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本田宗一郎もひと目ボレ! 現代のダックス125に通じるスタイルはアルミフレームで計画された

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本田宗一郎もひと目ボレ! 現代のダックス125に通じるスタイルはアルミフレームで計画された

 春のモーターサイクルショーで大注目を集め、7月21日に発売予定のホンダ・ダックス125。最大の特徴である「胴長短足フォルム」は、1969年に生まれ、1970年代のレジャーバイクブームを築いた元祖ダックスホンダがモチーフに他ならない。

 この秀逸な造形を生み出したホンダのデザイナーが先日開催されたイベントに登場。逸話満載の開発ストーリーを語ってくれた!

本田宗一郎もひと目ボレ! 現代のダックス125に通じるスタイルはアルミフレームで計画された

文/沼尾宏明、写真/HONDA、Webike

注文殺到の新型ダックス125、そのルーツは50年前にさかのぼる

 メインフレーム内部に燃料タンクを内蔵するというアイデアで唯一無二のスタイルを実現した往年のダックスホンダ。これを現代風にリバイバルした原付二種モデルこそ新型の「ダックス125」だ。モンキー125やスーパーカブC125らと同系の123cc横置き空冷4スト単気筒をユニークなデザインの車体に積み、独特な存在感を醸し出している。

 モーターサイクルショーでは、またがり可能な車両の中でも一際長蛇の列ができるほどの人気ぶり。2022年7月の発売を控え、予約も殺到しているという。

 そんな最中、「モンキーミーティング」が4月24日、東京サマーランドで実施された。モンキーをはじめ、ダックス、ゴリラ、シャリイ、モトラなど往年の派生機種、近年のグロムほかスーパーカブ系空冷横置きエンジン車両が参加対象。ホンダの最新原付モデル試乗会や、カスタムコンテストも行われた。

 中でもイベントの目玉が、元祖ダックスのデザイナーである森岡實氏を招いたトークショー。「蘇るダックス」をテーマに、開発当時の秘話を披露してくれた。

 森岡氏の略歴を説明すると、1961年に本田技術研究所へ入社。軽四輪スポーツカー、S360のクレイモデルを製作した後、二輪、四輪、汎用製品のデザイナーとして活躍。ダックスだけではなく、CB900F/750F、CBX、CB1100Rという現在でも多くのファンを持つ、希代の名デザインを手掛けた。2002年に定年退職し、翌年から大学などの非常勤講師として後進の育成に励んでいる。

元祖ダックスをデザインした森岡實氏と、7月に発売される現代版ダックス125(44万円)のツーショット

本田宗一郎の助言で生まれた「燃料タンクもサスも見えないバイク」

 デザイナーという職業を選んだキッカケについて聞かれ、「元々、医者か絵描きになろうと思っていた。父を早くに亡くしたので、お金を稼ぐまで時間がかかる医者よりデザイナーを選んだ」と森岡氏。ホンダを選んだのは「誉められた話じゃないけど、1961年当時、日本で給料が一番高かったから(笑)。破竹の勢いでホンダが伸びている時期でした」。

 当時ホンダのデザイナーはわずか7名で、二輪四輪汎用全ての機種を7人でこなしていた。ホンダ創業者である故・本田宗一郎氏(1969年当時は社長)との思い出も数多い。

 「社長は“自分がデザイン係長だ”と言っており、絵も描くし、遊び心が本当にわかっていた。様々ことを一から手ほどきを受けました」と森岡氏は当時を懐かしむ。

 ダックスが生まれたのはアメリカ市場の要望によるものだった。ホンダは1961年に多摩テックをオープン。その遊戯車両としてモンキーが生まれ、やがて市販版が1964年からアメリカに輸出される。

 「モンキーはあまりに小さかったため、“もう少し大きなバイクが欲しい”という要望がアメリカ本土からあったのです」。こうして「モンキーのお兄さん」としてデザインされたのが初代ダックスホンダだ。

 当時の宗一郎社長から「もっと取っつきやすく、機械を感じさせない、シンプルなデザインをつくれ」との檄が飛び、「世界に類を見ないバイクを目指した」と森岡氏。

 「ガソリンタンクもサスも見えない。できるだけいろんなモノをシンプルにしました。フレームも成型にしてしまえばシンプルな形になりますし、生産もしやすい」。こうして、ダックスのデザインスケッチが描かれた。

 ここで森岡氏の作戦が上手く決まった。

 「みんなでスケッチを始めたのですが、私はまだ新米で絵を描かせてもらう時間があまりなかった。そこで人知れず家でスケッチを書いておき、10分で書いたような顔で、社長に見えやすい位置へわざとスケッチを出しておきました。それを一目見た社長が“これだ!”と言って、ゴーサインが出たのです」

 しかし、腕によりをかけたスケッチはアメリカホンダの営業サイドから却下されてしまう。「モンキーをそのまま大型化したバイク」ではなかったからだ。現地に飛んだ営業担当者はせっかくのスケッチを二つ折りにして帰国。森岡氏にとって落胆する出来事だった。

 この営業サイドに反し、デザインに惚れ込んだ本田宗一郎社長の一声で開発は続行。クレイモデルが造られることになる。

1967~68年頃に描かれたデザインスケッチ。フレームのリブなど細部は異なるものの、フォルムはまさにダックスだ

当初の案では最先端のアルミフレームを採用する予定だった!

