いまやほとんどのクルマが装着しているETC車載器。高速道路でも「一般レーン」を通るクルマの数はあまり多くない。都市部では2025年度、地方部では2030年度に高速道路のETC専用化が実施される計画もあり、もはやETCは高速道路通行の必須アイテムになっている。
そんなETCに、近年ETC2.0が登場した。利用率の集計が始まった平成28年4月から現在に至るまで、大きなメリットといえるものを利用者に提示しできていない。これといったメリットもないのに、なぜETC2.0の普及を進めようとするのか?
いまいちどETCについて振り返りつつ、ETC2.0が抱える問題・疑問について考察していきたい。
文/清水草一
写真/Adobe Stock(moonrise@Adobe Stock)、編集部
【画像ギャラリー】高速道路をより便利に利用できる? ETC2.0搭載メリットまとめ
■まずはETC2.0についてのおさらいをしてみよう
国土交通省が発表しているETCの1日の利用率は、令和2年11月時点で93%(776万台)と、非常に高い水準になっている。一方、ETCの進化版であるETC2.0に目を向けると、こちらの利用率もかなり伸びている。
集計が始まった2016年4月時点での利用率は、わずか1.5%(12万台)だったが、直近の2020年11月は、24.2%(200万台)にまで伸びた。わずか4年半でこれだけ利用率が伸びたのは驚きだ。
ETC新規セットアップ数に占めるETC2.0の割合を見ると、2019年度で28.5%となっている。これまた驚きである。
高速道路を利用するドライバーには、毎度おなじみのETC受信機。大勢は従来型だが、新車では徐々にETC2.0を搭載しているという。「スタンダード仕様よりさらに便利!」の触れ込みだが……
なぜ私が「驚き」と感じるかというと、ETC2.0は、多くの利用者にとってメリットのない、無用の長物だからだ。個人的には、デメリットのほうが大きいと感じる。それがここまで普及するとは、驚き以外の何物でもない。
ETC2.0の歴史を振り返ると、ETCの登場から8年後の2009年1月、「DSRC車載器」という名称で利用モニターの募集が始まり、2011年から本格運用が始まった。
ETC2.0導入の目的はクルマと道路の双方向通信。道路管理者は大量の走行情報が把握ができるし、ドライバー側もリアルタイムに交通情報が取得できるという狙いだった(oka@Adobe Stock)
その目的は、ズバリ「双方向通信」。スタンダードなETCが、高速道路料金の支払いにほぼ特化したものであるのに対して、2.0は、クルマ側も交通情報などを受け取れる。また、大量の情報の送受信(?)が可能なため、道路管理者が経路情報などを把握でき、そのデータを様々な道路施策に活用できる……ということになっている。 名称が「ETC2.0」となったのは2014年。2016年には圏央道での料金2割引という優遇策が始まり、2017年には、高速道路を降りて一部の道の駅に立ち寄る場合、無料で一時退出できるサービスが加わった。
■ETC2.0装着の「メリット」とその実態とは
これらの、いわゆる「メリット」を検証してみよう。
まず双方向通信だが、国土交通省は、「1000km先の交通情報まで受け取れる」と胸を張る。
しかし実態としては、1000km先の交通情報を受け取ったところで、メリットのある人は多くはない。
ナビがETC2.0受信機と連動していると、遠方の交通情報が取得できるというが、今やメーカー側の通信技術も進化しており、その機能が本当にメリットなのか? 疑問だ(show999@Adobe Stock)
逆に、ETC2.0&対応ナビを装着していると、高速道路を走行中、無闇やたらに遠隔地の交通情報が自動的に表示され、煩わしい。しかも、新しい情報を受け取るたびに「ポーン」というお知らせ音が鳴る。何かと思ってナビを見ると、国交省自慢の遠隔地の無意味な交通情報。しかもその内容は、ただ「順調」とかいったもので、個人的には、いつも腹を立てている。
私は、ETC2.0装着車でロングドライブをするたびに、「このお知らせをなんとか止められないか」と真剣に思う。しかしいまのところ、止め方を見つけられていない。
ETC2.0は、対応ナビを通じて、より詳細な交通情報を得られ、渋滞回避ルートも表示されるとなっているが、グーグルマップなどのスマホナビに比べたら、反応の速さ、案内の綿密さなど、あらゆる面で劣っている。
ETC2.0には、全国のSAPAに存在する「ITSスポット」に停車してナビを操作すると、ETC2.0を通じて付近の観光情報などが閲覧できるというメリットもあるのだが、実際にこれを使ってみると、噴飯ものである。
内容は驚くほど貧しく、しかも通信速度が猛烈に遅い。スマホを使い慣れた者なら誰でも、開いた口がふさがらなくなる。
■ETC2.0はすでに時代遅れ?役所が機能の更新に取り組まないワケとは?
