2024年7月19日から、70台限定で日本市場復活を果たしたCR-Vに公道初試乗。水素で走るSUVは、パッケージングや乗り味の面で、独自のメリットを実感させてくれました。新しい時代を創造する「E-Life Generator」はなるほど、とっても「元気」一杯!です。(文:神原 久Webモーターマガジン編集部/写真:永元秀和)
マルチな外部給電機能で開く「水素のある生活」への入口
2022年末、第6世代へのフルモデルチェンジを機に日本国内でのセールスが終了していた「CR-V」が、およそ2年ぶりに凱旋帰国を果たしました。2023年には北米市場でもっとも売れているハイブリッド車となった人気モデルの再導入です。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
日本市場に導入されるのは、水素燃料で走るプラグインハイブリッドモデル「e:FCEV」。そのグランドコンセプトは、「E-Life Generator(イーライフジェネレーター)」です。どこか懐かしい響きを感じるのはたぶん、90年代半ばからホンダのRVシリーズに冠されていた「Creative Mover(クリエイティブムーバー)」をイメージさせるからでしょう。
少しばかりニュアンスは異なるものの、ざっくり訳せばgenerateもcreateも「創り出す、生み出す」を意味する言葉。クリエイティブムーバーの第二弾として誕生した初代CR-Vは確かに、日常とレジャーをクロスオーバーさせた新しいライフスタイルを「創造」するクルマでした。
新しいCR-V e:FCEVにもまた、新しい日常につながる「扉」を開く役割が与えられているようです。ちなみに「E-Life」とは「Environment(環境)」「Enhacement(強化)」「Enjoy(楽しむ)」「Electricity(電気)」「rEcycle(再利用)」「rEsilience(復元)」に由来しています。
「E-Life Generatorとして見据えるのは、「水素とともに暮らす生活」が普通に楽しめる近未来に他ならないでしょう。
CR-V e:FCEV最大の特徴と言えるのが、水素による発電力を最大限に活かした外部給電機能です。荷室に設定されたCHAdeMOタイプのDC給電口に加え(別売の可搬式外部給電機が必要)、普通充電口からもパワーサプライコネクターを使って最大1500WのAC給電を可能にしています。
まさに「Generator(発電機)」としての才能は、そうとうに高そう。それは単なる「電気の力」ではなくて・・・たとえるなら「元気の力」?といったところでしょうか。
SUVならではのパッケージ性能が生む様々な優しさ
CR-V e:FCEVの個性としてさらに注目すべきは水素で走る市販SUVである、ということでしょう。クラリティや、トヨタMIRAIのようなセダンタイプとはまたひと味違う可能性を感じさせてくれる、テストドライブとなりました。
CR-V e:FCEVがSUVであることの恩恵は、何と言っても扱いやすい荷室とゆったりとした居住空間にあります。運転席だけでなくすべての席から見える景色は、目線が高く開放感に満ちていました。
北米で市販されているプラグインハイブリッドモデル「CR-Ve:PHEV」をベースに開発されましたが、生来の優れたパッケージングは健在。大容量の高圧水素タンク2本を荷室と後席下に積みながらも、十二分なゆとりが確保されています。
スペース効率の点で言えば、従来のクラリティFUEL CELLに比べて小型化、軽量化が徹底された新世代のFCシステムやパワートレーンの恩恵も大きいことは確か。
ユニークなのは、水素タンクを収めたボックス部の張り出しを利用したラゲージスペースの使い勝手です。フレキシブルボードを使うことで、背もたれを倒した時には凹凸の少ない搭載スペースを作ることができます。重量物が置けるように剛性感の高いボードは持ち運びするにはやや重めですが、逆にそれが「なんでも置けそう」な安心感につながっています。
パッケージという意味では、後席の足元が広いことにも感心しました。同時に、開口部からの乗り降りの時の姿勢が非常に自然なこともまた、SUVならでは。たとえばお年寄りが乗り降りする時もラクそうです。
加速感、ハンドリング、身のこなしまで巧みに調律
GMと共同開発した燃料電池システムを中心に、電気モーター、ギア、制御系を一体化したパワートレーンは絶対性能だけでなく、NV(ノイズ・バイブレーション)性能にこだわって開発されているそうです。
