目利きのための目立たないクルマ
ドイツの独立した名門ブランドだった、アルピナ。60年近い歴史を持つ同社は、2022年3月にBMW傘下へ収まることが発表された。その事実は、モデル名にも既に表れている。
【画像】BMWアルピナ グランクーペのB4とB8 競合のスポーツサルーンと写真で比較 全112枚
今回試乗したクルマの正式名称は、BMWアルピナB4 グランクーペという。冒頭に、今後親会社になる名前が追加されている。とはいえ、新しいB4 グランクーペのレシピは、今まで通りではある。
少なくとも現在はMモデルが存在しない、4シリーズ・グランクーペをベースに、技術者集団のアルピナが高速化させた特別なモデルだ。ビジネス・スタイルには、今のところ変わりはない。
同社のプロダクト・マネージャーを務める、トーマス・ハックスピル・コルヌ氏の言葉を借りるなら、「目利きのための目立たないクルマ」。まさに、従来のアルピナのままといえる。
思い切りのサーキット走行も可能ながら、一般道を主軸にセッティングされた、速く、控えめで繊細なロードカー。普段の道を、速く走るために作られている。
滑らかな4ドアクーペのボンネットに収まるのは、最高出力495ps、最大トルク74.2kg-mを発揮する、3.0L直列6気筒ツインターボ・エンジン。そこに、8速ATと後輪が主役の四輪駆動システム、xドライブが組み合されている。
英国では8月から販売が始まる予定で、価格は8万663ポンド(約1347万円)から。日本へも導入が決定している。
300km/hも74.2kg-mも公道のため
筆者のように古くからのクルマ好きにとって、4ドアクーペというモデルは少し中途半端な存在にも思えがち。だが最近は、2ドアクーペよりビジネス規模の大きいカテゴリーへ成長している。
BMWによれば、4ドアのBMW M440i グランクーペと2ドアのM440i クーペを比較すると、販売台数は3:1という比率で大差を付けているという。アウディのRS5 スポーツバックも、2ドアのRS5と同等の割合で売れている。
ちなみに、現在の4シリーズ・グランクーペでは、このBMWアルピナによるB4がRS5 スポーツバックの直近のライバルに該当する。そのため、通常のアルピナとは微妙にセッティングが異なるようだ。
さて、アルピナのオーナー像としては、ドイツ・フランクフルトから400km離れたミュンヘンまで飛行機や電車を使うのではなく、自らクルマを運転するような人が含まれる。平滑なアウトバーンを使って。
300km/hの最高速度も、2500rpmから湧き出る74.2kg-mの極太のトルクも、そのために与えられている。しかし今回、BMWアルピナが用意してくれた試乗コースは、ドイツ北部のノースライン・ウェストファリアにあるサーキットのみだった。
このビルスター・ベルク・サーキットは、広い敷地に滑らかな路面が敷設され、多彩なコーナーが混在している。操縦特性の限界を見極められるベスト・コースの1つといえる。短時間に、多くの負荷をクルマへ与えていける。
動的能力を確かめられることは間違いない。とはいえ、せっかくのアルピナだから、公道を走りたいと思ったことは事実だ。
心地良いアルピナの雰囲気が香る車内
B4 グランクーペがこのコースで感動させてくれれば、公道での走りも保証されるといっていいだろう。状態の良くない舗装での、乗り心地の快適性を除いて。といっても、アルピナはこれまでも過ちを犯したことはなかったけれど。
そんなことを思いながら、左前のドアを開きドライバーズシートへ座る。ベースの4シリーズ・グランクーペと同様に、太めのリムのステアリングホイール裏には、シフトパドルが装備されている。
シートやステアリングコラムは、調整域が広い。簡単に、筆者へピッタリのドライビングポジションを見つけることができた。
ブレーキペダルは、想像していたよりストロークが深かった。気温が高く、既に試乗車はサーキットを走り込んでいたためだろう。真新しいコンディションなら、もっと浅いはず。
インテリアは、基本的にBMWのそれと変わらない。だが、レザーで仕立てられている部分には丁寧にステッチが施され、トランスミッション・トンネルの手前側には、シリアルナンバーが記されたプレートがあしらわれている。
ダッシュボードやドアパネルは、カーボンファイバー製のパネルで飾られている。アルピナの雰囲気が香る車内は、心地いい。
メーターパネルのモニターへ表示されるグラフィックスは、オリジナルのものが実装してある。そこに描かれるクルマのイラストも、ちゃんとアルピナ仕様。ボディカラーも合わせてあるという、コダワリがうれしい。
この続きは後編にて。
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