旅を先導したのはベントレーのアイスカー
text:text:Steve Cropley(スティーブ・クロップリー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
コッカーマスのMスポーツ社で出迎えてくれたのは、もとレーサーで、同社を率いるマルコム・ウィルソン。1時間をかけて、ファクトリーを紹介してくれた。施設や技術、数百名のスタッフの仕事を理解するには充分すぎる内容だった。
ウィルソンは、フォルクスワーゲンのワゴンに8名を乗せて、新しいハンドリングコースを周回してもくれた。テスト走行に準備された施設だ。
紹介が終わり、4台のベントレーへ戻ったのは午前11。ピムズ・レーンのベントレー本社まで、240kmを一気に走りきると、ランチが待っていた。食事を共にしたのは、ベントレーCEOのエイドリアン・ホールマークと、デザイン・ディレクターのシュテファン・ジーラフ。
ホールマークは、ベントレーの経営の順調さと野心的な目標を、ジーラフはバカラルへの誇りを語る。ベントレー・バカラルについては、AUTOCARのサイトで一度ご紹介させていただいた。
今回、筆者と一緒にペアを組んだのは、陽気なステファン・ドビーという人物。トップ・ギア誌の編集スタッフで、冷静沈着でありながら、腕利きのドライバーだとわかった。2日間一緒に過ごすから、人として合うか合わないかは大切な要素だ。
イベントを率いるマイク・セイヤーは、ベントレーの「アイスカー」で旅を先導してくれた。美しく塗装されたベントレー・コンチネンタルGTには、レース用のシートとロールケージが組まれている。
ルーフラックがコンチネンタルには不釣り合いだが、オーストリアの有名な氷上レース、ツェル・アム・ゼーで優勝したばかり。その戦いでは、一般的な装備なのだろう。
高速道路に理想的なフライング・スパー
旅の初日、リーズ城を出発した時に筆者が乗ったのは、4台の中で最新モデルのフライング・スパー。ファースト・エディションで、深いグリーンのボディに優雅なツートーンのインテリアが組み合わされている。
素晴らしいファースト・エディションの標準装備に加え、6600ポンド(87万円)のネイム製オーディオが選ばれ、価格は16万8300ポンド(2221万円)。走り始めて30分も経たないうちに、その価格が妥当に思えた。走り込むほどに、納得できる。
頭の中で繰り返された印象は、素晴らしいクオリティとケイパビリティ。品質と資質とでもいえよう。モナコでの発表会の試乗では、洗練性の新たなベンチマークを設定したと感じていた。それは間違いなかった。
W12気筒エンジンは、改良を受ける前から素晴らしいユニットだったが、耳をひそめると少しノイズが目立つところもあった。新しいユニットは、まさにスムーズという言葉を体現している。
長く広いボディサイズやホイールベースを考えれば、フライング・スパーの旋回性には、ただただ驚かされる。しかも、極めて正確にクルマを導いていける。
初日の、高速道路中心の走行には理想的だった。そういえば初日、ランチで立ち寄ったスコッチコーナーという街のレストラン、ミドルトン・ロッジも素晴らしかった。フライング・スパーの燃料タンクと一緒に、筆者の胃袋も満たされた。
土曜日の午後は、コンチネンタルGTコンバーチブル。W12気筒エンジンで、ボディは冒険的なマット・グリーンのジュリップ塗装が施されている。インテリアはブラックのベルーガだ。
悦に入るコンチネンタルGTコンバーチブル
高速道路を降り、コンチネンタルGTコンバーチブルでイングランド郊外を北上する一般道を選ぶ。そこでベントレーの2つの真実を、改めて体感した。
荒れた路面で姿勢制御が問われる場合、サスペンションはベントレー・モードが最適だということ。そしてコンバーチブルのボディ剛性は、いかなる状況でも揺るがない強さだということ。
午後の気温は3度にまで落ちていたが、ソフトトップは開いて走った。ベントレーのコンバーチブルに乗ると、いつもクーペより筆者向きだと悦に入る。宝くじが当たったら、選びたい。
ところが、コンチネンタルGT V8クーペに乗り換えると、こちらの方がより優れていると感じてしまうからたちが悪い。もちろん、洗練性に大きな違いはない。
ソフトトップを閉じれば、コンバーチブルはクーペと変わらない上質さが得られる。だが、クーペの方が、よりシンプルで本質的だからだろう。
2日目、日曜日の午前中に筆者が運転したのが、コンチネンタルGT V8クーペ。ペアを組んでいた陽気なステファン・ドビーは、前日は道に迷い続けた別のペアのために、違うベントレーを運転することになっていた。
このクーペは、4台のベントレーの中で一番手が届きやすい。アルパイン・グリーンのボディに、モノトーンのダークカラーでインテリアはコーディネートされている。価格は15万1800ポンド(2003万円)で、控えめに4000ポンド(52万円)のオプションが載っている。
その内容に、気にらない人はいるのだろうか。最もベーシックなベントレー・コンチネンタルGTへの興味を高めてくれる、素晴らしい事実だ。
お気に入りはコンチネンタルGT V8クーペ
ベントレーには、思わず悩むほどのアップグレード・メニューが用意されている。だが、内装トリムや装備、仕立ての上質さも含めて、基本的なコンチネンタルGTであっても、トップクオリティに変わりはない。
3日目、月曜日に筆者のもとへ来たのは、SUVのベンテイガ。極めて速く、優れた実力の持ち主で、18万2200ポンド(2405万円)もうなずける。ほかの3台を経験済みでも、紛うことなきベントレー。背が高いだけだ。
見下ろせる着座位置は、狭い道での運転を助けてくれる。直立気味の運転姿勢は、コマンドポジション。確実なステアリングと上質な乗り心地は、ベントレーと呼ぶに相応しい水準にある。
ピムズ・レーンからベントレーのショールームまで敷かれた、意図的に表面をザラつかせている誘導路へ入る。ベンテイガの印象は、最後まで変わらなかった。
2泊3日の旅の感想。1340kmを走った後でも、目的地へ着いたことが残念でならなかった。この後味こそ、長距離走行に長けたベントレーの資質を物語っている。
モデル開発に対する徹底的ぶりも、強く心に残った。どんな状況や路面環境であっても、見事に順応してくれる。
わたしのお気に入りは、4.0Lユニットを積んだコンチネンタルGT V8クーペ。スタイリングも素晴らしい。エンジンは個性豊かなフィーリングで、音響面でも秀でている。
といっても、4台すべてが変わらぬクオリティと、同等のケイパビリティを備えている。別の旅程を楽しんだのなら、もしかすると、別のフライングBを選んだかもしれない。
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