実際、市街地でも都市高速でも確かに不快な音や振動が抑えられていることで、ドライバーはもちろんパッセンジャー全員がSUVらしい、ストレスフリーなドライブを満喫できます。
こと「速さ」という面では必要十二分なパフォーマンスの持ち主です。同時に、省燃費に配慮したECONモード制御での扱いやすさが印象に残りました。電気モーター駆動であることをことさら主張するようなピーキーさは皆無ですが、スムーズなトルク感が全域で感じられます。おかげで、終始、交通のリズムに合わせて安心感の高いドライブを楽しむことができました。
「芯が通った」・・・と言えば、落ち着き感のある身のこなしもまたCR-Ve:FCEVの魅力でしょう。振幅感応型ダンパーの採用に加え、水素タンクやパワートレーン系などを可能な限り低く車両の中心に近いところに配置した低重心レイアウトによって、ほどよい重厚感としなやかな挙動が両立されています。
ちなみに上質感の演出に関しては、シンセティックレザーを使ったステアリングホイールの握り心地の良さも貢献している様子。しっとりと指に吸い付くような触感と本革ライクな風合いもまた、気分を盛り上げてくれる重要なエッセンスなのでした。
ロングドライブに行きたくなるのは「遊びの才能」を確かめたいから?
試乗を通じて少し気になったのは、路面のアンジュレーションや凹凸が、ややわかりやすく伝わってくる傾向があったところ。2トンを超える車両重量をいなすために、タイヤ空気圧が少し高めに設定されていることが影響している可能性はあります。
また、純正装着されるHondaCONNECT対応ナビディスプレーの、操作に対する反応がやや鈍いところも気になりました。水素ステーションの検索など、機能的には非常に優れているので、さらなるグレードアップを期待したいところです。
試乗の締めは「水素のある生活」を実体験するために、最寄りの水素ステーションで充填を試してみることに。専門の係員が対応してくれましたが、ガソリン並みとは言わないまでも、充電とは比べ物にならない短時間で済ませることができました。
正味3分ほどで入った水素の量は0.91kg。当日の水素のお値段は1650円/kgだったので、支払い金額は1500円ほどでした。メーター読みでの航続距離は約100km伸びていましたが、航続距離そのものはカタログ値まで伸びていませんでした。
ただし開発者によればこの航続距離は、運転の仕方によって大きく変わるのだとか。とくに、都市部での試乗会のようなシーンではアベレージで厳しい数値が出やすくなるというお話。だとすればやはり長距離を丁寧に走った時にどこまで伸びるのか、ぜひ試してみたいところです。
長距離と言えば、自慢の外部給電機能をとことん試せる「オートキャンプ試乗」や「BBQツアー」に挑戦してみたいし・・・カーボンニュートラルにより近いと言われる水素エネルギーのある生活と言えば、大自然の中でレジャーを楽しむシーンでのチェックも外せません。
窮屈な都会を飛び出して初めてわかるCR-V e:FCEVの素顔もぜひ、見てみたいものです。
ちなみに当面の年間販売台数は70台、2024年11月時点でこのうち60台が販売されましたが、中でも一般ユーザーからは約15台の注文が入っているそうです。果たしてどんな使われ方をしているのか、「水素と暮らす生活」をどんなふうに楽しんでいらっしゃるのか、とても気になりますね。
ホンダ CR-V e:FCEV 主要諸元
●全長×全幅×全高:4805×1865×1690mm
●ホイールベース:2700mm
●モーター定格出力:60kW
●モーター最高出力:130kW(177ps)
●モーター最大トルク:310Nm(31.6kgm)
●燃料電池スタック最高出力:92.2kW(122ps)
●駆動方式:FWD
●水素タンク容量:109(前:53/後:56)L
●WLTCモード一充填走行距離:約621km
●WLTCモード一充電走行距離:約61km
●タイヤサイズ:235/60R18
●車両価格(税込):809万4900円
[ アルバム : ホンダ CR-V e:FCEV公道試乗 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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