時の流れとともにクルマを取り巻く環境や価値観は大きな変化を遂げてきた。それとともにその変化の中で静かに存在感を失いつつあるクルマ用語も多く存在する。
今回はそんな死語となってしまった、または死語となりつつあるクルマ用語のなかから、特にイマドキの若者が聞けば「何それ?」と頭にクエスチョンマークだらけになってしまいそうなものをいくつか紹介する。
死語確定!? もはや会話が成り立たない!? ガラパゴス化しちゃったクルマ用語
文/入江 凱、写真/トヨタ、日産、ホンダ、写真AC、イラストAC、Adobe Stock、FavCars.com
昭和世代には馴染み深い用語だが……
■トルコン車/ノークラ
AT車はペダルはアクセルとブレーキの2つだけ。当時主流だったMT車にあるはずのクラッチペダルがないことからノークラ、またはトルクコンバータ式と呼ばれた
どちらもいわゆるAT車を指す呼び方で、ノークラは単純にクラッチがない(=ノークラッチ)からきている。トルコン車とはクラッチのかわりに流体で動力を伝達するトルクコンバータの略称。どちらもAT車が登場した黎明期には一般的な用語だった。
某テレビ番組のリサーチでは、10代の若者の知らない言葉トップ10の2位がクラッチだとか。ということは、そんな若者たちに「ノークラはノークラッチの略だよ」と説明したところで会話はまったく成立しないということか……。
■ミッション車
その昔はMT車を「トランスミッションを手動操作するクルマ」という意味でミッション車と呼ばれることがあった。しかし今では、ミッションと言われたら、映画「ミッション・イン・ポッシブル」を連想する若者のほうが圧倒的に多いだろう……。
いずれにせよ、ATにしろMTにしろ、どちらもトランスミッション(変速機)は付いているので、ミッション車という呼び方が適切かの是非は意見が分かれるところだが。
■ライトバン
ライトバンの代表例であるトヨタ プロボックス。屋根付きの小型貨物車で社有車などで数多く採用されている
バンと言えば1ナンバーや4ナンバーの商用車のことを指すが、なかでも小型で積載量が少なめの屋根付きの貨物自動車全般をライトバンというカテゴリーに分類していた時代があった。
代表車種としては、トヨタのプロボックス、日産のAD、マツダのファミリアバンなどが挙げられる。現在では車種が少なくなってしまったこともあってか、ライトバンという用語自体が死語になりつつあり、単にバンとして扱われるようになっている。
■ベンコラ
ベンコラとは「ベンチシート+コラムシフト」の略。最近のクルマは運転席と助手席の間がセンターコンソールや通路によって仕切られているが、昔は前列の席が長いベンチのように一体となったベンチシートと呼ばれるタイプも多かった。
コラムシフトとはハンドルの付け根から伸びているシフトレバーを操作する方式だ。ベンコラのメリットは足元が広く、左右への行き来がしやすいことが挙げられる。
しかし、ベンコラが最も活躍したのはドライブデートのシーン。運転席と助手席がつながっており、二人の間を遮るものがないベンコラはデートカーの定番だった。イマドキの若者も喜びそうなシステムなのだが……。
「そーいえばあったよねー」なカーパーツ
■毒キノコ
手前の黄色の部分が毒キノコ。たしかに、キノコの傘を連想させる形状だ。さらに黄色となるとこれは毒キノコ確定!?
多くの若者がクルマのパワーや走行性能を競ってチューニングやカスタムに夢中になっていた時代、エンジンに取り入れる空気をろ過するエアクリーナーの交換は、手軽に性能向上が見込めるド定番アイテムだった。
そのなかでも毒キノコはチューニングマニアの間では人気だった。これは、その名の通り、キノコのような形をしたエアクリーナー。エアクリーナーボックスを取り払い、むき出しの状態で取り付けるものだが、見た目が赤や紫、黄色、青といった派手で毒々しい色をしているものが多かったため、毒キノコと呼ばれていた。
他にも、キノコ型エアクリーナー、剥き出しエアクリーナーなどと呼ばれることもあった。
しかし、走行性能よりも快適さや燃費といった要素が重視されるようになるにつれ、チューニングやカスタムを行うユーザーも少なくなり、毒キノコも存在感を消しつつある。
■カタツムリ
こちらも毒キノコ同様に見た目が由来の呼び名で、カタツムリの殻のように渦を巻いた形をしているターボチャージャー本体のこと。昭和のクルマ好きなら誰しも知っている用語だが、クルマのメカニズムどころかクルマにすら興味がない若者にとっては、カタツムリとクルマが脳内で結びつくなんてことはありえないのだ。
■砲弾マフラー+タイコ
チューニングの定番の一つとしてマフラーを交換することも流行した。90年代に人気を博したのが円筒形のタイコが特徴の砲弾マフラーだ。これも若者にとってはほぼ死語的用語であることは間違いない。
