ヴァンテージは21世紀アストン マーティンの象徴
21世紀に入り、ニューポートパグネルからゲイドンへ本拠地を移したアストン マーティンにとって、ヴァンテージはその象徴ともいえるモデルだ。
【画像】これで本当にマイナーチェンジ? 新型アストン マーティン・ヴァンテージ 全33枚
当時アストン マーティンを率いていたウルリッヒ・ベッツ氏は、かつてポルシェで993型911開発に携わった人物で、V8ヴァンテージが911をターゲットとしたことはよく知られる話。UK編集部の記事でも、ヴァンテージと911の比較記事が何本も見受けられる。個人的な印象として、ヴァンテージはデビュー当初こそ物足りなかったが、4.3から4.7Lへ進化したあたりから、ピュアスポーツカーとして本領を発揮し始めたと思っている。
当時まるでレーシングカーのようなエンジンサウンドとフィーリングにすっかり参ってしまい、『恋に落ちるレベル』と原稿に書いたことがあるほどだ。その後はV12ヴァンテージという名車も登場し、マニュアルトランスミッションを搭載するモデルは、通の間で争奪戦の様相を呈していたのも記憶に新しい。
もちろんゲイドン産のアストン マーティンといえばDB9、DB11、そして現代のDB12へと繋がる系譜もあり、それ以前のDBシリーズや、最後のニューポートパグネル産となったV12ヴァンキッシュあたりを思い出せば、こちらが本流と呼ぶことに抵抗はない。しかし21世紀のアストン マーティン躍進を支えたのがヴァンテージの系譜でもあることもまた、疑いの余地はないだろう。
最高出力が155psもパワーアップし665psに
今回取材したヴァンテージは、21世紀のヴァンテージとしては2代目のビッグマイナーチェンジモデルとなる。2代目のデビューが2017年11月で、今回のデビューが2024年2月であり、約6年ぶりのモデルチェンジだ。これを『2代目のマイチェン』と『3代目』のどちらで呼ぶかは不毛な議論なので避けるが(そもそも初代という呼び方も怪しい)、中身はかなり変わっている。
注目はデザインのアップデートやインフォテイメント系の入れ替えはもちろんのこと、やはり最高出力が155psもパワーアップし665psとなった4LのV8ツインターボであろう。呼応するようにタイヤサイズもアップしていて、先代デビュー当時にUK編集部が行ったロードテスト取材車はフロント255/40ZR20、リア295/35ZR20であったが、新型はフロント275/35/ZR21、リア325/30/ZR21となっている。そうリアは325! だ。
その迫力はリアビューに現れていて、どっしりと構えた印象。それはそのままクルマを動かした時の印象に繋がり、街中をゆっくり流していると、軽快なピュアスポーツカーというよりは重厚なスーパースポーツカーのように感じる。感覚としてはポルシェ911が997から991に変わった時のように、ひとクラス上にあがったような印象すらあるのだ。
価格もUK編集部のレポートから引用すると(日本仕様はプレスリリースに明記されていないので)、16万5000ポンド(約3168万円)。先代は12万900ポンド(約2321万円)だから、単純な比較をすれば大幅な値上げだが、それだけの価値を与えるための大幅なスペック向上と見るのが妥当であろう。その価値に対する判断は、カスタマーに委ねられた。
DB12のショートホイールベース版と捉える
アクセルを踏み込んだ先のレポートはUK編集部と吉田拓生氏に任せるとして、新型ヴァンテージの立ち位置をもう少し考えてみたい。ちょっと気になって、基本骨格を共有するDB12とサイズを比べてみた。
●ヴァンテージ
全長4495mm、全幅1980mm、全高1275mm/ホイールベース2705mm/車重1745kg
●DB12クーペ
全長4725mm、全幅(フロント/リア)1942/1980mm、全高1295mm/ホイールベース2805mm/車重1788kg
以前はV8とV12でエンジンも違うので、ベイビー・アストンと本流アストンという別々のモデルに思えたが、若干暴論ながら、ヴァンテージをDB12のショートホイールベース版と捉えると、新型の立ち位置が見えてくる。
最近、ラグジュアリーブランドの取材をしていると、販売が好調であることをよく耳にする。これはクルマに限らず、プレジャーボートや高級時計の世界でも同様で、コロナ禍で移動(海外旅行)よりも身の回りにお金をかけてきた流れが、そのまま続いているような感覚だ。
そこで狙うは超富裕層であり、そこに対する少量生産車や限定車が各ブランドから発売されてきた。アストン マーティンも例外なくヴァルハラ、ヴァルキリー、ヴァラー、ヴァリアントと発表、発売しているし、他の英国ブランドでいえば、ロータスがエリーゼの世界を捨ててまでハイブランド化を目指すのも、ジャガーが売れ筋をランドローバーに任せてハイエンドにシフトアップするのも同じ理由だろう。
だからヴァンテージは、そういった市場で生き残るべくクラスアップを図りながら、それでいて『らしさ』を残すという意味で、ここに落ち着いたと想像できる。ならば個人的な好みで書けばメーターはデジタルからアナログに戻すなど、大胆な『古典的揺り戻し』があってもいいと思う。『古い』のではなく、理解した上で『旧い』ことは、一周回ってヴァンテージ(=有利)になるはずだ。
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