現在位置: carview! > ニュース > スポーツ > 多くの問題が発生するも、ドライバーの腕と勇気に救われたバクー。破綻が垣間見えた“興行優先主義”

ここから本文です

多くの問題が発生するも、ドライバーの腕と勇気に救われたバクー。破綻が垣間見えた“興行優先主義”

掲載 更新 4
多くの問題が発生するも、ドライバーの腕と勇気に救われたバクー。破綻が垣間見えた“興行優先主義”

 レース後には、シーズン初の表彰台を飾った3人の喜びが眩しく、彼らを称えるチームのお祭り騒ぎも微笑ましい、美しいシーンが繰り広げられた。いつもとは違う顔ぶれだからか、次々に3人の元に足を運ぶライバルたちも清々しい。喜びと祝福のタッチ、ハグ……。

 それは、いつもとは違う顔ぶれだったから──だけだろうか。ドライバーたちに“カオスを脱出した安堵と達成感”を感じたファンも数多いはずだ。20人しかいない仲間のなかで、ふたりが意味不明の大クラッシュに見舞われたのだから。

タイヤトラブルで勝利を失ったレッドブルF1、調査報告を受けてコメント「指示に反したことはないし、今後も順守する」

 いくつもの問題が提起されるべきグランプリだった。

 第一に挙げられるのは、ピレリタイヤの安全性だ。レース後、クラッシュした2台のタイヤはミラノ本社の研究所に送られたはずだが、アゼルバイジャンGPの現場でピレリが明かした“事実”はルイス・ハミルトン(メルセデス)の左リヤタイヤにデブリによるカットがあったということ、このコースでもっとも酷使されるのは右リヤであること。

 そこから2台のパンクチャーも「おそらくデブリが原因」と“予測”しているようだが、この予測には大きな疑問が浮かぶ。ハミルトンのタイヤを例に挙げつつも、ランス・ストロール(アストンマーティン)やマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)のタイヤに“外傷”を確認できていないのだから──2台とも、左リヤは粉々に飛散したわけでなく、かろうじてリムにひっかかった状態で戻ってきているというのに。

 ピレリはコンパウンドの摩耗が原因でないことも強調しているが、問題はそこではない。最大の懸念は、高速走行の“疲労”による構造の破壊だ。

 タイヤの構造は、高速のストレートでも過酷な試練を経験する。内圧を保ち、荷重がなければ真円の構造は、接地面では車重とダウンフォースによってフラットに押さえつけられ、路面から離れると再び真円の一部に戻る。こうして強い力で“揉まれる”ことによって、カーカスを構成する繊維もゴムとの接着部分も疲労する。

 今年の構造は「より頑丈で、低い内圧での使用が可能」としたピレリだが、アゼルバイジャンでは土曜のフリー走行前にリヤの指定内圧を19psiから20psiに引き上げた。それは構造の耐久性に不安があったからではないだろうか?

 最高速を記録するイタリア・モンツァで同様の問題が発生していないのは、通常よりはるかに軽いダウンフォースで走る特殊なコースだからだ。ストロールとフェルスタッペンに共通するのは、単独で走行する彼らにはスリップストリームやDRSの機会がほとんどなく、本来のダウンフォースを背負いながら長いストレートを走行し続けた点だ。そしてこのストレートに限って言えば、右リヤより左リヤに荷重がかかる。

 トラブルの原因を知るにはピレリの発表を待たなくてはならないが、詳細な検証の前に「おそらくデブリが原因」と言われると、真実が公表されるのか、不安にもなる。幸いなことにストロールもフェルスタッペンも無事であったが、重大なタイヤトラブルによる大事故だ。真後ろにほかのマシンがいなかったのは幸運にすぎない。

 モンツァと異なり、ダウンフォースも必要とするアゼルバイジャン。そこに不要に長いストレートを配置したコース設計自体にも問題があり、F1マシンの技術を理解したうえでの配慮が足りないと言わざるを得ない。

