ワゴンR「スマイル」 登場の背景
執筆:Hajime Aida(会田肇)
撮影:Masanobu Ikenohira(池之平昌信)
1993年に登場以来、ハイト系ワゴンとして一世を風靡したワゴンRに、スライドドア仕様が登場した。
「ワゴンRスマイル(以下:スマイル)」である。
ワゴンRは背を高めとしたことで生み出された広い室内空間が人気だったが、今はそれよりも背が高いスーパーハイト系ワゴンにトレンドが移っている。
中でもこのカテゴリーで人気なのがスライドドアで、ヒンジドアと違って狭い駐車場でも壁や隣に駐まっている車両を気にせず楽に乗り降りができるメリットがある。
この使い勝手の良さを一度味わってしまうと後戻りはできないようで、その人気はデータからも読み取れる。
スズキの調査によれば、軽乗用車全体でスライドドア車の比率は順調に伸びており、2012年の35.3%から20年では52.3%と半数を超えるまでになっているという。
ただ、もっと身近なサイズ感でスライドドア機構が欲しいというユーザーは相当数存在した。
そのカテゴリーをいち早く確立したのがダイハツ「ムーヴ・キャンバス」だった。今やその売れ行きは、本家のムーヴを上回る勢いだ。
そうした状況にもかかわらずスズキはスライドドア搭載車のラインナップが不足していた。そんな状況下において、満を持してこのカテゴリーに投入されたのがスマイルというわけだ。
スライドドア メリット/デメリット
スマイルは全高が1695mmと、1800mm近くのスーパーハイト系よりも低くワゴンRよりも少しだけ高い。
つまり、「スライドドアは欲しいが、全高は1700mm以下で十分」という、ワゴンR並みの運転感覚で、スライドドアの使い勝手の良さを味わえるのがスマイルと言っていいだろう。
このカテゴリーは前述したようにダイハツのムーヴ・キャンバスが先行していた。それだけに、そのライバルを十分研究し尽くして登場しているのは言うまでもない。
年代の高い層からすればスライドドアは貨物車のアイテムという印象が強いが、「30歳代以下では、子供の頃からミニバンなどでスライドドアに馴染んでいる(チーフエンジニアの高橋正志氏)」ので、抵抗感はまったくないんだそうだ。
ただ、スライドドアを採用するならその使い勝手は少しでも高めておきたい。
そこでスマイルではスライドドアの開口部を拡大。スズキのスーパーハイト系ワゴンである「スペーシア」と比べれば、それより高さこそ劣るが、左右の開口部は同等を実現した。
もちろん、スライドドアはエントリグレードの「G」以外はすべて両側とも電動式を採用。予約ロック機能も備え、リクエストスイッチでも操作可能とした。
ただ、スライドドア故の弱点もある。
電動式とすることでワゴンRよりも車重が約50kg以上も重く、大人1人分をいつも余計に運んでいる格好となってしまうのだ。これにより、軽快な走りという点では少し物足りなさを感じてしまう可能性はある。
立体駐車場に入れない全高でも…
では、一般的な立体駐車場には入らない全高1550mm以上で、1800mm以下というスーパーハイト系未満のクルマに商品力はどうあるのか。
これが却って中途半端にはならないのだろうか。
これについてチーフエンジニアの高橋正志氏は、「実は調査すると、このサイズのクルマに対して想像以上のニーズがあることがわかった」と話す。
「とくに女性からは背が高いと運転がしにくそうとか、駐車がしにくそうといった声が大きい。実際は前後左右の寸法は同じなので、あくまで感覚的なものでしかないけれども、この(中途半端にも見える)高さはそういったニーズに応えられると考えている」と説明してくれた。
さらに見逃せないのが収納力だ。
軽乗用車の場合、車幅が1480mm以下であるため、高さ1550mm以下ではおのずと間口も狭く、かさばる荷物は収納できない。
しかし、これを1700mm近くまで高くすると収納力は増し、その使い勝手は一気に高まる。
とくにスマイルでは、リアシートを畳むと座面がフォールダウンして荷室はフラットな空間として提供される。
カーゴルームとして使う時、フロアがフラットかそうでないかでは使い勝手は大きく違うわけで、これはスペーシアで培われたスズキならではのこだわりとも言えるだろう。
そして、このサイズはデザイン面でもスーパーハイト系にはないスタイリッシュさも生み出した。
デザイン/運転席に座った印象
室内長はスペーシアに匹敵する一方で車高を抑えたため、本来ならサイドビューは間延びした感じとなりがちだ。
しかし、スマイルではドアに凹みのプレスラインを与えつつ、さらに濃いブラウンカラーや明るいホワイトカラーによる2トーンを組み合わせることで、むしろギュッと凝縮された印象さえ受ける。
アウターミラーをドアパネル取り付けたことも、アクセントとして役立っていると言えるだろう。
