平均点の高さが求められるGT
text:AUTOCAR UK編集部
【画像】才色兼備のグランドツアラー【記事内で紹介した10台を写真で見る】 全170枚
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)
グランドツアラーと聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろうか?昔であれば、優雅でありながらも驚くほど広々としたボディを持ち、ロングボンネットには雄大で貴族的なパワープラントが搭載され、サスペンションは長距離走行にも対応し、曲がりくねった道でも俊敏さを発揮していたに違いない。
今日では、高速ハッチバックからミドエンジンのスーパーカー、4人乗りのコンバーチブルまで、「GT」のイニシャルをかなり自由に使うようになり、販売されているモデルは多岐にわたる。
今回は、長距離を運転していて一番幸せになれそうなクルマを紹介する。中には、ドライバーを最優先に考えてデザインされたものもあるが、大多数のクルマはそれなりのラグジュアリーを備えている。また、4枚のドア、大人が座れる4つのシート、週末の遠出に十分なラゲッジスペースを備えているものもある。
10万ポンド(1452万円)以下で現在英国で販売されているモデルという条件で、10台をピックアップした。長距離を走りながら、スタイリング、スピード、ラグジュアリーでドライバーを笑顔にさせるものはどれだろうか。
1. ポルシェ・パナメーラ
2009年に初代パナメーラが発売された際には、ポルシェでありながら4ドアセダンというコンセプトが物議を醸した。その不恰好なスタイリングは批判の的となったが、見事なまでによくできた真のドライバーズカーであり、楽々と大陸を渡るクルーザーでもあった。
今では当初の論争から解放され、デザインも大幅に改善された第2世代パナメーラは、ポルシェのモデルカタログの中でその地位を確固たるものにしたように感じる。AUTOCARは2017年に試乗したが、422psと86.7kg-mのトルクを発生する驚異的なV8ディーゼルターボエンジンを搭載しており、多くの点でライバルより優れていた。
ポルシェはその後、2018年にディーゼルエンジンを廃止したが、依然としてパワートレインには多くの選択肢が残されていた。そして2021年、このラインナップはまたもや微調整されている。
550psのターボモデルは、4.0LのV8ツインターボが630psを発揮する、よりパワフルなターボSに変更された。GTSもまた、V8が480psを発揮し、ターボSとのギャップを埋めている。
他にも、注目すべきターボS Eハイブリッドは、ガソリンエンジンと電気モーターを合わせて700psを発揮している。低排出ガスのプラグイン・ハイブリッドはこれだけではなく、560psの4S Eハイブリッドに、462psの4 Eハイブリッドが加わった。その他のモデルにはV6ツインターボエンジンが与えられている。
パナメーラは、魅力的なドライビング・ダイナミクスと、他のどのクルマよりも優れたツーリング性能を兼ね備えている。安心感を与えてくれる重量感のあるステアリング、正確なハンドリング、確実なグリップ、そして加速力。バッテリーの重さにもそれほど悩まされることはない。
通常の4ドア4人乗りモデルには495Lのトランク容量があり、後席を倒せば1263Lに拡大できる。しかし、おすすめしたいのは5ドアのシューティングブレーク仕様、スポーツツーリスモだ。これは5人目の席が追加されるだけでなく、便利なトランクスペースが増え、スタイリングも新鮮だ。
2. BMW M550i xドライブ
このモデルはドラマチックなルーフラインなどを持たず、他に比べてやや古風なセダンスタイルではあるものの、第2位の座に十分に値するモデルだ。
M5は長年にわたって、筋金入りのドライバーのためのマシンとなってきたが、日常のドライブにはアグレッシブ過ぎて、タッチもやや固めだ。M5 CSというスパイスの効いたモデルに至っては特にそう感じる。
M550i xドライブでは、快適さと刺激の両立を見事に実現している。
4.4L V8ツインターボエンジンは537psと750Nmを発揮し、静止状態から4.0秒未満で100km/hに達する。つまり、とても速いのだ。また、BMWならではの魅力的なハンドリングも実現している。一方で、エアサスペンション(オプション)やレザーをふんだんに使用した豪華なインテリアにより、その圧倒的な速さにはMモデルにない快適性が備わっているのだ。
