ここ数年、ランドローバー ディフェンダーは僕の大好きで欲しい自動車リストの上位に必ずあり続ける自動車で、それはおそらくこれからもそのままであることに間違いはない。購入に踏み切れないハードルは価格と2メーター近い全幅で、夜な夜なコンフィグレーションしていると、僕の欲しい90か110のディーゼルエンジンに、布内装でキャンバストップという組み合わせで、オプション装備をできるだけ減らしてシンプルにしても1,000万円を軽く超える。その昔、(前のモデルの)ディフェンダー90は400万円くらいで買えたのになぁ、とおじいさんの繰り言を述べたところで、それが現実なのだからしょうがない。
そんな与太話はともかく、大好きなディフェンダーに期間限定で5リッターV8スーパーチャージャー搭載モデルが今年だけ発売されているという。欲しいか欲しくないか、買えるか買えないか(今回の試乗車は1,598万円に各種オプションを加え、なんだかんだで1,700万円であった)は別として、こりゃ今のうちに、あるうちに乗っておかなくっちゃいけないでしょう、という気概を持ってシートによじ登る。
【JAIA試乗会】未来のジドウシャ メルセデス・ベンツEQS 450+
室内の眺めはいつもの品よく、センスの良いディフェンダーのそれと同じである。あえてV8スーパーチャージャーらしさを前面に押し出さず、ブラウンを基調にちょっとだけスポーティに仕上げた内装は、やっぱりランドローバーはうまいなぁ、というか、こういう仕様の試乗車をオーダーしたジャガー・ランドローバー・ジャパンは分かっているよなぁ、というべきセンスの良さで、しばらく見惚れて眺めてしまう。蛇足ながら同会場にあった90の内装のクリーンで素敵なことには感銘を受けたし、自分で選ぶならああいう仕様でぜひ選びたい。
さて他のディフェンダーと同じようにエンジンをかけると、実にしずかにシュンと5リッターのV8エンジンは回り始めた。他のハイパフォーマンスモデルのように、かかった瞬間にワン!!と吠えたりしないのが実によろしい。僕はあの演出が本当に嫌いで、排圧の高いような、あえてうるさく演出した排気音同様、とても苦手である。それからしたらこの回り方は実にジェントル、そして大人であり、そこが例えばゲレンデヴァーゲンのAMGなどとは正反対の価値観を持っているといえよう。それでもどこかに底知れぬ秘めたパフォーマンスを感じる様な空気を醸し出しながら、525馬力で625Nmものパワーを持つディフェンダー110は会場から路上へと歩み始めた。275 45/22というタイヤだけは、ややオーバーサイズだし、重さを感じないわけにはいかないが、シャシーとサスペンションの相互作用からか、どこか優しい風合いだけははっきりと感じとることができる。
走り始めても普通に乗っている限り荒々しさは無縁だが、それでもディーゼルエンジンのディフェンダーとは圧倒的に違うパワー感とエンジンフィールである。好き嫌いは別としても確実にどこかから、V8の低いうなり声が聞こえてくるが、そのサウンドも昔の古いOHV時代のレンジローバーV8を彷彿とさせるような、どことなく優しい音質である。
そんな古い時代のレンジローバーと最も違うところは、このエンジンが実によく回ることで、5リッターものV8が6000回転以上もシューッと回るのを体感すると、時代はこういう進んだなぁ、と思うと同時に、こんなエンジンを堪能できる時間はもうそれほど長くない、ということにも気づく。実際問題として、このディフェンダーV8は2024年一年間の限定発売だというし、もうこういう大排気量最後の数年に我々は立ち会っているのかもしれない。ずるいかもしれないが純粋な内燃機関を味わっておくなら今のうち、かもしれないし、この大きさ(特に全幅の1,995mm)に抵抗がないのであれば、諸種のスーパースポーツと違い、日常使いもできるだろう。
くどいようだが僕ならばディフェンダーにはディーゼルエンジンを必ず組み合わせるが、初代レンジローバーや初代のディフェンダーを、V8モデルで乗っていた方ならば、今回のモデルは、「5.9km/ℓ」と表示されていた燃費計の数値も含めて、きっとすんなりと受け入れてもらえるはずである。
Text & photo: 大林晃平
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