いったいなぜこんなことになったのか?
理由は単純明快で、システムの設計が古いまま進化していないからだ。もちろん通信速度も。
国交省のITS計画が始まったのは1994年。ETC2.0の構想もその頃持ち上がった。それが2009年から徐々に実現していったわけだが、その少し前、2007年に恐るべきライバルが出現していた。
その名は「アイフォーン(iPhone)」である。
そして、ちょうどETC2.0の本格稼働あたりから、アイフォーンを含むスマホ全般が猛烈な勢いでポピュラーになり、物凄い勢いで進化していったことは、皆様ご存じのとおりだ。この進化ぶりを予想できた者は誰もいない。せいぜいスティーブ・ジョブスくらいでしょうか?
つまり、この点に関して国交省を責めるのは酷だが、ETC2.0の情報取得機能が、完全に置き去りにされていることは確かである。
続いてのメリットは、「圏央道2割引」である。これは、圏央道をよく利用するドライバーにとっては確実にメリットだ。
実は、ETC2.0の直近の利用率は、中型車以上に限ればなんと6割を超えていて、これが全体の利用率を押し上げている。
「圏央道の料金2割引」はETC2.0搭載の唯一わかりやすいメリットかもしれない。圏央道に限って言えば中型車以上の利用率が6割に達するという(tokoriki@Adobe Stock)
トラックは圏央道の利用頻度が高い。圏央道沿道には物流拠点も多数ある。大型車や特大車なら、経路によってはすぐに元が取れる。しかし、圏央道をあまり使わない乗用車のドライバーにはメリットはない。
ETC2.0を選ぶか否かは、今のところ、この一点にかかっている。圏央道をある程度利用するなら付けた方が得だし、使用しないなら付ける意味はない。
もうひとつ、高速道路の一時退出が可能というのもあるが、今のところ可能なのは、全国にわずか23か所の道の駅に立ち寄る場合のみ。しかもメリットは、ターミナルチャージに限れば、1回あたり150円+消費税だ。
高速道路近隣の「道の駅」に途中退出できるメリットもあるにはあるが、全国でわずかに23ヵ所、しかも今後も拡大する気配もない(moonrise@Adobe Stock)
ETC2.0は、通信料等はかからないが、スタンダードなETCと比べると、取り付け時の費用が約1万円違う。付け替えとなると、工賃を含めて3万円近くかかる。その差を取り返すことができるのは、ごくわずかなドライバーだけだろう。
■メリットない、時代遅れ、いいところなしでも普及が進むカラクリとは?
これほどメリットのないETC2.0が、これほど普及するのはなぜなのか? それに関する調査はないのであくまで推測だが、理由は2つ考えられる。
ひとつは、ETC2.0の実態が知られていないことだ。
私は以前から、「ETC2.0はメリットが乏しい」と書いているが、マスメディアで同様の情報発信を見たことがない。つまり、多くの人が、新車購入時、知らずに付けてしまっていると考えられる。
理由その2は、新車ディーラーがETC2.0の後押しをしていることである。
ETCとETC2.0、どちらにしますか? となった場合、多くの営業マンが、2.0のメリットを説明する。実態を知らない人が、「1万円くらいの差なら、新しい方を付けようか」と思ってしまっても不思議はない。その割合は、乗用車(軽を含む)で約3割だ。
結局は道路管理者側の省人化メリットが大きいのかもしれないが、それは通常のETCでも十分に達成しているので、ETC2.0導入の恩恵でもない(moonrise@Adobe Stock)
一方で、ETC2.0の特典は、圏央道の2割引その他以外に拡大する気配がない。一体なぜか?
国交省としては、利用率がここまで高まれば、すでに十分なのだろう。
国交省が一番欲しかったのは、民間から買わずに得られる独自の交通経路データだ。利用率が25%まで高まれば、十分なデータが得られ、すでに渋滞対策の立案等にも活用されている。これはETC2.0のメリットだが、2.0を付けていなくても、その恩恵を受けられる。
とにかく国交省としては、これ以上出血サービスをしなくても、クルマの買い替えが進むにつれ、自然と装着率は高まる。もはや何もしなくても、果実は増していくのである。
一方で、ETCの発展性がもはや行き止まりであることは、誰よりも国交省がよく知っている(はず)。ただ、役所というものは、一度決めたら止まれない。もう惰性で行くしかない。
実際のところ、頻繁にロングドライブをする人を除けば、あの交通情報を煩わしいとまで思うこともなく、デメリットにも感じないかもしれない。ただ、圏央道をある程度利用しないなら、ETC2.0のメリットはほとんどない。
近い将来、古いETC車載器の一部が使えなくなるが、「2.0じゃないとダメになる」ということもない。実は、初期の2.0にも、いずれ使えなくなる機種があるくらいだ。
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