5月、シチリア島で開かれたタルガ・フロリオ。スタート後、1台のフェラーリ250テスタ・ロッサ(TR)がクラッシュし、シャシー番号0774の250テスタ・ロッサはチームをリードする状況となった。

ドライバーはクリフ・アリソンとリッチー・ギンサー。しかし、アリソンは一度3位にまで順位を上げるものの、ギンザーへ交代後にコースアウト。0774はレースをリタイアした。

1960年シーズンも常に焦点はル・マンに当てられていたが、その年は世界スポーツカー・チャンピオンシップの最終戦でもあり、一層気は抜けなかった。シーズンでポルシェに先行されていたフェラーリは、レースに勝つ必要があった。

1960年のル・マンには4台の250TRがエントリー。NARTのチームもバックアップで参戦した。ほかにも7台のプライベート・フェラーリが3.0LのGTクラスに参戦。参加車両55台のうち、12台が赤い跳ね馬という状況だった。

プライベート参加となったアストン マーティンDBR1と、新しいジャガーE2Aという強敵も加わっていた。シャシー番号0774は、ゼッケン11番を付け、オリビエ・ジャンドビアンとポール・フレールがドライブした。

ジム・クラークが運転するDBR1が最高のスタートを切るが、マセラティが追いつき、追うフェラーリとの差を広げた。最初の1時間で2位から6位を占める状態を作ったフェラーリ。2番手を走っていたマセラティはピット・インし、順位を大きく下げていた。

フェラーリの希望を託された0774

しかしフェラーリも、燃料系の不調で2台が脱落。フェラーリの希望はシャシー番号0774と、NARTから参戦していたテスタ・ロッサに託された。

フェラーリはピットインの合間に、雨からドライバーを守るレインドレンチ・ガラスを装備。大雨が降り出すタイミングも、味方につけた。

ジャンドビアンとフレールは0774をコース上に留め、日が沈んでからもレースをリード。雨が止むとレースは通常のペースを取り戻した。

翌日の午前中は快晴で、0774の250TRは順調にレースを運んだ。レーススタートして2時間後からゴールまで、見事に1位を守ったフェラーリ。遂に1960年のル・マンを制し、世界スポーツカー・チャンピオンシップの優勝を掴み取った。

シャシー番号0774には、もう1つレースが控えていた。フェラーリでオーバーホールされた250TRは、エレノア・フォン・ノイマンへと売却。フィル・ヒルのドライブで、1960年10月のアメリカ・リバーサイドでのレースに参加している。

そこには、いつものメンバーが待っていた。ロータス19モンテ・カルロに座るスターリング・モスに、エキュリー・エコッセのクーパー・モナコT59クライマックスに座るサルヴァドーリ。

ポルシェ718 RSKをドライブするのはヨアキム・ボニエで、ジャガーE2Aのコクピットにはジャック・ブラバムが着いた。優勝したのはマセラティ・ティーポ61をドライブしたビリー・クラウゼ。ヒルが走らせた250TRは7位と振るわなかった。

買い物の足となったル・マン・レーサー

1961年以降のシャシー番号0774、フェラーリ250テスタ・ロッサは静かな余生を過ごしてきた。いかに独創的なクルマだったのか、誇示するかのように。

当時のオーナー、フォン・ノイマンはしばらくして、250TRをテキサス州のローズバッド・レーシングチームへ売り渡した。エンジンは降ろされ、1963年にクラッシュしたロータス19のシャシーへと組まれた。

その後チームは解散し、フェラーリ製のV型12気筒エンジンは地元の大学へ寄贈。0774のシャシーはアイルランドに渡り、ベントレー3リッターと共に、英国のフェラーリ・コレクター、アンソニー・バンフォードが買い取った。

彼は250LMのエンジンを0774のシャシーに載せ、走れる状態にすると、コリン・クラブがオーナーとなった。クラブは4年間に渡ってレースに参加。1973年のル・マンのサポート・イベントにも参加している。

オーナーのコリン・クラブは当時、この250テスタ・ロッサを妻が買い物に使っていたことを、自慢気に話したという。スーパーマーケットの駐車場に、ル・マンで優勝したフェラーリが停まっていたのだ。

1977年になると、所有者はポール・パパラルドへと交代。彼はシャシー番号0774に、入手した本来の12気筒エンジンを載せ直した。そして1960年代のマシンとして完全なレストアを仕上げるべく、マラネロへクルマを届けた。

