6回目の母国戦を迎えたアストンマーティンのランス・ストロール。F1に対する姿勢が繰り返し指摘されてきたが、闘志はまだ消えていないと主張した。
億万長者ローレンス・ストロールを父に持ち、キャリアを通して可能な限り最高の装備を”買い与え”られてきたランス・ストロールの姿勢は、長い間F1界で議論の的となってきた。
■アロンソが雨混じりの初日を最速で締めくくる。角田裕毅は8番手……フェルスタッペンはトラブルに泣く|F1カナダGP FP2
そしてF1シート争いが激しさを増し、有望なドライバーがF1昇格のチャンスを逃す中、ランス・ストロールのこれまでの“当たり外れの多い”パフォーマンス、メディアへの消極的な対応も相まって、風当たりは強い。
ここ数ヵ月、2025年シーズンに向けてイス取りゲームが白熱しているが、ローレンス・ストロールが所有するアストンマーティンF1のセカンドシートは予約席というのが暗黙の了解だ。
アストンマーティンF1は、ストロール一家の野心に基づいたプロジェクトであり、ランス・ストロールが望む限り、F1シートが彼のモノであることは当然の結論だ。
では実際、ランス・ストロールはいつまでシートに留まろうと考えているのだろうか? F1の中団争いで8年間過ごしたことでモチベーションが下がったと考えるのは無理からぬことだが、ランス・ストロールはF1に対する興味が冷めたとは一切考えていない。
ローレンス・ストロールがシルバーストンの新ファクトリーを拠点に作り上げるアストンマーティンには、時を待つだけの価値があるとランス・ストロールは考えている。なにより、2026年のレギュレーション改正とホンダ製ワークスパワーユニットの供給開始が迫る今、手を引いてしまうのはもったいないのだ。
「ピンク一色だったところ(前身のレーシング・ポイント)から、この5年間でチームとしてここまで成長できたのはすごいことだ」
ランス・ストロールはそう語った。
「僕らには、昨年引っ越しした素晴らしい施設がある。ここ数年、パズルのピースが沢山組み合わさってきた」
「長年シルバーストンにいる才能ある人々に加え、多くの新しい才能ある人々が加わって、このプロジェクトは非常にワクワクするモノになった」
「2019年に350人、400人だったチームが、今は1000人という人数を超えようとしている」
「だから間違いなく、僕はこのプロジェクトにコミットしているし、ワクワクしている。僕の頭の中では、自分が将来のためここにいるというのは間違いない」
他のドライバーと同じようにシート争いをする必要がないということからランス・ストロールには、パフォーマンス面でも批判が集まった。
ランス・ストロールは、予選や決勝でアストンマーティンのマシン自体のポテンシャルを下回ることも少なくない。真のペースを図るために各レース週末でドライバーが記録した最速ラップをまとめた今年の“スーパータイム”で、ランス・ストロールはチームメイトのフェルナンド・アロンソから平均で0.233秒差となっている。
ただ実はこの数値、対マックス・フェルスタッペンのセルジオ・ペレス(レッドブル)、対角田裕毅のダニエル・リカルド(RB)、そして対シャルル・ルクレールのカルロス・サインツJr.(フェラーリ)と比べても、ランス・ストロールはチームメイトに接近できているのだ。
しかしランキングは嘘をつかない。マシンバランスが不安定な今季のアストンマーティンAMR24でランス・ストロールのペースは上がらず、アロンソの3分の1である計11ポイントしか獲得できない状態で、ホームレースを迎えた。
レッドブルがペレスとの契約を延長したことに疑問の声が挙がるように、アストンマーティンが目指すコンストラクターズチャンピオンという究極の目標と、そのために必要なポイントをチームにもたらすべきランス・ストロールの能力と安定性との間には明らかな矛盾がある。
他のドライバーのようにシート確保のプレッシャーにさらされることはないものの、ランス・ストロールは自身が「最も負けず嫌いな人間だ」として、苦戦が誰よりも嫌いだと語った。
「僕は自分のスーパーパフォーマンスを見るのが好きなんだ」とランス・ストロールは言う。
「上手くいかない日は自分に厳しくなる。F1に参戦して7~8年になるけど、素晴らしい1日を過ごせた時は相変わらずワクワクするし、ハッピーになる」
「その感情がまだ僕を突き動かしている。悪い日になるのは嫌いだ。このパドックにいる誰もがそうであるようにね」
2023年シーズン開幕前、ランス・ストロールはサイクリング中に大きな事故に見舞われるも、怪我を押してF1マシンのステアリングを握った。バーレーンGPでは手首の骨を2本、足の指の骨を折った状態だったが、決勝では、耐え難い痛みと格闘しつつ6位入賞を果たした。このエピソードは彼のF1への姿勢を示している。
パフォーマンスよりも個人的な意図が優先されるF1において、今後もランス・ストロールはその存在に疑問符を投げかけられることになるはずだ。しかし、バーレーンでの復活劇のような瞬間は、どんなプロモーションよりも彼のF1への姿勢を示している。レーシングシューズをテニスシューズに、もしくはヘルメットをゴルフクラブに交換する日はすぐには訪れないだろう。
ちなみにランス・ストロールは、雨混じりとなったカナダGP初日、FP1こそ17番手だったものの、FP2では3番手と上位につけた。
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Mr.ペイドライバー。