トヨタが日本の自動車販売戦略を大変革させようとしている。
2018年4月、東京地区の販売系列会社である東京トヨタ株式会社/東京トヨペット株式会社/トヨタ東京カローラ株式会社/ネッツトヨタ東京株式会社の4社を、2019年4月に統合すると発表。
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この「系列会社の統合」は今後、全国的に進めてゆく方針とのこと。
さらにトヨタは、かねてより日本市場で販売している60車種を約半分に減らす…とも語っている。
トヨタはこの日本を、いったいどうするつもりなのか。
クルマが売れなくなってきたこの日本市場で、どのような販売戦略を立ててゆくのか。日々、新車ディーラーへ足を運び、販売店トップとも交流の深い流通ジャーナリストの遠藤徹氏が、その戦略を明らかにします。
文:遠藤徹
■トヨタが4系列店全車種を併売、実質1チャンネル化へ
トヨタはこのほど、国内販売の4系列店で全車種を併売する方針を発表した。2025年頃までに各チャンネルの専売車種をなくし、全モデルを全系列店の店舗で購入できるように変える。
トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店の4系列店の法人は残すが、全店舗で全車種を扱えるようにすることで実質的には1チャンネルへの統合となる。
2018年11月1日に名古屋市内で開く販売店代表者会議でこの方針を表明することで、全国の各販社関係者に理解を求める方針である。
トヨタはこれまで、4系列店の扱い車種数を2025年までに半分程度に減らす(約60車種を約30車種へ)方針を販売店に通達していた。専売車種は減らすものの、トヨタ店のクラウン、トヨペット店のハリアー、カローラ店のカローラ、ネッツ店のヴィッツなど、各系列店の「エース」と呼べるような車種の専売化は残し、4系列店は存続させるというものだった。
しかし今回明らかにした販売戦略では、系列統合化をさらに進め、上記専売車も含めて全系列店が全トヨタ車を扱うというものになる。
車種数を半分に減らすが、全車種を全系列店が扱えるようになるので、各系列店の扱いモデルはそれほど減らないようなかたちとなる。その代わりトヨタ系列店間の販売競争がさらに激しくなり、値引き競争が頻繁に行われるようになるだろう。
購入するユーザーにとっては朗報だが、乱売で販社の体力は消耗し、敗者は経営が困難になる可能性がある。
以下、トヨタのこの「販売改革」とも言える動きを、もう少し細かく見てゆく。
■販売系列の統合は全国に広がる動きなのか
東京地区のような、大手系列店がメーカー(トヨタ自動車)資本の販売店は統廃合になるが、地場資本店が大きな力を持つ他地域は、4系列店法人を残したまま、しばらくは全系列店併売態勢で継続することになりそう。経営基盤がしっかりした販社が多いために、メーカーであるトヨタ自動車の思惑通り、1法人化を進めるのは難しいと思われる。
では全国的なディーラー系列店の統廃合には至らないのか?
統廃合は進む。現在の系列店販売は、実質的には7年後に終わるが、しかしそれまで紆余曲折があると思われる。
形としては4系列店の名称や法人は残るが、扱い車が同じで車種数は半減する。それでもトヨタ車(レクサスを含む)年間の国内販売規模は150万台を維持するため、各系列店間での販売競争はさらに激化するので、敗者は生き残りが難しくなる。資力の弱い系列店は消滅する可能性があるが、地域による格差が生じるようになるので生存販社は一様ではない。
■系列販売廃止と車種整理が進むとなにが起こるのか
全チャンネル全車販売となると、まずはトヨタ系列店同士のつぶし合いが起こるが、その方向性は地域によって異なるはずである。
ただ全国ほとんどの地域では「トヨタ店」が最も強力であり、次いで「トヨペット店」、「カローラ店」、「ネッツ店」の順で(ゆるやかではあるが)会社の規模に序列があるので、この系列店間の格差が大きくなり、弱者から消滅の危機を迎えることになる。
そうなると廃業あるいは職種替えの危機に直面することになるが、クルマの販売やサービスをやめるわけにはいかいないとなれば、何もトヨタ車の販売だけに拘ることはない。ホンダ、日産、スズキ、マツダ、スバル、三菱自動車、あるいはベンツ、BMW、VWなどの輸入車販売に鞍替えすることも十分に考えられる。
