数々の功績を残してきたサンダンス
1982年に東京で創業し、数々のオリジナルパーツやエンジンを生み出し、1988年からはレースの世界にも足を踏み入れ、‛92年には米国のフロリダ州デイトナで開催される『バトル・オブ・ツイン(二気筒の大型バイクで競われるレース)』に参戦を開始し、‘97年にF-2クラス、翌年にはF-1クラスで優勝。
【画像】超カッコイイ! サンダンスによるカスタムハーレーを画像で見る(19枚)
同年には世界耐久選手権(EWC)シリーズに組み込まれている鈴鹿8時間耐久ロードレースにハーレーダビッドソンで唯一参戦した世界的ハーレー・ショップであるサンダンス。
今回、ここに紹介する1台は、同ショップの歴史を凝縮したといえるマシンであり、それと同時に代表である柴崎 “ZAK” 武彦氏と車両オーナーの所ジョージ氏の付き合いの深さを象徴する存在かもしれません。
冒頭で説明したとおり、もはや日本のハーレーダビッドソン業界で知らぬ者はいないといっても過言でないサンダンスですが、現在も多数のレギュラー番組を持ち、日本で知らぬ人はいないといっても過言でない所ジョージ氏とZAK柴崎氏はショップをオープンする以前からの間柄であり、互いの赤貧時代から知る45年を超える付き合いといいます。
過去を振り返ると、所ジョージ氏はこれまで様々なタイプのカスタムハーレーをサンダンスに製作依頼してきたのですが、ここに見る『デトロイト・フランケンシュタイン』と名付けられたマシンは、まさにその2人の歴史とサンダンスの歴史、ひいてはハーレーダビッドソンというメーカーの歴史すらをすべて詰め込んだかのような仕様となっています。
サンダンスの歴代レトロコンバージョン・シリーズ随一のエンジン・フィーリング
実際にマシンを見るとハーレーならではの45度V型エンジンの前後バンク腰上はフロントがパン(1948~1965年まで生産されたモデルの型式)、リアがナックル(1936~1947年まで生産されたモデルの型式)となっており、腰下のクランクケースおよびカムカバーはショベル(1970~1984年まで生産されたモデルの型式)となっているのですが、すべてはサンダンスがイチから創造したもの。
かつての映画で複数の人間の屍から1体のモンスターを生み出した『フランケンシュタイン博士』の物語がありましたが、まさに車名どおりに“怪物的”なトルクとパワーを獲得するに至っています。
ちなみにこのマシンのエンジンのフロントバンクは1991年にサンダンスが生み出した『スーパーパンヘッド』のものとなっており、リアは1992年の『スーパーナックル』、それをショベルの腰下に組み合わせ、内部はS&S製フライホールにサンダンス・オリジナルのフライホールウエイトリングを装着。
そこに組み合わされるコンロッドはEVO(1984~1999年に生産されたモデルの型式)より全長が長いTC(1999~2017年に生産されたモデルの型式)用のものを組み合わせることで適切な連稈比(レシプロエンジン等におけるコネクティングロッド長とクランク半径の比)とし、ピストンのシリンダー内壁にかかるサイドフォースも軽減。
そのシリンダー内壁にはサンダンス独自の技術である特殊合金を溶射し、フリクションを大幅に軽減する“T-SPECコート”が施されています。ちなみにこのマシンのエンジンはボア93mmでストローク111.2mmの1510ccとなっているのですが、エンジンのフィーリングはサンダンスがこれまで開発したレトロコンバージョン・シリーズの中でも随一のものです。
所ジョージ氏とZAK柴崎氏、二人のコンセプトを具現化
現在、世界のモーターシーンでは旧き良き時代のマシンを現代的な技術で再現する“レトロモッド”やエンジンそのものを再設計し、造り上げてしまう“リバースエンジニアリング”という手法が一つの流れとなっていますが、そうした言葉のない80年代後半から、こうしたアプローチでマシンを製作してきたサンダンスの成熟した技術はさすがの一言です。
実際、’92年に発表し、’95年から市販化された『スーパーXR』や1999年に発表し、2000年より限定10台で市販化されたアルミヘッド(本来のナックルヘッドは鋳鉄製ヘッドを採用)の『スーパー“リアル”ナックル』は今も世界的に高い評価を受けています。
そのサンダンスの集大成といえるエンジンを受け止める車体もサンダンスが培ったノウハウと所ジョージ氏の遊び心を感じさせるものとなっており、フレームは80年代のハーレー、ソフテイルのフロントセクションに、前述の『スーパー“リアル”ナックル』のリアセクションである「サンダンス・アクティブリジッド」をドッキング。一見するとリアサスを持たないリジッドフレームのようなシルエットでありながら、じつはリアサスが稼働するという凝った造りが与えられています。
また、フロントフォークはあえて1930年代のインディアン・リーフスプリングフォークのレプリカが装着されているのですが、これは「アメリカのデトロイトの裏路地にある油くさいバイク屋のガレージで老ビルダーが店にあったパーツで適当に組み上げたバイク」という所ジョージ氏とZAK柴崎氏が二人で考えたコンセプトを具現化したゆえ。
無論、車体の性能はあらゆる年式のエンジンや骨格をごちゃ混ぜにしつつも至って現代的な仕様となっています。しかも始動方法は、ある一定の箇所までキックペダルを踏みこむとセルが回るという凝りようです。こうしてすべての面においてバイクとしての機能が一切損なわれていない点もこの1台の見逃せないポイントとなっています。
たとえばこうしたカスタムバイクを生み出すには、カネを出し、単にパーツを組み上げるだけでは決して具現化されることはありません。あえていえばオーダーする顧客と創り出すビルダー側の人間的な信頼関係こそが肝要となります。
所ジョージ氏という人物の心の琴線に触れる「ツボ」を理解し、それを具現化するサンダンス、ZAK柴崎氏の技術力……まるで過去のサンダンス作品を1台の中に集約したかのような『デトロイト・フランケンシュタイン』からは二人の人間関係、絆の深さすらが伝わってきます。
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