神々しい存在感を放つテスタ・ロッサ

250テスタ・ロッサが仕上がると、パパラルドは2004年まで、ヒストリックカーのレースやコンクール・イベントに定期的に参加した。そして現オーナーが、そのあとを継いでいる。

シャシー番号0774のフェラーリ250テスタ・ロッサは、2019年のグッドウッド・リバイバルにも姿を表している。積極的に世界中のイベントへ、かつてのル・マン・レーサーを出展している。

今回の取材は、温かい快晴に恵まれた。英国バイチェスター・ヘリテイジが所有する小さなテストコースをお借りした。時折、滑走路を横切るグライダーが見える。

斜め上方に開く小さなドアを開いて、青い布張りのシートへ腰を下ろす。テスタ・ロッサの車内へ座ると、包まれ感が強い。メーターは大きく、クリア。潜水艦の中から、違った世界を見渡しているようだ。

ドライビングポジションは快適。ペダルとステアリングホイール、シフトノブは、あって欲しい位置に、正しくレイアウトされている。

スターターボダンを押す。セルモーターは少し不安を感じるほど長く回り、12気筒が一斉に爆発を始めた。何というサウンドだろうか。神々しい存在感を放つテスタ・ロッサが、気高さを自負するかのようだ。

250テスタ・ロッサは、すでにウォームアップが終わっている。1速へ入れ、短いテクニカルコースへと赤いボディを進める。エンジンの吸気弁を大きく開けられるのは、1つだけある短いストレート。

フェラーリによるレース・プログラムの中心

トランスミッションにも驚かされた。軽快で扱いやすい、ロータスのものより少し重い。アストン マーティンのフィーリングにもにているが、充分にフルードの温度が上がると、重さは変わらないものの精度が増す。

9月のグッドウッドでオーナーにお会いした時、このテスタ・ロッサは見かけによらず運転が簡単だと聞いていた。当時のレーサーの超人的な持久力にも敬服するが、確かにテスタ・ロッサはドライバーに優しい。

とてもドライバー・フレンドリーで、速度が増しても気難しさが顔を出すこともない。クルマの状況のすべてを、シャシーを通じて教えてくれる。ドラマもなく落ち着いている。シンプルに運転すれば良い。

短いストレートでは、12気筒エンジンから賛美歌のような歌声が耳に届く。神につかえる聖歌隊が、精一杯合唱しているようだ。息を呑まずにはいられない。

1960年にル・マンを制したシャシー番号0774のフェラーリ250TR。エンツォ・フェラーリのレース・プログラムの中心にあったマシンは、この0774だといえる。

1950年代半ばの成功から、1960年代前半までの時間をかけて戦闘力を高めていった。小さな改良を繰り返し、優勝を掴めるマシンへと進化していったのだ。

フェラーリ250テスタ・ロッサこそ、モータースポーツ史の中で最も偉大な時代に誕生した、最も偉大なレーシングマシンの1台。卓越したワークス・レーシングチームが生み出した、伝説といって間違いないだろう。

