ランボが迎えた大変革 自然吸気V12が…
text&photo:Ohto Yasuhiro(大音安弘)
【画像】アヴェンタドールLP780-4ウルティメ【細部まで撮影】 全38枚
editor:Tetsu Tokunaga(徳永徹)
100年に一度の大変革期を迎える自動車は、革命的な技術の誕生と引き換えに、旧来の価値との“別れ”を迎えようとしている。
それはイタリアの風雲児「ランボルギーニ」も同様。ランボルギーニのフラッグシップとして、常に先頭を突き進んできた自然吸気のV12気筒モデルが終焉を迎えることになったのだ。
そのフィナーレを飾るのが、限定車「アヴェンタドールLP780-4ウルティメ」である。日本初披露された雄姿と特徴についてお伝えしよう。
2021年7月29日、東京・六本木のランボルギーニのブランド発信拠点である「THE LOUNGE TOKYO」で、日本初公開されたのが限定車「アヴェンタドールLP780-4ウルティメ」。このモデルは、ランボルギーニのフラッグシップモデルの最終進化系であるだけでなく、ランボルギーニ史上、最後の自然吸気V12気筒エンジン車であり、そして最後のV12ピュアエンジンの新型車となる。
ランボルギーニの歴史を語る上で、V12気筒エンジンの存在は外せない。
1963年に創業した同社の市販車としてのファーストモデル「350 GT」は、フロントに3.5L V12気筒エンジンを収めたFRであった。
V12気筒を積むFRモデルの熟成と進化を図りながら、1966年には、初のミドシップカー「ミウラ」を発表。同じくV12気筒エンジンを積みながらも、レイアウトを横置きミドシップに変更し、スポーツカーとしての性能をより追求した意欲作であった。
開発者たちの飽くなき向上心は、「“J”(イオタ)」と呼ばれるレーシング仕様のプロトタイプも生みだした。そして、現在のフラッグシップモデルの直接的祖先となる「クンタッシ(日本名:カウンタック)」が、1974年に誕生。
これ以降、V12気筒エンジンは縦置きに改められ、シザードア(シザーズドア)がフラッグシップモデルの象徴となった。その歴史は1990年の「ディアブロ」、2001年の「ムルシェラゴ」、2011年の「アヴェンタドール」と飛躍的な進化を遂げてきたが、その歴史にピリオドが打たれようとしている。
シザードアから舞い降りる“体験”とは
思い起こせば、わたしも一度、アヴェンタドールLP700-4を駆ったことがある。早朝の都心を豪快なサウンドを響かせながら、走り抜ける姿は、まさにファイティングブルそのもの。
停車すれば、常に多くの視線が集まる。だから、シザードアを開いて降りるとき、わたしは照れ臭かったが、同時にちょっと誇らしい気分でもあった。
そう、V12気筒のランボは、生まれながらのヒーローなのだ。この雰囲気は、同じランボでも、ウラカンやウルスにはないもの。もちろん、2台が劣るのではない。それだけ特別な存在なのである。
最後の自然吸気V12気筒の最新モデルとなる「アヴェンタドールLP780-4ウルティメ」は、V12気筒の歴史を締めくくる重要なモデルである。そのため、後期型アヴァンタドールであるカタログモデル「S」と、それをベースとした高性能な限定車「SVJ」の持つ魅力を凝縮した1台に仕上げられているのが大きな特徴だ。
最大の見所は、フラッグシップモデルのアイコンの1つ、最終進化系のV12気筒エンジン。ランボルギーニのエンジニアたちが、その限界に挑むべく、歴代アヴェンタドールで最強となる最高出力780ps/8500rpmまで向上。
この出力は、Sの40psアップ、SVJの10psとなる。
さらに性能を強化すべく、カーボンファイバーパーツの使用範囲を拡大することで、乾燥重量をSよりも25kgも軽い1550kgとした(共にクーペ比較)。
その結果、SVJと同じ2.8秒の0-100km/h加速を実現。
伝統の1つとなった4WDシステムとSより採用される後輪操舵機構の熟成を図ることで、低中速の敏捷性や高速安定性、コーナリング特性の向上など走りの良さもブラッシュアップを受けている。
シートの仕様が語る、ウルティメの主張
その特徴的なビジュアルは、まさに上質な「S」とアグレッシブな「SVJ」の見事な融合が生んだ美しさを備えたもの。
フロント部のエアロダイナミクスには、SVJで培った技術が投入されるが、「S」のイメージを強く反映したプレーンな魅力を引き継ぐ。
逆にリアエンドは、サーキット志向の「SVJ」の影響を強く反映。派手なウイングこそないが、テールパイプが、テールランプの中央にあるリアグリルから突き出ている姿は、まさにファイティングブルに相応しい演出だ。
無論、これはエンジン高性能化のための必要な変更である。
これだけの性能に対して、リアのエアロダイナミクスが不足するように思えるが、その点については、「アクティブ・エアロ・システム」が補完し、走行状況に合わせた最適なセッティングを行ってくれるのでご安心を……。
インテリアに目を移すと、戦闘機のコクピットを彷彿させる刺激たっぷりのダッシュボードには、ファイナルモデルを示すシリアルナンバープレートを装着。
ホールド性に優れるシートには、「Ultimae」の刺繍が施され、特別感を盛り上げる。
特筆すべきは、シートが「S」と同じコンフォートタイプとなること。これはスペック至上主義ではなく、オールラウンダーを目指したファイナルモデルの特徴を物語るアイテムといえるだろう。
救世主の復帰 別れは新天地への道標か
ファイナルモデルとなる「ウルティメ」は、クローズドクーペが350台、脱着式ルーフを備える「ロードスター」が250台それぞれ生産される。
日本での価格は、クーペが5454万3088円、ロードスターが5986万4236円となる。残念ながら、すべて売約済みだ。
これはカタログモデル「S」も同様となる。すでに新車のアヴァンタドールを、手にするには、在庫車を探すしかない状況なのだ。
そして、「ウルティメ」の多くは、熱心な愛好家のもとで長く車齢を重ねていくことだろう。今回の展示されたマットグレーのクーペも、日本には留まらず、香港での展示イベントを終えたのち、イタリアへ帰国する予定。
確かに、1つの正統なランボルギーニの系譜は終わりを迎えた。しかし、そう悲観する必要もない。ファイティングブルの情熱が、失われた訳ではないからだ。
2023年以降、全てのランボは、プラグインハイブリッド化されていくことが明らかになっている。これはベビーランボの「ウラカン」の後継や、SUV「ウルス」の継続を意味しているのは間違いない。
さらに先には、初のEVも計画されている。その流れの中で、やはり気になるのは、フラッグシップモデルの行方だ。
現時点では不明だが、現代ランボルギーニの救世主となったステファン・ヴィンケルマン氏が、2020年12月に、再びトップに就任した。ランボルギーニの魅力と底力を知り尽くした彼なら、きっとワクワクする未来を見せてくれるはずだ。
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