軽自動車からスーパーカーまであらゆるクルマを所有し、クルマ趣味を追求し続ける自動車ジャーナリスト西川淳氏がスタートさせたチャレンジ企画。タイトル通り、無茶、無謀と思われる究極のクルマ遊びを考案し、それを実践。クルマ好きの、クルマ好きのための冒険連載。今回は“レーシングカー”で公道を走った!
クルマ好きなら一度はやってみたい夢
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レーシングカーで公道を走る。クルマ好きならば一度はやってみたい夢だろう。是非を問えば、決して是とは返せまい。何ならサーキット専用のクルマを一般道で走らせてどうする? そんなの非常識だ! とばっさり切って捨てたっていい。
けれどもサーキットで活躍したあのマシンをいつもの道で走らせたとき、自分や周りの自分以外に起きるであろう変化への期待が、クルマ好きをしてそう思わせてしまうだけの話である。
所詮クルマ好きなんて子供のようなもの。スポーツカーメーカーだってそのことをよく知っている。だからレースカーと同じウィングを付けては喜ばせ、レースカーと同じパワーを踏ませては歓ばせ、レースカーと同じカラーリングを施しては悦ばせる。その究極として、レーシングカー・オン・ザ・ロードがあるのだと思う。
世界に6台しかない962の“ロードカー”
北関東に究極のカーガイがいる。前回のこの“夢実現企画”でトヨタ2000GTを快く貸してくれたAuto Romanのモロイさんだ。彼はクラシックカーから国産旧車、スーパーカー、レーシングカーまで幅広く楽しみ、そのコレクションは膨大。最近ではその昔の一流フォーミュラ1マシンを駆ってサーキットを攻めている。そんな彼が最も憧れたレースカーが、80年代の耐久シーンを席巻したグループCカー、ポルシェ956&962だった。
彼のファクトリー兼ガレージには2台の962があった。1台はかつて日本のサーキットでも活躍したホンモノのレーシングカーだが、もう1台にはなんとナンバーが付いている。見た目にはまるで962だし、有名なタバコブランドがメインスポンサーだった時代のワークスカラーに塗られているから、どこからどうみてもレーシングカーなのだが、その実れっきとしたロードカーなのだ。
この個体について詳しく語り始めるときりがないので、興味をもった方はさらに専門メディアにあたってもらうとして、物語の触りを紹介するとこうなる。
80年代にポルシェ956とそのアメリカ版である同962(C)に乗って活躍したヴァーン・シュパンというドライバーがいた。彼はポルシェワークスチームの一員としてル・マン24時間にも勝っている。日本でも956で走ったし、チーム・シュパンを率いたりもした。要するに彼はこのレーシングカーのマイスターだったのだ。
そんな彼が日本の協力者とともに962をベースとしたロードカーの限定販売を企画。それはベースの設計を962に拠りながらも、モノコックボディをアルミニウム製からCFRP(カーボンファイバー)製にグレードアップしポルシェ製レーシングエンジンを積んだハイパーカーだった。
その名もシュパン962LMと同962CR。前者はレーシングカースタイルそのもので、後者はロードカーのポルシェイメージ(959あたり)を散りばめていた。ときは既にバブル末期。協力者がプロジェクトを降りると、シュパンはあえなく破産。50台の限定生産は達成されず、LM2台(+1台のプロトは焼失)とCR4台(プロト2台)の合計わずか6台が生産されたに留まった。当時、およそ2億円のプライスタグが付けられていたという。
モロイさんは数年前にそのうちの1台、4番目に造られた962LM(VS 962LM 02)と出会った。そのスタイリングは962Cのレースカーそのもので、シャシーまわりもまたCFRP製モノコックボディを除きほとんど956&962、リアミドには956の初期に積まれた935/79型2.65リッター水平対向6気筒ツインターボエンジンを搭載していた。最高出力は630ps(車重1t)。
それゆえこの個体はロードカーながら事実上、956&962とほぼ変わらない成り立ちをもつレーシングカーだと言ってよかったのである。
筆者はモロイさんのシュパン962LMのみならず、格好を変えた3.4リッター版の962CR(プロトタイプ2号車)も、京都の街中や大阪から名古屋までの高速道路などでドライブしたことがある。
いずれの体験も、当然ながら、非日常の極みだった。
乗り手が勝手に“恐縮”してしまう
先に言っておくと962LMを転がすこと自体は、ABCペダルの位置が近過ぎて先の細いシューズでないと操作しづらい(いっそ裸足がいい)ことを除けば、さほど難儀なことでない。クラッチ操作もコツさえ掴めばどちらかというと容易いほうだ。運転そのものは拍子抜けするほど簡単だったと言っていい。どころか高速道路では快適ですらあった。さすがは日進月歩のレース界において10年もの長きにわたり第一線で戦い続けたツワモノだけのことはある。
にもかかわらず当の乗り手が勝手に“恐縮”してしまうものだから始末が悪い。乗り終えたときの疲労感がハンパなかった。その空間に収まったら最後、走り出す前から心臓のビートが激しくなる。キャノピーのような丸い空間のなかは、実をいうとレースカーにしては窮屈ではない方だし、962LMはロードカー仕立てなので機能一点張りではなく戦闘モードむき出しというわけでもない。けれどもドアを閉めたら最後、アッという間に息苦しくなるのだ。ヘルメットなど被っていないというのに。
憧れのポルシェ962Cそのもののカタチ(しかもレースマニアなら泣いて悦ぶカラーリング)を間近で見た興奮がまずは精神をいきなり昂揚させたのだろう。さらにコクピットに収まりかなり低い位置からキャノピー型のフロントウィンドウ越しに空を見上げてさらに興奮した。そして、レース用フラット6の轟音にもはや心身共々ノックアウト寸前……。そんな状態で冷静に走り出せる者などレーシングドライバーとこのクルマのオーナーのほかにはいまい。
外の世界とは完全に断絶された気分になった。パドックからコースへ放り出されたようだ。空が遠くなっていく。いっそう息が苦しいと思ったら知らずに息を止めていた。
地を這うとはこのことで、普段の景色が全く違ってみえる。否、風景だけじゃない。路面の表情がまるで違って見えた。普段の舗装路がいっそう凸凹と歪んでいる。一瞬、脳がやられて視覚がおかしくなったかと思ったくらいに。
それでも962LMは不得意な一般道を淡々と走り抜いた。轟音は相変わらずだが、レーシングポルシェの息吹を感じていると思えば、そこは苦でも何でもない。
道行く人々がアッと驚く。「あれ、何? 」とか、「うわ、ポルシェ! 」とか、「レーシングカーだ! 」とか、声はもちろん聞こえないけれど読唇で分かる。ある場所を繰り返し周回したときなどは、回を追う毎に見物客が増えていった。
もちろん、市井の人々を驚かせるためにモロイさんはシュパン962LMを転がしているわけじゃない。憧れのレーシングカーを“どこでも走らせてみる”ことによってクルマ好きとしての自らの枠組みを広げようとされているに違いない。
筆者はちょっとその辺りを転がしただけだ。それでも何か違う世界の空気を吸った気分になった。もう少し長い時間を共にすれば、また違う何かが見えてくるのかも知れない。その前に窒息していなければの話だけれど。
PROFILE
西川淳
軽自動車からスーパーカーまであらゆるクルマを愛し、クルマ趣味を追求し続ける自動車ジャーナリスト。現在は京都に本拠を移し活動中。
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みんなのコメント
ファミマの駐車場での画像がビックリした
道路から駐車場に入る時、段差はどうやって越えたのか?この車高で・・・・