タイコとはサイレンサー(消音器)とも呼ばれ、排気音の調節や排気効率を左右する重要な部品。一般的にタイコは大きな楕円形状のものが多かったが、砲弾型マフラーは小ぶりな円筒形でスポーティな印象があり、純正のように真後ろに向けて排気するのではなく左右に角度をつけた斜め出しがかっこいいとされていた。
■ホワイトリボン/ホワイトウォールタイヤ
白い部分がサイドウォール全体に及ぶものをホワイトウォールタイヤ、それよりも細い帯のものをホワイトリボンタイヤと呼び分けることもあるようだが、その基準は曖昧だ
古い映画に登場するようなクラシックカーにはサイドが白くなっているホワイトリボン(ホワイトウォール)タイヤが装着されていた。
イマドキの若者でなくてもタイヤの色は真っ黒が常識と思っている人は多いかもしれないが、実は本来タイヤに使われるゴムの色は白色や飴色。タイヤの黒さは耐久性を向上させるためにゴムに混ぜ込んだカーボンブラックと呼ばれる炭素の微粒子によるものだ。
この技術が広がっていくなか、接地面だけが黒く、サイドはゴム本来の色がむき出しとなっているホワイトリボンタイヤが生まれた。日本では60年~70年代にかけてトヨタのクラウンや日産のセドリックに純正採用されたものの、ホワイトリボンタイヤは徐々に数を減らしていった。
現在でもヴィンテージ風な見た目を好む一部のユーザーが愛好しているが、製品の数も少なく、若者に限らずその存在を知らない人も多くなっている。
■スパイクタイヤ
現代では凍結路と言えばすっかりスタッドレスタイヤが主流だが、それ以前はタイヤのトレッド面(接地面)に金属製の鋲を打ち込んだスパイクタイヤが積雪の多い寒冷地を中心に普及していた。
スパイクタイヤは凍結路でのグリップ力が高く、非常に効果的だったが、同時に路面に与えるダメージが大きいという欠点もある。路面の補修にコストがかかってしまうのはもちろん、削られたアスファルトが巻き上げられたことによる粉塵の被害もすさまじく、仙台市では粉塵が砂嵐のように舞い「仙台砂漠」と呼ばれるほどの社会問題になった。
そしてついに1990年には「スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律」が公布され、スパイクタイヤでの走行がほぼ全面禁止された。国内タイヤメーカーもスパイクタイヤの製造を中止したためそのまま姿を消していった。ということで、平成生まれ以降の世代にはスパイクタイヤの存在を知らないという人が多い。
当時はかっこいいと思っていたけれど…な珍トレンド
■陸(おか)サーファー車
陸サーファーの代名詞はマツダ 5代目ファミリア。特に人気だったのは真っ赤なモデルでルーフにはサーフボード、ダッシュボードにミニチュアのヤシの木を置いたりしてサーファー感を演出していた
サーフィンというスポーツが日本で注目され始めたのは、70年代と言われている。「ビッグ・ウェンズデー」などのサーフィン映画の大ヒットも相まって、アメリカの文化に憧れていた若者たちの間に広まり、サーフィン人気は加速していった。
そんななかで出現したのが実際にはサーフィンをしないが、モテるためのファッションとしてサーファーっぽい見た目をするという「陸サーファー」。
80年に発売したマツダの5代目ファミリアはこうした陸サーファーたちに絶大な人気を誇り、爆発的にヒットした。特に人気だったのは真っ赤なファミリアで、サーフィンをしないのにルーフにサーフボードを乗せ、街中でナンパをする陸サーファーたちが大量に出没していた。
昭和オヤジのなかには、若かりし頃、陸サーファーだったなんて人もいるのでは? 今となったら黒歴史!?
■竹槍マフラー
上向きに長く伸び、竹槍のように切り口が斜めになっているマフラーのことで、いわゆる「族車」カスタム。見た目のインパクトと爆音を求めた結果だが当然ながら保安基準に適合するワケもなく、公道を走行すれば違反となる。
取り締まりの強化や価値観の変化、少子化の影響など要因はいくつか考えられるが80年代には40000人を超えたと言われる暴走族も令和3年の時点で約4700人と全盛期に比べて数が激減していることもあり、竹槍マフラーを目にする機会もほぼなくなった。
■出っ歯
竹槍マフラーと同じく族車のカスタムの一つで、フロントバンパー下に装備される前方に大きく突き出したチンスポイラーというエアロパーツの俗称。
70年代後半から80年代の初頭にかけて規定されていたシルエットフォーミュラ、スーパーシルエットなどと呼ばれるレーシングカーのデザインの影響を受けているとも言われている。竹槍マフラー同様に公道での走行は違法となる。これも竹槍同様、絶滅危惧種確定のドレスアップだ。
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