新型ヴェゼルは、ボディ同色グリルがクルマ好きの間で賛否両論を巻き起こした。保守的な価値観からすると、ボディ同色グリルには微妙に違和感がある。ホンダもそれは認識していて、メッキ縁のブラックグリルも選べるようにした。
アウディがシングルフレームグリルを大ヒットさせて以降、自動車デザインにおけるグリルの重要性は増し、存在感をどんどん強めている。「自動車デザインの本質は全体のフォルムにあり!」とはいうものの、現実は「グリルのインパクトで勝負!」といっても過言ではない。
その流れはEVにもおよんでいる。2021年3月に発表されたレクサスのEV「LF-Z Electrified(エレクトリファイド)」は、EVでありながらグリルを持つ。
しかもそれは「グリルレスグリル」。グリルがないのにグリルがあるという、すかし絵のようなボディ同色グリルにより、EVとしての存在感と個性を表現しようとしている。EVといえども、グリルの呪縛から逃れられないのだ。
そこで今回は、いい悪いは抜きにして、とにかく強烈なグリルを持つ国産車をランキングしてみた。強烈≒(ニアリーイコール)違和感。不肖清水草一のまったくの独断ですのでよろしくお願いします。
文/清水草一
写真/ベストカーweb編集部 トヨタ 日産 ホンダ
【画像ギャラリー】強烈なグリルを持つクルマ「日本車グリル王選手権」ベスト10を写真でチェック!!
■1位:トヨタアルファード/これを超えるグリルはなかなか出てこない!
強烈なグリルを持つクルマ 1位:トヨタアルファード
強烈なグリルと言えば、なにはともあれアルファードだ。登場から6年を経たが、目の慣れを排除して客観的に評価すれば、これ以上強烈なグリルはない。今後もこれを超えるグリルはなかなか出てこないだろう。
登場した時はあまりにも強烈すぎて、保守的なクルマ好きからものすごい反発があったが、まずはヤンキー系のユーザーからすさまじい支持が殺到し、それが徐々に拡大。
経営者や政治家が好んで乗るようになり、現在では天皇皇后両陛下がアルファードで移動されるまでになった。御料車というわけではなく、宮内庁の公用車だと思いますが……。
アルファードのグリルは、進撃の巨人、あるいは西洋の甲冑を思わせる鎧型だ。ボンネット下端からエアダムまで、非常に上下幅の広い巨大なグリルだが、開口面積はごく常識的で、鎧のすき間に紛れるように穴が開いている。機能ではなく、デザインインパクトのために採用されたことは一目瞭然。これがフロントグリルのトレンドなのである。
姉妹車のヴェルファイアも強烈といえば強烈だが、横桟グリルをベースにメッキで加飾したもので、造形的な新鮮さはない。アルファードの斬新かつ強烈なインパクトの前に大敗を喫したのもうなずける。現代のグリルは強烈なものが勝つ弱肉強食の世界なのである。
■2位:三菱eKクロス、eKクロススペース/ダイナミックシールドが凄まじい!
強烈なグリルを持つクルマ 2位:三菱eKクロス(左)、eKクロススペース(右)
eKクロスは登場から2年以上過ぎたものの、そのダイナミックシールドの強烈さは、相変わらずすさまじい。先に出たデリカD:5がかすむほどの強烈さで、そのインパクトは相変わらずだ。
eKクロスのグリルの強烈さは、ポジションライトと合わせて、X字型に裂けた凶悪な表情にある。吊り目は基本的に怒りの表情。その吊り目が非常に細いことで、さらに陰険な気配になっている。
台形の口はブルドッグ系。鼻は潰れたチンクシャ系。人間が不快に感じる表情をすべて集めたようなものでブサカワイイ。小さいながらにその強烈さは凄まじく、称賛するしかない。
■3位:トヨタ新型ランドクルーザー300系/ランクル史上初めてグリルに洒落っ気を感じる
強烈なグリルを持つクルマ 3位:トヨタ新型ランドクルーザー300系。新型ランドクルーザー300標準系
強烈なグリルを持つクルマ 3位:トヨタ新型ランドクルーザー300系。右が新型ランドクルーザー300 GR SPORT、左がZXを除く標準系グレード
まだ発表段階で発売はされていないが、今これを上位に入れないわけにはいかない。基本的には先代からのキャリーオーバーである横桟グリルを継承するが、一本一本の桟をぐっと太くしつつ(ランクルGRスポーツは、ブラックのクロス桟)、周囲に「ヒゲ」グリルが追加されたことで、迫力とともにオシャレ感が大幅に増している。
ランクルは歴代、機能優先の超オーソドックスなグリルを持ち、ある意味デザインレスだった。ランクルであることがなによりのアピールであり、変化球は必要なかったが、今回の300系は、ランクル史上初めてグリルに洒落っ気を感じる。
いまのところ新鮮さや斬新さを感じるものの、奇はてらっていないので、強烈さは急速に薄れ、ごく自然に「イイネ!」となることだろう。
■4位:三菱デリカD:5/X字型のダイナミックシールドはやっぱり強烈
強烈なグリルを持つクルマ 4位:三菱デリカD:5
これまた「いまさらかよ!」と言われそうだが、強烈なものは強烈なのだから仕方ない。このX字型のダイナミックシールドは、やっぱり強烈だ。
