◆「鈴鹿8耐」で話題を呼んだスズキのエコレーサー&好成績
今年で45回目、過酷な暑さの中で長丁場のバトルが繰り広げられた「鈴鹿8耐」(“コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース/7月19~21日)で、ひときわ大きな注目を集めたのが、ゼッケン0をつけたスズキの青いマシンだ。
「Team SUZUKI CN CHALLENGE(チームスズキCNチャレンジ)」(生形秀之/濱原颯道/エティエンヌ・マッソン)は、40%バイオ由来のサステナブル燃料をはじめ、パーツやタイヤなど再生可能素材を用いた車両でレース完走を目指し、見事8位シングルフィニッシュを達成した。
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周回数216は総合優勝の「TeamHRC」よりわずかに4周だけ少なく、決勝レースでの最速タイム2分8秒463も、ベストタイム2分7秒282との差が1秒181でしかない。6月の事前テストでは、2分7秒557の好タイムを濱原選手が叩き出している。
◆優劣ではなくキャラクターが違うだけ
レースから数日が経ち、筆者(青木タカオ)は光栄なことに参戦車両「GSX-R1000R ヨシムラ SERT EWC CN仕様」を目の当たりにしつつ、プロジェクトリーダーでありチームディレクターである佐原伸一氏、そしてチームのコアメンバーである田村耕二氏と今野岳氏に直接話を聞く機会を得た。
限られた時間の中、まず聞きたかったのはカーボンニュートラル(CN)燃料による車両への影響だ。至近距離でまじまじとリアル耐久レーサーを見つめつつ問いかけると、佐原氏はこう教えてくれる。
「(CN燃料での車両への影響の違いは)特にありません。ハードウェアに関して言えば“ドロップイン”でそのまま使えます。ただし、レースで戦うとなるとマッピングの調整が必要となります。出力特性に若干の違いはあるものの、それは優劣ではなくキャラクターの違いと言えるものです」
佐原氏がこう言うと、田村氏と今野氏も「燃料は大きな問題にはなりませんでした」と続く。その言葉に偽りがないことは、ハイレベルで拮抗した今年の鈴鹿8耐で上位チームと比べても遜色のないタイムやスピードが証明している。
世界に先駆けて2023年シーズンから全日本ロードレースJSB1000で導入が始まっている100%非化石由来のバイオ燃料では、エンジンオイルに燃料が希釈しやすく、交換サイクルが早いといった声を耳にするが、今回「8時間のレースでオイル交換は必要なかった」と、3人は口を揃える。
異なる点をあげるなら燃費で、佐原氏によれば「感覚としては半周くらいの差があります」とのことだ。鈴鹿サーキットを1周すると5.821kmだから、その半分は2.9km程度となる。僅かな差だがレースでは非常にシビアで、通常なら27周くらいでピットインするところ、26周以下で給油をしなければならない。
◆スズキの青いマシンが再びレースへ
「パートナー企業とともに、課題を克服しながら完走を目指す」とスズキが宣言したのは、今年3月に開催された「第51回 東京モーターサイクルショー」で開いたプレスカンファレンスでのことだった。壇上にはMotoGP(FIMロードレース世界選手権)スズキワークスチーム(チーム・スズキ・エクスター)でプロジェクトリーダーを務めてきた佐原氏がいた。
MotoGPを撤退した2022年以来、スズキがワークス活動を復活させるのは2年ぶりで、鈴鹿8耐となれば2001年以来、じつに23年ぶりのこと。ユーロ5排出ガス規制によって、多くの地域で販売終了となった『GSX-R1000R』をベースに、サステナブル燃料や再生可能素材パーツを用いて鈴鹿8耐に挑む。そのサプライズな発表に、ファンとともに歓喜したのは記憶に新しいところだ。
田村氏と今野岳氏もまたMotoGPマシン「GSX-RR」の開発メンバーであり、今回お話を聞いた3人はスズキ・レース部門の精鋭たちである。しかし今回、総勢30名となったチームには、社内公募で集めた二輪レース未経験の社員たちもいた。これまでレースに携わってこなかった人たちをメンバーに招き入れたのは、社内でのレースへの理解を広めることやチャレンジする企業風土を形成したいという思いからであった。
◆サステナブルな技術開発のために
長きに渡って活動を続けてきたMotoGPから撤退した2年前、その理由をスズキは「サステナビリティの実現に向け、経営資源の再配分に取り組まねばならない」としている。あれから一転し、サステナブルな技術開発を進めるために再びレースに返り咲き、大きな一歩をスズキは踏み出した。
カーボンニュートラル(CN)社会の実現は、モータースポーツにおいても重要課題のひとつであるのは説明するまでもないだろう。4輪の国内最高峰「スーパー耐久シリーズ」では、メーカー各社が次世代モデルの開発を目的にバイオ燃料を用いて参戦し、内燃機関を活用した燃料の選択肢を広げる挑戦で話題を呼んでいる。
チームスズキCNチャレンジへの関心度は非常に高く、「社内でチーム員を募集したところ、4輪やマリン、生産技術や管理部門などから100名弱の応募があり、スズキ全体の取り組みとなりました」と、佐原氏は頬を緩めた。
データや知見は今後、二輪車だけでなく、四輪車や船外機などにも生かされていく。環境性能技術だけでなく、人材育成やモチベーションの向上にもつながり、将来よりよい製品をスズキがつくっていくことにもつなげられるのだ。
もちろん、今回だけで終わるはずがない。代表取締役社長の鈴木俊宏氏は2023年6月の株主総会で「レースに復活するのなら、しっかりと腹を据えてやることが重要」と語っている。
生物由来の燃料は内燃機の設計を大きく変えずに市販化できる可能性があり、我々ファンとしては技術進歩を願うばかり。CN燃料にも積極的に取り組むスズキの姿勢からは今後も目が離せない!
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