■トヨタの車種統合(廃止)はこの先も進むのか
車種の統廃合は7年後の2025年に向けて一段と進むのは間違いない。全系列店が同じ車種を扱うのだから、同じトヨタ車で競合関係にある車種は、どちらかがなくなる可能性が強い。
姉妹車だとアルファード/ヴェルファイア、ヴォクシー/ノア/エスクワイア、ルーミー/タンク、ポルテ/スペイド、プレミオ/アリオンは統合され、最も販売台数の多いモデルに集約されるはず。
プレミオ/アリオンはカローラ・アクシオと競合するので両モデルともなくなってしまうかも知れない。ポルテ/スペイドはルーミー/タンクと同じようなコンセプトだから両モデルとも整理対象の運命にあると考えてよい。
■現行トヨタ車のなかで消えてゆきそうな車種は
姉妹車の解消のほかには、マークX、エスティマ、プリウスα、86などが上げられる。いずれも次期型ないし後継モデルの開発プロジェクトは動いていない。
マークXは今年中か2019年前半にはモデル廃止の見込みである。
エスティマは「電気自動車のパワーユニットを搭載するのではないか」という情報もあるが、これとは違うもっとコンパクトなボディに第1号として搭載する可能性が強い。プリウスαもマーケットニーズがあまりないので廃止が濃厚である。
86はスバルとの共同開発であるが、次期型の開発計画が動いていない。モデルサイクルが長い車種ではあろうが、このままでは一代限りで消滅してゆく可能性が高い。
■トヨタは日本の市場をどうしたいのか
トヨタは日本の新車市場が今後年間500万台規模にとどまり続けると予想している。
こうした中で、トヨタがこのうち150万台、シェア33%を安定的に確保するには、どういった販売体制をつくったらよいかを考慮している。
それにはトヨタ系列店を1本化し、レクサス店との2系列店態勢がベストであり、トヨタブランドの4系列店は1チャンネルに集約すべきとのスタンスである。
そのために車種を削減し、系列店の統廃合を進めようとしている。
ただ前述のように、現在は地域によって販売店ごとの力関係の差が大きく、なかでもトヨタ店系列会社は多くが経営基盤のしっかりした地場資本である。こうした会社の経営改革はすぐにはできないので、当面は4系列店の法人は残し、全店併売体制を構築するとの戦略を打ち出したものと思われる。
■首都圏営業マンの反応は
◎トヨタ店
「これまでクラウンを(トヨタ店系列で)独占的に扱ってきたのが、他系列店でも売るようになるのは厳しい。乱売競争になり、収益・下取り車価格も落ちるようになるのを心配している。他の扱い車も含めて、固有のユーザー80%の代替え母体が存在しているので、がっちりと守ってトヨタ系列店同士の競争に打ち勝っていかなければならないだろう。いっぽう歓迎したい面もある。たとえばスティマの次期型がなくても、アルファードやヴェルファイアを扱えるようになるのは大歓迎だ」
◎トヨペット店
「トヨペット店にとってはハリアーの専売を失うが、代わりにクラウンが扱えるようになるのでメリットのほうが大きいと考えている。クラウンはマークXや歴代マークIIの上級シフトユーザーに代替えを要請できるのでありがたい。マークXがなくなる穴を十分に埋められるだろう。カローラもプレミオがなくなる代わりを十分にしてくれるに違いない。競争は厳しくなるだろうが、チャンスは拡大するだろう」
◎カローラ店
「カローラの専売がなくなるのは痛いが、その代わりにクラウン、ハリアー、アルファードなどの有力モデルが扱えるようになるのでメリットはある。ヴィッツはこれまでも専売のパッソがあったので、販売戦略への影響は少ない。これまでもトヨタ系列店同士の競合は頻繁にあったので、販売競争は慣れっこだともいえる。サバイバル戦に生き残るべく必死に売りまくるだけだ」
◎ネッツ店
「クラウン、ハリアー、カローラを扱えるようになるのは朗報だが、果たして新規のお客さんをどれだけ獲得できるか不安はある。上級モデルは他の3系列店との競争になるが、ネッツ店は不得意な分野だから、シェア争いには不利になるかも知れない。
ヴェルファイア、ヴォクシーはこれまで姉妹車争いでリードして来たが、今後は専売でなくなるので泥仕合になるかも知れない」
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