1980年代に登場したルノーのフラグシップ「25(ヴァンサンク)」を所有するモータージャーナリストの内田俊一さん。日本では滅多に見られない貴重なルノーとの出会いから現在にいたるまでのお話の後編。
約70万円で購入
我が家にルノー「25V6バカラ」がやってきたのは2006年だった。購入したのは1991年型だったから、15年落ちの個体だ。
【前編】これまでの愛車遍歴を振り返る!
【中編】ルノー25とはどんなクルマだったのか?
25は乗り心地の良さにくわえ、スポーティなハンドリングも魅力だった。ワインディングで、自らギアを変えながら走らせると、ちょっとしたスポーツカーを蹴散らせるくらいの実力を有しているのだ。
購入時、すでに25の流通量は少なく、程度の良いクルマは少なかった。私が購入した個体は、サンルーフやエアコンなどといった機能装備がすべて問題なく作動したので、購入に踏み切った。メンテナンス記録がしっかり残っていたのも決め手だった。
当時、購入候補モデルに「サフラン・バカラ」もあった。が、乗り心地が意外に硬かったうえに、エア・サスペンションが故障すると「100万円掛かる」と脅されたため、25V6バカラを選んだ。購入価格ははっきりと覚えていないが、たしか70万円くらいだったように記憶する。
最大の問題箇所はAT
購入した25の弱点はいくつかあるものの、1番はオートマチック・トランスミッションだ。「AR4」と呼ぶオートマチック・トランスミッションは熱に弱く、それが日本の環境下ではネックだった。
まず、油圧で変速をコントロールするバルブボディが壊れる。すると、エマージェンシー・モードに入ってしまうため3速で固定され、メーターに警告灯が点灯する。エンジンをいったん切って再始動すれば、一時的に直るかもしれないが、少し負荷を掛けるとふたたび点灯し、エマージェンシー・モードに入ってしまうため、結局、バルブボディの交換が必要になるのだ。
交換価格は10万円ほど。ちなみに、バルブボディにかんするトラブルは2万km程度走っただけで発生するケースもあるので困ってしまう。
真夏の渋滞時は、エンジンではなくオートマチック・トランスミッションがオーバーヒート気味になる。すると、変速ショックが大きくなり、とくに微速では、ギクシャクした動きになってしまう。
ちなみに、現存する25が少ないのは、オートマチック・トランスミッションにかんするトラブルによって廃車になった個体が多いからだ。「そこまで修理費用が嵩むなら、廃車にしてしまおう」となったのだろう。オイル漏れなども頻発するようだ。
私が所有する25は、12万kmを超えたとき、クラッチが滑り始めそうだったのでオーバーホールを実施した。専門店に依頼したところ30万円ほど掛かった。
オートマチック・トランスミッション以外での弱点は樹脂部品だ。年月が経つと、粉状になってしまいパラパラと崩れて(壊れて)しまうのだ。
25ではラジエターの一部が樹脂製だったが、この樹脂のためだけに、アッセンブリー交換になった。ヒーターコアが破裂したときは、インパネまわりをすべて外しての修理となったが、あらゆる箇所の接合部分が樹脂だったため、脱着は相当大変だったようだ。
もしかすると読者の皆さんは、25を、“トラブルの塊”と、思うかもしれない。しかし、購入した時点で、製造から15年ほど経過したクルマだったから、上記のトラブルは覚悟の上だ。ちなみに、トラブルのほとんどは、購入してから7~8年目に発生した。
トラブルが多発するまでのあいだに、走行距離は約6万5000kmから約14万kmまで伸びた。このあいだ、出先で帰れなくなったのはたったの1度だ。電動ファンがまわらなくなってしまい、オーバーヒートしたのだ。このときだけはレッカーを呼んで、タクシーで帰宅した。ほかのトラブル時は、騙し騙し運転し、自宅ないしは工場にたどり着いた。
車検を切ったワケ
現在、25V6バカラは私の実家にあるガレージで惰眠を貪っている。サラリーマンを辞め自動車ジャーナリストの世界に身を置くようになったため、仕事で、メーカー所有のクルマを運転する機会が増えたからだ。
くわえて、2011年から2012年にかけて2代目「トゥインゴGT」を所有したため、25に乗る機会はぐっと減った。小回りが効き、トラブルが発生するリスクが低く、どこへでもさっと出かけられるトゥインゴの気楽さから、ついつい25に乗る機会が少なくなったのだ。
かつてはほぼ毎日乗っていた25も、そんなわけで徐々に運転回数が減ってしまった。と、同時に、トラブルが出始めた。トラブルが発生すると、ますます25に乗る機会が減るという悪循環になり、ついに、サイドブレーキ関係のパーツが日本はおろか本国にも無く、車検合格が厳しくなったため、車検を切ってしまった。
真剣に探せばパーツはあったかもしれないし、別の方法で該当箇所の修理は出来たかもしれない。が、忙しさとほかのクルマの気楽さに私自身が負けてしまった。25V6バカラとの生活にちょっと疲れてしまったのかもしれない。
時折、実家に帰ると埃をかぶった25が出迎えてくれる。それを見ながら「申し訳ない」という気持ちと、「もう1度、以前のように完調にして走らせたい」という気持ちでいっぱいになる。なぜなら、素晴らしいシートに座って運転したときの、なんともいえないおっとりとしたフィーリングと、妖艶なインテリアを持つ25V6バカラが好きだからだ。
最近“ヤングタイマー”と呼ばれる1980年代前後のクルマがもてはやされており、気軽に購入を促す記事をよく見かける。
ただし、それらのクルマは生産されてから30年以上経過していることを忘れないでほしい。私の25もそうだったように、何らかのトラブルが発生するかもしれない。
それでも、ちょっと古いクルマが欲しいのであれば、ぜひ乗ってほしい。25がそうであるように、今のクルマでは味わえないフィーリングや薫りなどが楽しめるからだ。
これまで多くのルノーを乗り継いできたが、いつも購入する(乗り換える)きっかけは“人の縁”だった。多分、その人たちと出会わなければ、ルノーを何台も所有しなかったはずだ。25V6バカラを含むさまざまなルノーによって、多くの人たちと出会えた。それが、私の大きな宝物になっている。
【前編】これまでの愛車遍歴を振り返る!
【中編】ルノー25とはどんなクルマだったのか?
文・内田俊一
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