■誰もが笑顔になる「ショーケース」 でも中身は真面目だった
純ガソリン車に変わって、近年ではEV(電気自動車)やFCEV(燃料電池車)が徐々に浸透しています。商用車でもこうした新エネルギー車が登場しはじめたことで、企業活動としてカーボンニュートラルを目指せることから運送業を中心に注目されています。
しかし、今から13年前の2011年にダイハツは、小型液体燃料電池を搭載する次世代軽バンの姿を示唆するコンセプトカーを発表していたのです。
【画像】超カッコイイ! これがダイハツの「斬新軽バン」です!(70枚)
2011年は、3月に発生した東日本大震災により、さまざまなイベントが自粛。国際情勢も欧州危機やアラブの春といったように大きな出来事の多い年でした。
その一方で、なでしこジャパンの女子サッカーワールドカップ優勝など、元気づけられるニュースもありました。
そんななか、2011年12月3日から11日まで東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催された第42回「東京モーターショー」は、「世界はクルマで変えられる。”Mobility can change the world.”」をテーマに、前回よりも出展ブランドが36%増加したほか、展示面積も61%増加。
ワールドプレミアも53台あったほか、会期中の総来場者数は前回比37%増の84万2600人を記録し、震災に負けない日本の自動車産業のたくましさを見せました。
ダイハツではブーステーマ「BIG ANSWER FROM SMALL」のもと、4車種4台の参考出品車と8台の市販車および、各種技術を出展。その1台が「FC 商 CASE(エフシー ショー ケース)」でした。
エフシー ショー ケースは、軽自動車に最適な液体燃料電池搭載のゼロエミッション・次世代ビークルだといい、シンプル・コンパクト・低コストな燃料電池発電機の可能性を新提案するモデルです。
デザインはポリゴンをそのまま実車化したような、真四角で一風変わったもの。大型トラックのようにシャシ部分に上から居住部を被せたような「二層構造」となっています。
フロントは大きなウインドウが実に眺望的で、ロア部に冷却グリルとヘッドライトをまとめていました。リアも全く同じデザインでそのままテールゲートを備えています。
サイドは大型トラックのウイング車のようなガルウイングドアを採用。巨大な開口部がもたらす開放感はかなりのものでした。床は高いですが、シャシのサイドスカートはパカッと開いてステップとなるため、乗り降りしやすそうな構造です。
インテリアは4人乗りの2列で一般的な軽ワゴンと同様のレイアウトを採用。それ以外は、開放感とスクエアデザインによる広大なスペースを活かしたアミューズメント空間となっていました。
インパネはメタル素材が印象的なストレート形状で、ステアリングもタブレット端末のような四角いものを装着。メーターはインパネ上部からニョキッと生える透過ディスプレイを採用しました。
シートは前後ともに折りたたみが可能で、すべてをたたむと完全にフラットな床が確保できます。右クオーターは大画面ディスプレイを装備し、ドアやシートバックに仕込んだブルーの照明などがポップな空間を演出します。
車名の「商CASE」の通り、ショーケースのようにパカッと開けることで、車内の様子を強烈にアピールすることができ、宣伝にも役立ちそうな姿でした。
ちなみにボディサイズは全長3395mm×全幅1475mm×全高1985mm、ホイールベース2450mmと、軽自動車規格に収まるようになっています。
そんなエフシー ショー ケースはそのポップな見た目とは裏腹に、先述した通り大きな役割を担っていました。
パワーユニットには液体燃料を使用する、軽自動車に最適なコンパクト新FCシステムを搭載。しかも、貴金属やレアメタルを使わないという非常に画期的なシステムだったのです。
貴金属やレアメタルは素材の特性上、耐腐食性があったり強度があるなど、安定した性質を持つ反面、そもそも存在する量が少なかったり、採掘して加工するコストが非常に高いといった問題があります。
特にFCEVではこうした材料が必要になることで、システム自体が高額化し、車両本体の価格も高くなる傾向にあります。
そんな問題を解決できると期待されたのが、エフシー ショー ケースのコンパクト新FCシステムでした。
さらに、エネルギー密度も高めたことで長い航続可能距離を確保したほか、コンパクトなシステム設計により、自由度の高いレイアウトも実現。エクステリアやインテリアの斬新なデザインは、このコンパクト新FCシステムによって成し得たものだったのです。
新時代の軽商用車の姿を示すエフシー ショー ケースは、まさにダイハツのショーケースとして技術力の高さを示すとともに、排出ガスの削減を目指せる画期的なモデルとして大いに注目を浴びます。
そして2年後の「東京モーターショー2023」では、後継モデルかつ軽トラック風の「FC 凸 DECK(エフシー デコ デッキ)」が登場。再び強い存在感を示していました。
しかし登場から10年以上が経過した現在、直接的な市販モデルの登場はおろか、このFCシステム自体も新たな展開はありません。
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