■レースコントロールは“自分たちの判断が正しかった”と考えてはならない
 混乱したレースにおいて、レースディレクターの判断も適切ではなかった。セーフティカーが出動するまでに、ストロールのケースでは40秒以上、フェルスタッペンの場合には80秒以上も時間を費やした理由は理解できない。

 マイケル・マシ(F1レースディレクター)はダブルイエローで十分に減速しなかったドライバーを問題視するが、イエロー区間以外では“レース”が続行される状況ではその減速が難しいからこそ、VSCルールが導入されたのではなかったか。

 安全を優先するなら、ストロールの事故の時点で赤旗が提示されるべきだった。マシは「コース右側にマシンが通れるだけのスペースがあった」と説明するが、カーボンファイバーの鋭い破片が飛び散っていないと、誰が確信できただろう?

 フェルスタッペンの事故のあとも、レッドブルが「赤旗中断で全員がタイヤを交換したほうがいい」と助言するまで決断しなかった。

 そして赤旗を出した理由は“セーフティカー先導でレースを終わらせたくなかったから”と言う。実質2周のスプリントレースのための赤旗だったのだ。FIAはいつから“興行”を優先してレースをコントロールするようになったのだろう?

 こんな異常なコンディションのなかで、グランプリのクオリティを保ったのはドライバーの腕と勇気だ。週末を通じて速さを発揮してきたセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)は、スタート直後の鮮やかなオーバーテイクで予選のロスを取り戻し、フェルスタッペンにとっても心強いチームメイトの役割を完璧に果たした。

 モナコ同様に見事なタイヤマネジメントを発揮したセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)は、11番手スタートからここでもオーバーカット作戦に成功。さらに、35周終了時点のリスタートでは1コーナーでシャルル・ルクレール(フェラーリ)を、ストレートでピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)をパスして2位表彰台の基盤を築いた。ゴールの後の笑顔が、何よりも雄弁に最高のレースを語っていた。

 ラスト2周、予選のようなスプリントでルクレールと激しく争ったのはガスリー。50周目のストレートでルクレールが前に出ると、スリップストリームを使って再びフェラーリの前へ。1コーナーでインに入り、2コーナーでしっかりと表彰台を確保した。

 ドライバーたちのおかげで、異例のスプリントは見ごたえのある華やかなものになった。しかしレースコントロールは“自分たちの判断が正しかった”と考えてはならない。いくつもの疑問符が残ったままだ。ドライバーの腕と強いメンタルに救われたことを忘れてはならない。