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

ハコスカ!? マッスルカー!?「ちがいます」 “55歳”ミツオカ渾身の1台「M55」ついに発売 「SUVではないものを」
ハコスカ!? マッスルカー!?「ちがいます」 “55歳”ミツオカ渾身の1台「M55」ついに発売 「SUVではないものを」
乗りものニュース
スズキ、軽量アドベンチャー『Vストローム250SX』のカラーラインアップを変更。赤黄黒の3色展開に
スズキ、軽量アドベンチャー『Vストローム250SX』のカラーラインアップを変更。赤黄黒の3色展開に
AUTOSPORT web
元ハースのグロージャン、旧知の小松代表の仕事ぶりを支持「チームから最高の力を引き出した。誇りに思う」
元ハースのグロージャン、旧知の小松代表の仕事ぶりを支持「チームから最高の力を引き出した。誇りに思う」
AUTOSPORT web
本体35万円! ホンダの「“超”コンパクトスポーツカー」がスゴい! 全長3.4m×「600キロ切り」軽量ボディ! 画期的素材でめちゃ楽しそうな「現存1台」車とは
本体35万円! ホンダの「“超”コンパクトスポーツカー」がスゴい! 全長3.4m×「600キロ切り」軽量ボディ! 画期的素材でめちゃ楽しそうな「現存1台」車とは
くるまのニュース
リアウィンドウがない! ジャガー、新型EVの予告画像を初公開 12月2日正式発表予定
リアウィンドウがない! ジャガー、新型EVの予告画像を初公開 12月2日正式発表予定
AUTOCAR JAPAN
最近よく聞く「LFP」と「NMC」は全部同じ? EV用バッテリーの作り方、性能の違い
最近よく聞く「LFP」と「NMC」は全部同じ? EV用バッテリーの作り方、性能の違い
AUTOCAR JAPAN
アロンソのペナルティポイントはグリッド上で最多の8点。2025年序盤戦まで出場停止の回避が求められる
アロンソのペナルティポイントはグリッド上で最多の8点。2025年序盤戦まで出場停止の回避が求められる
AUTOSPORT web
「俺のオプカン~仙台場所~」初開催!「オープンカントリー」を愛する男性ユーザーが集まって工場見学…川畑真人選手のトークショーで大盛りあがり
「俺のオプカン~仙台場所~」初開催!「オープンカントリー」を愛する男性ユーザーが集まって工場見学…川畑真人選手のトークショーで大盛りあがり
Auto Messe Web
「ラリーのコースなのでトンネル工事を休止します」 名古屋‐飯田の大動脈 旧道がレース仕様に!
「ラリーのコースなのでトンネル工事を休止します」 名古屋‐飯田の大動脈 旧道がレース仕様に!
乗りものニュース
紫ボディはオーロラがモチーフ、中国ユーザーが求めた特別なインフィニティ…広州モーターショー2024
紫ボディはオーロラがモチーフ、中国ユーザーが求めた特別なインフィニティ…広州モーターショー2024
レスポンス
『頭文字D』愛が爆発。パンダカラーで登場のグリアジン、ラリージャパンで公道最速伝説を狙う
『頭文字D』愛が爆発。パンダカラーで登場のグリアジン、ラリージャパンで公道最速伝説を狙う
AUTOSPORT web
トヨタ勝田貴元、WRCラリージャパンDAY2は不運な後退も総合3番手に0.1秒差まで肉薄「起こったことを考えれば悪くない順位」
トヨタ勝田貴元、WRCラリージャパンDAY2は不運な後退も総合3番手に0.1秒差まで肉薄「起こったことを考えれば悪くない順位」
motorsport.com 日本版
日産「新型ラグジュアリーSUV」世界初公開! 斬新「紫」内装&オラオラ「ゴールド」アクセントで超カッコイイ! ド迫力エアロもスゴイ「QX60C」中国に登場
日産「新型ラグジュアリーSUV」世界初公開! 斬新「紫」内装&オラオラ「ゴールド」アクセントで超カッコイイ! ド迫力エアロもスゴイ「QX60C」中国に登場
くるまのニュース
エコの時代に逆行!? 「やっぱ気持ちいいのは大排気量のトルクだよね」……800馬力超のエンジンが吠える「アメ車」マッスルカーの“クセになる世界”とは
エコの時代に逆行!? 「やっぱ気持ちいいのは大排気量のトルクだよね」……800馬力超のエンジンが吠える「アメ車」マッスルカーの“クセになる世界”とは
VAGUE
変化と進化──新型ロールス・ロイス ゴースト シリーズII試乗記
変化と進化──新型ロールス・ロイス ゴースト シリーズII試乗記
GQ JAPAN
加熱する中国高級SUV市場、キャデラック『XT6』2025年型は「エグゼクティブシート」アピール
加熱する中国高級SUV市場、キャデラック『XT6』2025年型は「エグゼクティブシート」アピール
レスポンス
メルセデス、ラスベガス初日の好調は「なんでか分からない」予選に向けて”ダスト乞い”?
メルセデス、ラスベガス初日の好調は「なんでか分からない」予選に向けて”ダスト乞い”?
motorsport.com 日本版
Moto2チャンピオンに輝いた小椋藍、日本人初となる『トライアンフトリプルトロフィー』を受賞
Moto2チャンピオンに輝いた小椋藍、日本人初となる『トライアンフトリプルトロフィー』を受賞
AUTOSPORT web

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

2430.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

1699.92700.0万円

中古車を検索
テスタロッサの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

2430.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

1699.92700.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村