日本が誇るGTマシンの秘密に迫る!
クルマ好きの読者諸兄なら「スーパーGT」をご存じのことだろう。日本発の国際シリーズで、国内最大級の人気レースに発展しているが、そのなかで、世界的にも注目を集めているのが最高峰のGT500クラスだ。
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GT500クラスには現在、国内の3メーカーが参戦しており、トヨタが「GRスープラGT500」、ニッサンが「GT-R NISMO GT500」、ホンダが「NSX-GT」を投入。激しい開発競争を展開しているが、“世界最速のGTマシン”と謳われるGT500マシンには、どのような秘密が隠されているのか?
ここでは開幕戦の富士でトップ5を独占したほか、第5戦の富士で2勝目を獲得するなど、デビューイヤーながら抜群のパフォーマンスを発揮するトヨタの主力モデル、GRスープラGT500をクローズアップしながら、GT500マシンの特徴を紹介したい。
マシンを解説してくれたのは、トヨタカスタマイジング&ディベロップメント・TRD本部で、車両開発部の部長を務める湯浅和基さん。第5戦が行われた富士で、GRスープラGT500の開発責任者を直撃したので、以下、Q&A形式でその模様をお伝えしたい。
──2020年のスーパーGTでトヨタのニューマシン「GRスープラGT500」がデビューしましたが、そもそも市販モデルと共通した箇所はあるんでしょうか?
湯浅氏:市販モデルとの共通点はほとんどないんですよ。強いて言えば、共通パーツはドアノブと前後のトヨタエンブレムになりますね。
──えっ? それだけですか?
湯浅氏:そもそもスーパーGTのGT500クラスはドイツのDTMと共通の車両規定、“クラス1規定”に合わせて作っているので、市販モデルとはまったくの別物です。カーボンモノコックを含めて共通部品も多くなっているので、GT500は専用のレーシングカーになっています。
──でも、見た目は市販のGRスープラに似ているような気がしますが……。
湯浅氏:全長や全幅などサイズが決まっているので、それに合わせていくと市販モデルの部品はほとんど使えない。もともとクラス1規定は、DTMのセダンをベースにしたマシンに合わせて考えられているので難しい部分もあります。正面や後ろはGRスープラのシルエットに見えるけれど、サイドビューなんかは昨年までの“レクサスLC GT500”に似ている……とも言われることがあります。
──なるほど。GRスープラをベースにしているといっても、中身は純粋なレーシングカーで、イメージ的にはプロトタイプのレーシングカーに近いわけですね。そうであれば、むしろ、GRスープラGT500は昨年までのレクサスLC GT500に近いのでしょうか?
湯浅氏:いえ、そうでもないんですよね。2020年のレギュレーションは“クラス1規定+α”になっていて、エンジンと空力の部分で、スーパーGTが独自に開発できる要素がある。それも共通部品が多いので、それと合わせるために昨年までのレクサスLC GT500とはまた別の開発を行ってきました。
──ちなみにGT500のニューマシンは、どのくらい開発期間を要するものなんですか?
湯浅氏:ボディデータの解析を含めると、GRスープラGT500は2年前に開発をスタートしています。風洞モデルを作って、本来なら1年前の2019年4月に走行テストをする予定でしたが、共通部品の到着遅れもあって、走り始めたのは2019年の8月からになりました。
マシンに価格設定はないものの超高級住宅並のプライスは確実
──ところで、GRスープラGT500はエンジンもレース専用に開発されたいわゆるNRE(ニッポン・レース・エンジン)ですよね。
湯浅氏:そうです。2000ccの直列4気筒ターボエンジンです。
──確か、トヨタのレース用エンジンは「RI4AG」というモデルで、スーパーフォーミュラにも搭載されていると思うんですが、同じエンジンになるのでしょうか?
湯浅氏:共通したエンジンではありますが、正確にはまったく同じではないので、兄弟モデルといったほうがいいでしょう。スーパーフォーミュラに関してはホンダさんとの協定で開発をフリーズしているんですけど、スーパーGTのエンジンは進化しています。空力に関してはシーズン中のアップデートはできないのですが、エンジンに関してはシーズン中にアップデートが1回だけ認められています。
──排気量が2000ccとはいえ、レース専用なので燃費が悪そうですね。ちなみにGRスープラGT500の燃費はどれくらいなんですか?
湯浅氏:うーん、正確な数字は言えませんが、1リットルで2km以上は走れますよ(笑)
──GRスープラGT500は現在、TGRチームWAKO’S ROOKIEの14号車(WAKO’S 4CR GRスープラ)とTGRチームWedsSport BANDOHの19号車(WedsSport ADVAN GRスープラ)、それにTGRチームau TOM’Sの36号車(au TOM’S GRスープラ)、TGRチームKeePer TOM’Sの37号車(KeePer TOM’S GRスープラ)、そして、TGRチームZENT CERUMOの38号車(ZENT GRスープラ)、TGR TEAM SARDの39号車(DENSO KOBELCO SARD GRスープラ)と計6台が参戦していますが、すべて同じ仕様なのでしょうか?
