10月15~16日、岡山国際サーキットで開催されたENEOSスーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook第6戦『スーパー耐久レース in 岡山』。午前に行われたグループ2のレース後、TOYOTA GAZOO Racingがメディアに対し、ORC ROOKIE Racingが走らせるORC ROOKIE Corolla H2 concept、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptのアップデート内容やレースについてのレビューを行った。
■ORC ROOKIE Corolla H2 conceptは仲間と登る“階段づくり”へ
2021年の富士SUPER TEC 24時間レースから、スーパー耐久への挑戦をスタートさせた水素エンジン搭載のORC ROOKIE Corolla H2 concept。初年度は非常にドラスティックな改良が進み、車両のスピード、そして給水素の速さも大きく改善。2021年の第6戦岡山はST-4車両同様の速さをみせた。
スーパー耐久第6戦岡山のGr.2決勝はTRACY SPORTS RC350がポール・トゥ・ウイン
2022年は燃費や出力のアップが進められるとともに、車体面でも『もっといいクルマづくり』の合い言葉のもと、さまざまな改良が進められてきた。今回の第6戦では、これまでレース中に熱ダレが起きていた対策としてショックアブソーバオイルの改良が行われたほか、車両姿勢やトラクションの改善を狙ったサスペンションバランス(スプリング)の変更などが行われた。
また、今回導入されたもののうち、ユニークなものが東京製鐵製のCO2を低減したリサイクル鋼材をロワアームに使用したことだ。市場からのリサイクルとして、スクラップ車から出る鉄を活用したもので、CO2削減を狙っている。
「通常の鉄の作り方としては鉄鉱石を溶かし、そこに混ぜ物をしながら引っ張り強度を上げていますが、リサイクル品なので最初から混ぜ物がされた鉄が集まっていて、初期から強度が高いものになっています」というのは、GR車両開発部の高橋智也部長。
またパワートレインについては、毎戦燃費や性能向上が進められてきたが、一時その向上については「手を止めて」いる。これは異常燃焼についての対策で、「ベンチでは起きないことが、レースの現場では起きる。何が起きているか把握はしていて安全に走らせることはできるが、なんとかしなければならない」というのはGRパワトレ開発部の小川輝主査。全般的にトラブルは著しく減ってはいるが、まだすべて解決しているわけではない。
富士SUPER TEC 24時間の際には、GRカンパニーの佐藤恒治プレジデントから、富士登山になぞらえ水素エンジン開発の進捗を「4合目」と例えたが、「道なき道をかきわけ、なんとか4合目には到達したが、水素エンジン開発に向けたいろんな仲間が増え、その仲間の皆さんとともにしっかり登るために階段を作っている状態です」と小川主査は語った。
なおこの中で、ORC ROOKIE Corolla H2 conceptの液体水素の使用についての質問も飛んだ。これまでも何度か、圧縮気体水素に代わる液体水素への切り替えも語られてきたが、「結論から言えば、第7戦鈴鹿はまだ投入できるタイミングではないと思っています」と今季中の投入はないと高橋部長は語った。
ただし、「今やっと液体水素を車両に入れて評価できる準備が整ってきました。これから火入れをして、しっかり安全に走るための一歩一歩を進めていくところです」とのことだ。タンクの小型化や軽量化は劇的にパフォーマンスを上げる可能性もあり、今後の開発にも大きく寄与するはずだ。今回は3時間レースということもあり決勝でMORIZOはドライブしなかったものの、石浦宏明をBドライバーに据え、ST-4に対しての純粋なスピードを見るなど、ハード、ソフト両面でORC ROOKIE Corolla H2 conceptの開発が進められている。
■ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは最終戦で今季の集大成へ
一方、今季参戦を開始したORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは、カーボンニュートラル燃料のトライ、そして「次期モデルチェンジに向けた理想像を作り、提案していく」ことを目標に戦ってきた。ただ、第3戦SUGOでは車両素性の把握のため欠場するなど、決して順風満帆とは言えないシーズンを送ってきた。
「我々はここに至るまで、まともに走れない、ドライバーもクルマと対話ができない状態でしたが、1戦欠場したりした結果、クルマの素性としては、ベースラインまでは来ることができた(高橋部長)」と第5戦もてぎから大きく改善し、レースではTeam SDA Engineering BRZ CNF Conceptをリードした。
「ただ、まだ気持ち良くクルマが曲がり、乗っていて楽しいところまではいっていないので、今後も作り込み、お客さまの笑顔に繋がるようなクルマに仕上げていきたいと思います」
またカーボンニュートラル燃料について小川主査は、「世の中にさまざまな合成油がありますが、今年参戦してから、スバルさんとそれを学ぶ一年としています。サーキットでは戦っていますが、新型車だけでなく、すでに販売されているクルマにもどうしたら使えるようになるのか、スバルさんとは裏でいろんな情報交換をして、今はまとめに入っています」とこちらも実績が重ねられている。
迎えた第6戦では、ドアのカーボン化を実施。また追加ブレースによる剛性アップ、ABSなどの制動コントロールの向上を行い、軽量化とコーナリング性能アップを果たした。また自動ブリッピングやアンチラグのレベルアップを行い、ドライバーが安心して速く走るクルマの実現を目指した。30kgを越える軽量化を果たしているが、それをTeam SDA Engineering BRZ CNF Conceptが大幅に上回ってきていた。
レースではTeam SDA Engineering BRZ CNF Conceptが予選で初めてORC ROOKIE GR86 CNF Conceptを上回り、さらに序盤からリード。2台ともにST-3車両に迫る速さをみせつけたが、プロが多くドライブしたほか、セーフティカーのタイミングも味方したTeam SDA Engineering BRZ CNF Conceptが先着。年間でもこれでスバルの“勝ち越し”が決まっている。
第5戦の悔しさをぶつけてきたスバル/Team SDA Engineeringが「ここまでやってくるとは……(苦笑)」とTGR/ORC ROOKE Racing側でも驚きとなった第6戦岡山。GRカンパニーの佐藤プレジデントは「現場の活気が出ているのは良いことですし、ファンの熱気に負けない現場の熱気があるのは素晴らしいこと。スポーツカーを作るにあたっては、ファンに負けない作り手の熱気が必要だと思います。この一年見てきて、スバルさんのなかでそれが成長しているのが良く分かりますし、そのエネルギーこそが『もっといいクルマづくり』への最大の原動力なので、素直にすごいと思います」と今回のレースを振り返った。
「素直に悔しいと言えば悔しいのですが、ありがたいです。年間で負けてしまったのも悔しいのですが、最終戦で勝って気持ち良く終えるためにも、もう一度挑んでいきたいです」
迎える最終戦の舞台は開幕戦も行われた鈴鹿。1年間を通じてどんな勢力図となったのか、そしてラップタイムでどう向上したのかを見ることもできる。結果ももちろんだが、一年を通じて競い合った2台が、今後のクルマづくりにどう反映されるのかも楽しみなところだろう。
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