M550i xドライブは、速くて楽しいBMWであることに変わりはないが、国境の端から端まで快適にドライブしたいと思うようなクルマでもある。
3. メルセデス・ベンツCLS
クーペスタイルセダンの始まりについては議論の余地があるが、2004年に登場した初代CLSは先駆者の1つであり、メルセデスがこのデザインを普及させるために努力を重ねてきたことに間違いはない。
そのようなクルマが偉大なGTとなる理由は簡単だ。大人が座れるシートを4つ装備し、4枚のドアから簡単に乗り降りできることもその理由の1つ。第3世代の現行CLSは、実用性の面では他の2+2よりもはるかに優れている。
CLSは、初代ほどルックスが良くなることはなかったが、第2世代のややぎこちないスタイルはもはや過去のものとなり、テクノロジーが詰め込まれた革張りのキャビンは、現在ほど魅力的なものになったことはない。
エンジンは4気筒または6気筒ガソリンターボと6気筒ディーゼルターボの2種類が用意されており、4輪駆動のCLS 53は、火を噴くようなV8エンジンを搭載したCLS 63に代わって、AMGに異色のフレーバーをもたらしている。シャシーもうまく調整されているが、ランフラットタイヤを履いた大径ホイール装着モデルは、ロールの洗練度に悩まされることがある。
4. BMW 8シリーズ・グランクーペ
初代E31世代のBMW 8シリーズが廃止されてから最新モデルが登場するまでには、約20年の空白期間があった。最新のグランクーペは初代の先鋭的なオーラを持っているわけではないが、BMWのトレードマークであるドライバビリティと、トップレベルの快適性、そして驚くほど贅沢なインテリアを兼ね備えた、ステータスと存在感のあるものとなっている。
また、アウディA7やメルセデスCLSに対抗するために、4ドアのグランクーペも用意されている。ガソリンとディーゼルから選択可能で、後者はBMWの直列6気筒ディーゼルツインターボを搭載しており、320psを発揮する。さらに上位のM850iには、530psのV8ガソリンターボが用意されており、ラインナップのトップを飾るのが、625psの4.4Lツインターボを搭載したM8コンペティションである。
(メルセデスやアウディのエアサスとは異なり)スチール製のサスペンションを採用しているが、このクラスのライバルと比較しても、ダイナミックなドライビングを実現している。さらに、M850iを選べば、4輪駆動だけでなく、4輪ステアリングとアクティブ・アンチロール・コントロール・サスペンションを備えたクルマを手に入れることができる。
5. メルセデス・ベンツEクラス・クーペ/カブリオレ
Eクラス・クーペには、ゴルフコースの香りが漂っている。ドライバーを夢中にさせることよりも、穏やかで孤立した快適さを求める大人向けの、洗練されたハンサムな2ドア車だ。
2020年にアップデートされ、内側も外側も、以前よりもさらに見栄えが良くなっている。風通しの良いキャビンには、メルセデス最新のインフォテインメント技術とスマートに調和した、豪華でリッチな素材を使用しており、レザー張りの大型シートは長距離走行でも快適性に優れている。
エンジンラインナップは、これまでとほとんど変わらない。4気筒ガソリンとディーゼルがエントリーポイントとなっているが、このクルマに最も適しているのは、より大きな6気筒ガソリンだ。4輪駆動のE 450は直進安定性に優れ、並外れた乗り心地で、非常にスムーズな操作性を実現している。
もう少しダイナミックな動きが欲しいという人は、AMGのE 53の方が好みに合うだろう。E 450よりも魅力的なドライブができるのは確かだが、とはいえ、お気に入りのワインディングロードで白熱したドライブをするよりも、高速道路での長距離移動に適したクルマであることに変わりはない。
6. テスラ・モデルS
最高の長距離ツアラーを表彰するリストに含めるに値するEVがあるとすれば、それは間違いなくテスラ・モデルSである。最新のロングレンジモデルでは、1回の充電で640km以上走行できると言われている。スーパーチャージャーのネットワークを利用して、非常に高速で信頼性の高い充電が可能なので、航続距離の不安は問題ではなくなる。
もちろん、モデルSは直線でも速い。上位モデルのプレイドは、3基の電気モーターから1000ps以上のパワーを発生させ、静止状態から2.0秒未満で100km/hに達すると言われている。それは実際に試乗したときにぜひ確認したいところだが、低出力モデルでさえも加速力はすごい。