湯浅氏:基本的に同じマシンを供給していますが、チームによってホイールとタイヤは異なります。
──おそらく、セッティングに関してもGRスープラGT500はそれぞれで違うと思いますが、GRスープラGT500の特徴といいますか、ライバル車両に比べてマージンがある部分はどこなのでしょうか?
湯浅氏:いろんなところで言われているように、GRスープラGT500はドラッグが少ないので、ストレートに強いという部分はあると思います。
──確かに開幕戦の富士スピードウェイでもトップ5を独占しましたし、今年は富士が4戦もあるので有利ですよね。ちなみに、そんなストレートに強いGRスープラGT500、気になるお値段はおいくらなのでしょうか?
湯浅氏:基本的に販売を前提にしていないので金額がないんですよね。現在、6台をチームに供給していますが、これも販売ではなく貸与している状態です。しかも、クルマとしては6台ですが、スペアパーツも数台分ぐらいの量になるので、もし金額をつけるなら、それを含めての計算になると思います。
──仮にプライスをつけるなら家を買えるぐらいの金額になりますかね?
湯浅氏:間違いなく高級住宅ぐらいの値段になると思います。
──なるほど。では、販売が無理なら貸与は可能なのでしょうか? たとえば私がチームを作って、7台目のGRスープラGT500でGT500クラスに参戦……ということはできるのでしょうか?
湯浅氏:それは難しいと思います。現在、GT500クラスはトヨタが6台、ニッサンが4台、ホンダが5台というバランスで成り立っているし、タイヤメーカーも関係してくるので、TRDやトヨタだけの判断ではなく、GTAを含めて全体での協議が必要になるでしょう。プロ野球で球団を増やすのと同じぐらい大変なことになると思います。それに1台増やすとなるとTRDとしてもスタッフの人数を増やさないといけないですしね。
──宝くじが当たっても難しそうですね。ちなみにスーパーGTの開催時はTRDから何人ぐらいのスタッフを現地に派遣しているのでしょうか?
湯浅氏:通常は30名前後がサーキットに来ていますが、今年は新型コロナウイルスの影響で人数制限を行っているので、営業やマーケティングの担当者は現地に来ていません。それでもGT300クラスの担当者を含めて20名はサーキットに来ていますね。
同じGRスープラでもGT300マシンはさらに別物!
──GT300クラスでは埼玉トヨペットGreen Braveさんが同じくGRスープラをベースにしたニューマシンとして52号車の埼玉トヨペットGB GRスープラGTで参戦しているのですが、GT500のGRスープラGT500と共通性はあるのでしょうか?
湯浅氏:GT300のGRスープラはJAF-GT規定で作られているし、エンジンもレクサスRC-F GT3と共通の5200ccのV型8気筒なので、まったく違うクルマになります。
──GT300のGRスープラGTもTRDがマシン開発したのでしょうか?
湯浅氏:空力のアドバイスはしていますが、基本的にGT300クラスのマシン製作は各チームがやっています。
──なるほど。GT300クラスもまた別のクルマですね。次回はGT300もチェックしたいと思います。ありがとうございました!
このように、スーパーGTのGT500クラスは市販モデルとはまったくの別物。事実、ホンダの主力モデルであるNSX-GTもベースモデルはMRのNSXだが、GT500モデルはFRのパッケージで、GT-Rに関してもレース専用マシンに仕上がっている。
GT500クラスではトヨタ、ニッサン、ホンダの3メーカーが激しいマシン開発を展開するほか、タイヤメーカーに関してもブリヂストン、ヨコハマ、ダンロップ、ミシュランが参入し、激しいバトルを展開。まさにスーパーGTのGT500クラスは世界的にも珍しいほどコンペティティブで、ドライバーにとっても特殊なカテゴリーとなっているようだ。
事実、TGRチームWedsSport BANDOHの19号車でGT500クラスに参戦する宮田莉朋選手は「マシン、とくにエンジンとタイヤの開発競争がすごいと思います。その分、ドライバーとしてはきちんとフィードバックしないといけないし、勝つためにはドライバーだけでなく、チームのメカニックはもちろん、自動車メーカーやタイヤメーカーの協力が必要になると思います」とのこと。
宮田選手はスーパーフォーミュラ・ライツのほか、第2戦ではスーパー・フォーミュラにデビュー。その一方で、2018年~2019年にかけてGT300クラスに参戦するなどさまざまなカテゴリーへの参戦経験を持っているだけに、そのコメントからいかにGT500クラスの開発競争がすごいかが伺える。
開発競争という点をみれば、スーパーGTのGT500クラスはF1にも匹敵するカテゴリーで、それゆえに人気の高いレースとなっているのである。
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