フロントグリルのデザインはメッキを多用したスペーシアにも通じるが、肉厚感のあるヘッドライトがどことなく愛らしく高級感も伝えてくる。
最上位のハイブリッドXグレードに装備されるLEDヘッドランプはクリアなレンズがどことなく“麗しさ”を感じさせるし、ポジションランプやウインカーが点灯するとアイキャッチャーとしても十分な効果を発揮する。
運転席に座ると、高めのセッティングにより視界はすこぶる良好だ。
ただ、ペダル位置にポジションを合わせるとステアリングが遠くなってしまい、逆にステアリングに合わせるとペダルが近過ぎてアクセルとブレーキの踏み替えがしづらくなってしまう。
軽乗用車もそろそろテレスコピック・ステアリングの搭載を考えた方がいいのではないだろうか。
内装はスッキリまとめ上げられたプレーンな印象を受ける。緩やかにラウンドするダッシュボードは優しさと同時に親しみやすさを感じさせ、ルーフはキルティングをモチーフにしたデザインが心地良さを伝えてくる。
その上で、ベンチレーターやドアノブ周囲にはカッパーゴールドを施すなど、キラリと光らせる演出も忘れてはいない。
走りとADASで分かるターゲット層
スマイルに搭載されるエンジンは、マイルドハイブリッドとした自然吸気(NA)だけとなる。
パワーユニットはハスラーに搭載されたものと同じで、最高出力は49psだ。組み合わせるトランスミッションは軽乗用車では一般的なCVTを採用するが、アクセルの動きに比較的リニアな反応でスタートする。
ただ、アクセルを少し強めに踏むもんならエンジン音が高まり、その割にスピードが上がっていかない。その意味でスマイルは、緩めにしずしずと街乗りするのが似合うクルマと言えるのではないだろうか。
また、軽乗用車でも搭載が珍しくなくなってきたアダプティブクルーズコントロール(ACC)は、上中位グレードであっても「セーフティプラスパッケージ」としてオプション扱いとなる。
この辺りを踏まえても、高速道路を使って遠くまで走るユーザー層はあまりターゲットとしていないことがわかる。ただ、誤解のないように伝えておくと、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警報機能などをセットにした「スズキセーフティサポート」は全グレード標準としている。
見逃せないのはヘッドアップディスプレイの採用だ。
セーフティプラスパッケージに含まれるこの機能は、運転席前方のダッシュボード上に車速、シフト位置、各種警告などをカラーで表示できるもの。
ドライバーの視線上で必要な情報が表示できるので、運転に不慣れな初心者をはじめ、注意がついおろそかになりがちな高齢者にとっても役立つこと間違いなし。
スズキはこの機能をワゴンRで初採用し、スペーシアにはフロントガラス投影式を展開するなど、積極的に搭載を進めている。そうしたスズキの安全へのこだわりは高く評価したい。
ハイト系ワゴンの市場 どうなる?
今回試乗できたのは、ラインナップ中、最上位グレードの「ハイブリッドX」で、セーフティプラスパッケージ装着モデルだ。
他にグレードとしては、中位の「ハイブリッドS」、下位の「G」があり、それぞれFFと4WDが選択できる。
上位2グレードは“ハイブリッド”としているものの、システム的にはマイルドハイブリッドで、燃費として若干効果がある程度だ。
前述したようにラインナップにターボはなく、NAのみの展開となる。実は直接のライバルとなりそうなダイハツ「ムーヴ・キャンバス」もエンジンラインナップは同様。
まさにスマイルはそのライバルを研究した上で生み出された、後発ならではのプラスポイントが最大の武器だ。
このスマイルの登場により、スライドドアを備えたハイト系ワゴンへの人気にさらに火が付く状況になりそうだ。
ワゴンRスマイル・ハイブリッドX スペック
ワゴンRスマイル・ハイブリッドX(FF)
価格:159万2800円
全長:3395mm
全幅:1475mm
全高:1695mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費(WLTC):25.1km/L
CO2排出量:92.5g/km
車両重量:870kg
エンジン形式:657cc直3+モーター
使用燃料:ガソリン
最高出力(エンジン):49ps/6500rpm
最大トルク(エンジン):5.9kg-m/5000rpm
最高出力(モーター):2.6ps/1500rpm
最大トルク(モーター):4.1kg-m/100rpm
ギアボックス:CVT
乗車定員:4名
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みんなのコメント
スペーシアでいいやん!?w
って思うユーザーは結構いそう(^^;