ただ、eKクロスよりも下位にしたのは、デリカD:5のほうが違和感が小さいから。eKクロスのグリルはメッキで縁取られ、吊り目も薄目を開けているように見えるが、D:5のグリル中心部はオーソドックスだし、吊り目も口も細すぎて、それほどの凶悪感はない。これでも最初に見た時は夢に出てきそうだと思ったのだから、慣れとは恐ろしい。
■5位:トヨタハイラックス/アメリカン・ピックアップのイメージそのままで強烈に力強い
強烈なグリルを持つクルマ 5位:トヨタハイラックス
新しさにとらわれず客観的に評価すると言いつつ、新しさに流れておりますが、マイナーチェンジを受けたハイラックスの新しいグリルは、アメリカン・ピックアップのイメージそのままで、強烈に力強い。
形状はオーソドクスだが、メッキの縁取りの太さはハンパじゃないし、その内側の横桟も非常に太い。これがトヨタのピックアップトラックの定番グリルなのだが、日本人にはあまりなじみがないので、このズ太さ、デカさだけでかなり強烈に感じる。
■6位:トヨタヤリス/扇を2枚重ねたような形状で非常に強烈に感じる
強烈なグリルを持つクルマ 6位:トヨタヤリス
「ヤリスのグリルって強烈だっけ?」と言われそうだが、個人的には非常に強烈に感じる。まずは、扇を2枚重ねたような変わった形状をしている。
頂点にはトヨタマークがついてグリルがへっこみ(鼻)、下側はだらしなく? 下端まで開き切って、それが舌を出しているように見える。こういうグリルデザインは、自動車史上初めてではないか。
eKクロスのグリルが凶悪なら、ヤリスのグリルはお化け風とでも言おうか。こんなグリルを持つクルマを、多くの一般ユーザーがなんの違和感もなく買っているのだから驚くしかない。
このデザインが10年前に登場していたら、「トヨタは気でも狂ったか!」と言われただろう。時代は常に変化し進化して、新たな造形を飲み込んでいるのですね。
■7位:トヨタエスクァイア/とにかく顔中がグリル!
強烈なグリルを持つクルマ 7位:トヨタエスクァイア
アルファードを見た後だと、どんなグリルも大したことなく見えてしまうが、エスクァイアのグリルはかなりすごい。
とにかく顔中がグリル。顔の面積の8割がグリル! しかも総メッキグリル! よくぞここまでデカくしたものだ。
そのグリルが下まで貫通しているのも、トヨタ得意の造形である。枠を取っ払って貫通していると、それだけで型にはまってないというか、抑えが効いてないというか、とめどないというか、野蛮に見える効果を生む。これはもう鉄仮面のオバケである。
■8位:トヨタグランエース/鉄仮面的な強烈さ!
強烈なグリルを持つクルマ 8位:トヨタグランエース
アルファードをおとなしくしたようなグリルで、アルファードに比べたらはるかに穏やかだが、グリルのデカさがすごいし、メッキの縁取りもギラリとしていて、鉄仮面な強烈さは持っている。
■9位:トヨタGRスープラ/左右に分割されたグリルに違和感あり
強烈なグリルを持つクルマ 9位:トヨタGRスープラ
「スープラのグリルってどこ?」と突っ込まれそうだが、一応真ん中下側の部分と左右に分割された部分がグリルです。フォーミュラマシンをイメージしたもので、フェラーリ・エンツォにその祖を求めることができる。
私はエンツォを美しいと思ったことはないが、スープラはもっと美しくない。エンツォより形状は複雑にうねり、グチャッとしている。
もともと、横幅の広い乗用車(スポーツカー含む)デザインに、先が細くて尖ったフォーミュラカーのイメージを合体させることには無理があり、取って付けた感はぬぐえない。
よってスープラのグリルは違和感のカタマリ。その違和感を楽しむのが、今の時代の自動車デザインのあり方なのだろう。
■10位:トヨタクラウン/先代よりはインパクトに欠けるが……
強烈なグリルを持つクルマ 10位:トヨタクラウン
先代クラウンアスリートのイナズマグリルは、登場当時、その強烈さゆえ話題になったが、現行クラウンはそれに比べたら大人しく、まるで話題になっていない。しかし個人的には、そのバランスの悪さゆえ、かなり強烈に感じている。
トヨタの得意技で、グリルの下側が解放された形状だが、そこにお皿のような「受け皿」を付けている。ぜんぜんカッコよくもないし力強くもないし、なにもいいところはないように思えるが、違和感によって記憶には強く残る。
■まとめ/ベスト10中、8台がトヨタ車、これがトヨタ独走の理由?
ベスト10を選出してみたところ、なんと10台中8台がトヨタ車だった。他社のクルマには、「グリルが強烈」といえるものはほとんどなかった。
唯一対抗できるのは三菱のダイナミックシールドだが、デリカやeKのような箱型ボディでないとあまり違和感はなく、強烈にも感じない。
レクサスのスピンドルグリルは、目が慣れてしまったがゆえに1台も入っていないし、新型NXのグリルにも、もはや強烈さはまったく感じない。グリルの隅をわずかに変形させて表情を出し、新しさを演出しているが、効果は短期間で消えるだろう。
しかし最初にスピンドルグリルが出たときは、十分強烈に感じた。つまり、強烈なグリルの分野において、トヨタはブッチギリの頂点に君臨している。それがトヨタ独走の理由のひとつなのかもしれない。
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