こんな記事も読まれています

ホンダ、MotoGP引退のアレイシ・エスパルガロをテストライダーとして起用。2025年はブラドルとRC213Vを開発
ホンダ、MotoGP引退のアレイシ・エスパルガロをテストライダーとして起用。2025年はブラドルとRC213Vを開発
AUTOSPORT web
ウイリアムズF1はサインツ以外のドライバーも検討へ。決断をためらった姿勢に疑問を抱く
ウイリアムズF1はサインツ以外のドライバーも検討へ。決断をためらった姿勢に疑問を抱く
AUTOSPORT web
日産が「新・小さな高級車」発表! 斬新グリル×豪華内装採用! 「オーラ」何が変わった? 販売店への反響は
日産が「新・小さな高級車」発表! 斬新グリル×豪華内装採用! 「オーラ」何が変わった? 販売店への反響は
くるまのニュース
スーパーカーメーカーが「2人乗りタクシー」導入? 2026年より自動運転の配車サービス開始
スーパーカーメーカーが「2人乗りタクシー」導入? 2026年より自動運転の配車サービス開始
AUTOCAR JAPAN
在庫限り! フィアット「500/500C」とアバルト「F595/695」の日本国内販売が終了間近…欲しい人は迷っている暇はありません!
在庫限り! フィアット「500/500C」とアバルト「F595/695」の日本国内販売が終了間近…欲しい人は迷っている暇はありません!
Auto Messe Web
ピレリ、新型ハイパフォーマンスタイヤ『スコーピオンMS』発表。日本で計28サイズを順次発売
ピレリ、新型ハイパフォーマンスタイヤ『スコーピオンMS』発表。日本で計28サイズを順次発売
AUTOSPORT web
アレックス・マルケス、グレシーニと2年契約延長で2026年まで残留。兄マルクはドゥカティファクトリー昇格がすでに決定
アレックス・マルケス、グレシーニと2年契約延長で2026年まで残留。兄マルクはドゥカティファクトリー昇格がすでに決定
AUTOSPORT web
【吉と出るか凶と出るか】 メルセデスAMG C 63 S Eパフォーマンス 「ロクサン」を名乗る4気筒
【吉と出るか凶と出るか】 メルセデスAMG C 63 S Eパフォーマンス 「ロクサン」を名乗る4気筒
AUTOCAR JAPAN
「ある時点で接戦が起きるのは必然」レッドブルF1代表は接触したフェルスタッペンを擁護、今後も争いは続くと予想
「ある時点で接戦が起きるのは必然」レッドブルF1代表は接触したフェルスタッペンを擁護、今後も争いは続くと予想
AUTOSPORT web
おわび(2024年6月13日12時35分掲載記事について)
おわび(2024年6月13日12時35分掲載記事について)
AUTOCAR JAPAN
唯一アプリリアで挑むTeam TATARA aprilia。イタリア人ライダー擁して鈴鹿8耐2年連続SST表彰台を狙う
唯一アプリリアで挑むTeam TATARA aprilia。イタリア人ライダー擁して鈴鹿8耐2年連続SST表彰台を狙う
AUTOSPORT web
BMW新型「M5」世界初公開 7代目に進化した高性能セダンは初のハイブリッド採用で727馬力
BMW新型「M5」世界初公開 7代目に進化した高性能セダンは初のハイブリッド採用で727馬力
VAGUE
660ccの「小さなスポーツカー」って最高! スバル本気の“走り仕様”は「ス―チャー×4WD」搭載! オープンカーも用意した「すごい軽自動車」とは
660ccの「小さなスポーツカー」って最高! スバル本気の“走り仕様”は「ス―チャー×4WD」搭載! オープンカーも用意した「すごい軽自動車」とは
くるまのニュース
メダル獲得の最短ルートを道案内!? パリ五輪出場、サーフィン松田詩野選手にパナソニックがエール
メダル獲得の最短ルートを道案内!? パリ五輪出場、サーフィン松田詩野選手にパナソニックがエール
AUTOCAR JAPAN
デコブルーバードにデコミラにデコキャラバン! デコトラ乗りさえも震撼させた「デコ車」たち
デコブルーバードにデコミラにデコキャラバン! デコトラ乗りさえも震撼させた「デコ車」たち
WEB CARTOP
愛車の履歴書──Vol43. 勝地涼さん(前編)
愛車の履歴書──Vol43. 勝地涼さん(前編)
GQ JAPAN
『ヴォクシー・ハイブリッド』&『ノア・ハイブリッド』用、ブリッツの車高調キット「DAMPER ZZ-R」シリーズが新たな品番で販売開始
『ヴォクシー・ハイブリッド』&『ノア・ハイブリッド』用、ブリッツの車高調キット「DAMPER ZZ-R」シリーズが新たな品番で販売開始
レスポンス
いかにもドイツ車らしい──フォルクスワーゲン・ゴルフIIGTI試乗記
いかにもドイツ車らしい──フォルクスワーゲン・ゴルフIIGTI試乗記
GQ JAPAN

みんなのコメント

4件
  • 欠陥タイヤ
  • クソ屁理屈野郎なF1レースディレクターのマシの解任と絶対非を認めない中国資本らしさ全開なピレリの撤退を求める
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村