 ダックスは、内部に燃料タンクなどを積め込むために中空の鋼板プレスフレームを採用したが、当初はアルミダイキャスト製を検討していたという。

 「一体成型もモナカ合わせも簡単なのでアルミダイキャストを提案しました。しかし、コストが高かった。またアルミは、鉄に比べて粘りがないので万一の際に割れやすい。テストをするうち安全性が確保できないため、やめました。重量もそれほど軽くなかったのです」

 鋼板プレスフレームはベンリィやカブで実績があったのも大きかった。それにしても、実現しなかったとはいえ、先進性に驚く。アルミフレームが公道市販車に初採用されるのは1983年のRG250Γ(スズキ)。10年以上前に発売が検討され、もし実現していればダックスが第1号車だったのだ。

 さらに初期の構想ではリヤサスがなかったが、一部のクルマで採用実績がある、いわゆる「ナイトハルト機構」を検討していた。フレーム内部にゴムを入れ、一般的なサスにおけるバネの役割をゴムが担い、衝撃を吸収する機構だ。

 市販版では、外側装着の一般的なリヤ2本サスに落ち着いたが、これは開発期間の関係だったという。

 「当時、アメリカ市場ではクリスマスプレゼントとしてレジャーバイクを販売していました。そのタイミングを逃せなかったので、開発期間が短かった。実現できなかったのは残念な点です」

「見えないリヤサス」は、四輪車N360のエンジンラバーマウントを使って試作された。※図版は『モーターサイクリスト』1976年10月号より

名前は後付け、本田宗一郎氏の愛犬「ダキシー」が由来!?

 ダックスのネーミングはデザインの時点で決まっておらず、営業サイドからの提案だったとのこと。また、本田宗一郎氏の愛犬「ダキシー」が由来との説もあるが、森岡氏によると「その辺はよくわからないですけど、わかりやすかったんじゃないですかね」とのこと。

 ともかく1969年8月から市販されたダックスホンダST50/ST70、およびアップマフラーの同エクスポートは反響が凄まじかった。特に女性に人気だったのが印象的だったと森岡氏。同9月から各国でも販売が開始され、米国、欧州でも売れた。

「特に南仏ではビーチ向けのレンタルバイクとしても売れました。単純にモンキーの大型版だとここまで売れなかったでしょうね。さすが社長は先見の明がある。信じたものを貫いた結果かと思います」

1969年の試作でインパクトが強烈。「冬でも売れる商品が欲しい」との要望から、ビーチならぬ雪上を走れる低圧タイヤをダックスに履かせた。十分な走行性能が得られず、結局ボツに

発売7年で65万台以上を販売した驚異のヒットモデルに

 その後、ダックスは様々なバリエーションを販売。世界的に見ればモンキーのセールスを上回ったという。ちなみにモーターサイクリスト誌の1976年10月号によると、同年6月末におけるダックスの累計生産台数は65万1125台。販売7年でこの数字は驚異的だ。

 なおカブ系エンジンを搭載するモデルは、ダックスのほか、モンキー、ハンターカブなど様々あったが、これも頑丈で燃費がよく、様々なニーズに応えられるエンジンだったからこそ。

「アメリカでスーパーカブを販売した際、あまりセールスがよくなく、在庫があった。それをなんとかしようと色んなバリエーションを考えた結果、新しい技術も出てきた。失敗を上手く成功につなげることができたということでしょうね」

 森岡氏にとってダックスという存在は「オリジナリティという点で凄くやりがいがあった。50年経っても皆さん愛されている、かけがえのない自分の息子のようなバイクです」と話す。そして、「ホンダのバイクを愛してくださってありがとうございます。いつまでも可愛がって乗ってもらえることは、デザイナーにとってこれ以上嬉しいことはないです」と締め括った。

1974年のカタログ。キャリア付き、マニュアル4速(標準はノークラッチ3速または4速)、スポーツ、ノーティダックスなど様々な派生車とカラーが登場した。中でもホワイトダックスは人気

時代は一巡し、新型ダックスは高コストを克服してプレスフレームを採用!

 そして現代のダックス125も、最大の特徴であるプレスフレームを再現している。

 モーターサイクルショーで話を伺ったダックス125開発責任者の八木 崇氏は、「プレスバックボーンフレームを今の時代に出すことが我々のこだわりです。今の時代にプレスをやるのは、それ以上に安い技術があるのでコスト的なところも含めてハードルが高いのですが、ダックスはプレスフレームで再現したいという気持ちが開発としては強かったですね」と語る。

 また、昔と比べて電子部品などが大幅に増加していることもあり、「フレームの中に色々なものを入れながらデザインを成立させるのが苦労した」とデザインPLの横山悠一氏が話す。

 ここ最近でプレスフレームが外観を兼ねるバイクはなく、元祖ダックスを現代に再解釈したフォルムは大いに魅力的だ。そしてモンキーより大柄で、二人乗りしやすいキャラクターも元祖と同様。50年前の昭和と同じく、令和の現代にもダックスは「モンキーのお兄さん」として走り出す。

右からダックス125開発責任者の八木 崇さん、デザインPLの横山悠一さん、国内企画営業領域担当の常松智晴さん

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