ダイナミクス的には、モデルSは大きくて重いクルマと感じられる。グリップの限界を試すようなハードなプッシュをしなくても、落ち着いて走れば、速くて快適な長距離ツアラーになる。空気の中を流れるような乗り心地の柔らかさは、高速道路では優れたクルーザーとして認識させてくれるが、起伏のある道では、ちょっと浮いているように感じることもある。
インテリアデザインに関しては、ミニマリズムの代名詞となっている。物理的なコントロールはまばらで、クルマの機能の大部分は、ステアリングホイール上の小さなボタンまたは巨大なタッチスクリーンを介してコントロールできる。
モデルSで使われる素材の品質は長年にわたって改善されているが、まだ欧州の高級車ブランドのそれには敵わない。製造品質は、地域によって多少異なることも知られている。
7. キア・スティンガーGT S
キアは、デザイン哲学を刷新すべくピーター・シュレーヤーを雇って以来、ルックスの面で良好な軌跡を歩んできたが、欧州のトップエンジニアの才能も獲得したことで、見た目を裏切らない走りを見せるようになっている。
それはスティンガーGT Sにもあてはまる。370psの3.3L V6ツインターボと後輪駆動のファストバックスタイルを採用し、これまでBMWとジャガーの一部のセダンでしか味わえなかった、満足のいくステアリングフィールとバランスを備えたクルマに仕上がっている。
2021年モデルのリフレッシュでは、新しいインフォテインメントシステムが導入されたほか、インテリアの素材も変更された。まだアウディA7ほど洗練されてはいないが、快適で、しなやかな乗り心地のおかげで長距離走行に適したツアラーとなっている。キャビンは広々としていて、4万2595ポンド(643万円)という価格もお買い得感がある。
8. アウディA7スポーツバック
アウディは、メルセデスCLSを模して、高級セダンとGTカーを組み合わせたコンセプトに熱狂し、A5とA7の5ドアスポーツバックの派生モデルを発売した。どちらもフルモデルチェンジを迎えるほどの人気を獲得したが、今回AUTOCARが選んだのは2018年にリニューアルされたA7の方だ。
第2世代のA7は、先代モデルと比較して全長はわずかに縮小したが、ホイールベースの延長とともに実用性は改善され、後部座席のスペースに不満を抱くのは背の高い大人だけとなった。中央のワイドスクリーン・ディスプレイの使い勝手は良くないかもしれないが、このクルマのラグジュアリーな移動手段としての資質は文句のつけようがない。
素材の質は素晴らしく、キャビンの洗練度は非常に高い。リフトバックスタイルのトランクリッドにより、同クラスのライバルよりもトランクの使い勝手が高い。
A7のドライビング・エクスペリエンスは、今日の典型的なアウディそのものだ。特筆すべきは乗り心地だが、一部の路面ではスムーズさに欠け、歯切れが悪いと感じることがある。英国では、エンジンは2種類のV6ディーゼルと340psのV6ガソリンターボから選ぶことができるが、AUTOCARは前者のパワフルな方を選ぶ。また、600psのRS7スポーツバックも用意されている。
9. レクサスLC
走りに熱心なドライバーであれば、LCを推したくなるだろう。500モデルにはカリスマ的なV8エンジンが搭載されており、バランスのとれた軽快なハンドリングは、時にメルセデスSクラス・クーペよりもジャガーFタイプやポルシェ911の方が自然なライバルだと感じさせる。
このクルマは大きくて、重くて、鈍重だと感じることもある。グランドツアラーとしては、積載スペースのなさ、後部座席の使いづらさ、ランフラットタイヤで劣化する乗り心地なども、LCにおけるウィークポイントだ。
結局のところ、長所に感動するか、短所に不満を抱くかで評価は二極化するだろう。しかし、ドライバーズカーが好きで、ハイブリッド仕様を避けるなら、きっと気に入るはずだ。
10. マセラティ・クアトロポルテ
これまで以上に大きく、長くなった最新のクアトロポルテは、ジャガーXJに似たコンセプトを持つフルサイズのエグゼクティブ・リムジンだ。ハイエンドの快適性と、マセラティの名に恥じないスポーティでエキゾチックな走りを兼ね備えている。
インテリアの広さや装備の面では、マセラティの上位モデルと比べても遜色のないものとなっている。しかし、品質や技術の面ではドイツ勢に一歩及ばないのが現状だ。
マセラティのトレードマークともいえる派手さは、注目を集めるのに役立つが、ほかの重要な部分ではライバルに敵わない。
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