クワトロ(4輪駆動)をアイデンティティとしているアウディ スポーツのなかにあってミッドシップ+後輪駆動という過激なレイアウトを採るR8 V10 RWS。生産数はわずか限定999台で、日本には導入されていない。この異色の存在に、ドイツで試乗する機会を得た。TEXT◉大谷達也 (Otani Tatsuya)PHOTO◉Audi Sport GmbH
後輪駆動の快楽
日本上陸間近! アウディRS 4 Avantにドイツで試乗する
アウディR8 V10RWSは幻のモデルとなることが運命づけられたR8だ。
理由は3つある。
第1に、アウディスポーツが企画・開発するモデルであるにもかかわらず、R8 V10RWSはフルタイム4WDのクワトロを採用せず、後輪駆動とされた点にある。なお、後輪駆動のアウディはR8 V10RWSが史上初と説明されているが、厳密に言うとこれは間違い。
なぜなら、1932年にアウトウニオンを形成する以前のアウディは後輪駆動モデルを生産していたからだ。したがって「戦後、現在の形のアウディが成立して以降、初の後輪駆動モデル」呼ぶのが正しい。
第2の理由は、これが999台の限定生産モデルとなる点にある。これはクーペとスパイダーを含む数字だが、いずれにしても希少であることは間違いない。
そして第3の理由は、R8 V10RWSが日本市場に導入される計画がないというもの。
以上のような理由から、日本のアウディ・ファンにとってR8 V10RWSが幻のモデルとなることはほぼ間違いないが、私たちは幸運にも本誌のドイツ取材中にステアリングを握るチャンスに恵まれた。
そもそも、なぜアウディは後輪駆動のR8を作ったのか? アウディスポーツの技術部門を統括するオリヴァー・オフマンはその理由を次のように説明する。「R8 V10RWSはレーシングカーのR8 LMS GT4で培ったドライビング・コンセプトを一般道に解き放つモデルです」
GT3のひとクラス下にあたる国際的なGTレースの車両規則であるGT4は、量産モデルからの改造範囲を極力減らすことでコストを削減した車両規則。現在、そのコストパフォーマンスの高さからヨーロッパや北米でじわじわと人気を高めているが、このカテゴリーのためにアウディが開発したのがR8 LMS GT4である。
ただし、GT4はレギュレーションで後輪駆動とすることが義務づけられているため、R8 LMS GT4も後輪駆動とされた。この技術をもとに開発されたのがR8 V10RWSなのである。
R8 V10RWSに搭載されるのは540㎰版のV10 5.2ℓ自然吸気エンジン。ギヤボックスもクワトロ版のR8と同じ7速Sトロニックとなるが、前車軸にトルクを伝えるプロペラシャフトやドライブシャフトは省略される。このため車重はクワトロに比べて50kg軽いという。
そのほか、サスペンションやステアリングのセッティングが細かく見直されたというが、少なくともドイツの一般道やアウトバーンを走っている範囲でいえば、クワトロ仕様のR8に見劣りしないスタビリティを披露。ステアリングの正確さの点でも標準モデルとの明確な違いは見つからなかった。
一方で、このクラスでは数少ないV10自然吸気が放つ絶叫に近いエキゾーストサウンドはRWSでも健在。6000rpmを越える領域まで引っ張れば、それこそ背筋がゾクゾクとするような快感が得られる。
もっとも、一般道でR8 V10RWSの真価を引き出すのは至難の技。その本領を試すならサーキットに持ち込むしかないだろう。ちなみに、私はR8の兄弟モデルというべきランボルギーニ・ウラカンの後輪駆動モデルにサーキットで試乗したことがあるが、コーナリング中にスロットルオンすれば即座にテールスライドを引き出せる特性が与えられていた。
これは、サーキットで素早いラップタイムを記録するには不利な条件となるが、テールスライドの量を腰で感じながらスロットルコントロールを行う醍醐味を味わえるのも事実。その意味では、純粋な速さよりもドライビングスキルを磨くためのツールといえるかもしれない。
価格はクーペが14万ユーロ(約1800万円)でスパイダーが15万3000ユーロ(約1970万円)だ。
R8 V10 RWS Coupé
全長×全幅×全高:4426×2037(ミラー含む)×1240mm
ホイールベース:2650mm
車両重量:1665kg
エンジン形式:V型10気筒DOHC
総排気量:5204cc
最高出力:397kW(540㎰)/7800rpm
最大トルク:540Nm/6500rpm
トランスミッション:7速DCT
サスペンション形式: Ⓕ&Ⓡダブルウイッシュボーン
ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク
最高速度:320km/h
0-100km/h加速:3.7秒
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