■名門「トムス」の手が加わった特別な「スープラ」とは?
2019年に17年ぶりに復活を遂げたトヨタ「スープラ」。「86」の兄貴分となるミドルクラススポーツカーであると同時に、トヨタのスポーツブランド「GR」初のオリジナルモデルです。
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デビュー以降もモータースポーツシーンを始めとしてさまざまな話題がありますが、登場から1年後となる2020年4月に改良モデル(2021モデル)が登場。
それも小改良ではなくパワートレインやフットワークなどにも手が入った本格的な変更を実施しているなど、「スポーツカーは育てる必要がある」を、86以上に体現しています。
もちろん、カスタマイズ業界の動きも活発のようです。基本コンポーネントをBMWと共用ということから、チューニングは難しいとされていましたが、それは単なる取り越し苦労だったようで、数々のアイテムがリリースされています。
そんななか、2020年の東京オートサロンでこのスープラをベースにしたコンプリートモデルが発表されました。それが今回紹介する「TOM’S スープラ」です。
TOM’Sの名はモータースポーツの世界では知らない人がいないといってもいい名門チームですが、市販車の世界ではトヨタのオフィシャルチューナーとしての顔も持っています。
古くは「AE86」には定番ホイールといわれた「トムス・ラリー(通称:井桁ホイール)」や、硬いのではなくしなやかという、アフターサスペンションの概念を変えた「アドヴォクス」といったパーツはもちろん、トータルコーディネイトされたコンプリートカーも発売。
これまで「C5ソアラ/C5スープラ」、「T101(レビン/トレノ)/T082(スターレット)/T020(MR2)」、「VA300 TOM’S(アリスト)」などが世に送り出されてきましたが、スープラはTOM’Sにとっても久々のコンプリートモデルです。
ベースは3リッター直列6気筒ターボを搭載する「RZ」です。エクステリアはドライカーボン製デュフューザー(フロント/サイド/リア)に、GTウイング、フロントバンパーガーニッシュ、前後オーバーフェンダー(全幅はスーパーGT車両と同じ1950mm)を装着。
ノーマルの良さを崩さずに個性と迫力をプラスしているのはもちろん、空力性能も考慮されたデザインです。
ボディカラーは特別色「レジェンドグリーン」にイエローのワインポイントが施されています。じつはこれ、1973年の富士1000kmレースの勝者「セリカLBターボ」と同じコーディネートです。
一方、インテリアはドライカーボンガーニッシュなど細部の変更に留まりますが、オープションでフルバケットシートなども装着が可能。
ただ、クルマのキャラクターを考えると、レカロのスポーツシートの最高陣「SP-X Avant」が似合うかなと、筆者(山本シンヤ)は思います。
走りの部分もトータルで変更がおこなわれており、モータースポーツや車両開発のスペシャリストが担当。この辺りはレースで鍛え上げてきた「人」、「技術」、「ノウハウ」が色濃く注ぎ込まれていることを意味しています。
パワートレインはレースエンジンのスペシャリストである前田光彦氏が担当し、エンジン本体は手を加えずに、ハイフロータービン、ヒートエクスチェンジャー、吸排気系、ECUなどを変更。
出力はノーマルの340馬力/500Nm(2021モデル:381馬力/500Nm)に対して、460馬力/579Nmとなっています。8速ATのトランスミッションはノーマルですが、この8速ATのトルク容量はかなり高いレベルにあるため、全く問題ないそうです。
出力アップに合わせてシャシ側に手が入っています。ボディは専用のブレースをプラス、専用サスペンションはA・セナ/Aプロストの片腕と呼ばれた寺本浩之氏が担当。つまり、2018年に発売終了となったアドヴォクスの復活&進化版というわけです。
ブレーキはブレンボ製6ピストンキャリパー+380mmローターの組み合わせ、タイヤはポテンザS007Aで、フロントが255/30R20、リアが275/30R20、ホイールはTWS鍛造アルミホイールですが、これはスーパーGTマシンと同じ組み合わせとなっています。
ちなみに走りのセットアップはトヨタのマスタードライバーである成瀬弘氏の愛弟子の一人で、現在はトムス在籍でトムスロードカーの走りの番人・西島光義氏が担当しています。
■TOM’Sスープラはノーマルよりも乗りやすい!?
TOM’Sスープラの試乗は一般道と高速道路でおこないましたが、当日は豪雨。ハイパワーFRにとっては最悪なコンディションでしたが、第一印象は「あれっ、ノーマルよりも乗りやすい」でした。
チューニングカーにありがちな尖ったところはまったくなく、むしろ意図的なじゃじゃ馬感を備えたノーマル(2020モデル)よりも洗練度が増した乗り味だと感じました。
ステアフィールはダイレクト感を損なわずに、薄皮一枚を上手に挟んだかのような穏やかさと重厚さをプラス。
サスペンションはストロークが増したかのようなシットリとした足さばきと、クイックさを抑えながらも人間の感覚に合わせた一体感と連続性のあるクルマの動きと自然なロール、そして4つのタイヤをより効果的に使っていることがわかりやすいなど、「より自然に」、「より裏切らない」、「より扱いやすい」なハンドリングに調律されています。
さらに乗り心地は、20インチということを忘れるくらいの優しさで、リアルスポーツカーながらもプレミアムカテゴリーに足を踏み入れたレベルです。
パワートレインは+120馬力の力強さはもちろんですが、それよりも数値になかなか表れない部分に徹底したこだわりを感じたことです。
具体的には一般道での扱いやすさや高速道路の追い越しなどでアクセルを踏んだときのツキの良さ、スムーズなのに回すほどに力強さが増す特性、レッドゾーンを超えて回っていきそうな伸びの良さなど、よりスポーツエンジンらしさが増したように感じました。
同じモデルをサーキットで試乗したプロドライバーに聞くと、「ノーマルは独特の癖があるが、TOM’Sスープラは尖った部分がなく自然な動きで扱いやすい。だから、どんな路面、どんなコンディションでも安心して楽しめる。これは『クルマが好きな人が造っている』、『クルマをわかっている人が仕上げている』ということが、クルマの仕上がりから理解できた」と語っています。
TOM’Sスープラはチューニングカーというよりスープラの特別グレードといってもいいと思います。
「中身は本気だけど、普段はそれを声高らに主張しない」といったような部分は、普段は質が高い繊細な乗り味ですが、一たび鞭を入れるとリアルスポーツに変貌する「アルピナ」と同じような香りがしました。
先日、改良が加えられたスープラ 2021モデルのノーマルに試乗しましたが、走りはTOM’Sスープラの方向性に近い“深化”を感じました。
TOM’Sスープラの価格は1423万円と、ノーマルの倍以上のとなるプライスですが、現時点でのGRスープラのひとつの理想形ともいえる走りと特別なエクステリアを備えている事を考えると、適正かなと考えます。
限定99台のTOM’Sスープラですが、注文がかなり入っているそうです。気になる人はお早目に。
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911GT3,GT2のようにメーカーの派生モデルとして販売出来そうな完成度だ。