アウディと共同開発のV6ターボを採用
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)コンパクトSUVポルシェ・マカンの中間グレード、マカンSの右ハンドル車を英国の道で試乗するのは初めて。2019年のモデルイヤーとなるマカンは、フェイスリフトを受け、新しい3.0LのV6ガソリン・ターボエンジンを搭載。最高出力354psを発生させ、一回り大きいパナメーラやカイエンにも採用されている。
このユニットは「EA839」というコードネームで呼ばれており、同じグループのアウディとともに開発したもの。インゴルシュタットがディーゼルに置き換える決定を下す前の、先代のS4やSQ5にも搭載されていた。ツインスクロール・ターボは90度のバンク角の間にレイアウトされる。
またショートストローク、低コンプレッション化させた2.9Lツインターボ・ユニットとして、アウディRS4やRS5に採用されているものと基本的に同じユニットでもある。このセットアップで、まもなく登場するマカン・ターボのボンネットにも納まるだろう。ターボSの最高出力は450psくらいにまで高まるはず。
今回試乗するマカンSは、4気筒エンジンを搭載するエントリーグレードより23万円程度高いだけ。V6エンジンとなるだけでなく、異なるデザインの18インチ・アルミホイールが組み合わされ、フロントブレーキもアップグレードされる。コストバリューで優れているように感じるのはわたしだけではないはずだ。ただしエントリーグレードといっても、ラグジュアリー・パフォーマンスモデルらしい価格付けには変わりないけれど。
マカンSなら選べるブレーキのオプション
4気筒のマカンと同様に、マカンSにもスチールコイル・サスペンションと通常のパッシブダンパー、7速ツインクラッチATが標準装備。後輪駆動ベースとなるクラッチ内蔵の4輪駆動システムで18インチ・タイヤを駆動する。
ポルシェらしく、オプションは限りない。PASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム)アダプティブタンパーや車高調整の可能なエアサスペンション、電子ロック・リアデフなども選べる。ホイールは最大で21インチまで大径化することもできる。これらを思い通りに組み合わせていくと、かなりの金額になってしまう。
4気筒では選べないが、6気筒のマカンで選択ができるオプションが、ブレーキ。スチール製のディスクをタングステンカーバイドと呼ばれる特殊金属でコーティングした「PSCB」ブレーキを選択すると2000ポンド(26万円)のプラス。より強力でフェードしにくいセラミック・コンポジッド・ディスクブレーキ「PCCB」を選択すれば、6000ポンド(78万円)ほどの追加となる。
ポルシェの新車を購入しようとすると、このグレードとオプションとの選択に悩まされることになる。悩むだけの意味もあるし、クルマを買う楽しみのひとつでもある。今回のテスト車両にはアダプティブ・ダンパーにスチールコイル・サスペンション、20インチのアルミホイールにトルクベクタリング機能好きのリアデフが搭載されていた。ブレーキは標準のままだ。
数年前ならトップグレード級のエンジン
マカンにポルシェ・ブランドに期待する優れたハンドリングとパフォーマンスを期待するのなら、オプション選択はとても重要となる。それを体現したクルマだった。例えばマカンSの場合、マフラーだけでも3種類の選択ができる。標準のマフラーにシルバーのマフラーカッターか、ブラックを組み合わせるか、スポーツ・エグゾーストシステムを選ぶか。
テスト車両には標準マフラーにブラックのマフラカッターの組み合わせだった。スタイリングのマッチングは良いが、発せられる排気音には物足りなさを感じるドライバーもいるだろう。新しいV6エンジンはスムーズでトルキーで、レスポンスも良い。走行パフォーマンスは悪くないが、どこか特徴的な個性という面では希薄でもある。
現代の多気筒ターボに期待する非常にワイドなパワーバンドを備え、低回転域でも、低速域でも、非常に活発にマカンを走らせる。数年前なら、トップグレードに搭載されていても違和感のないパワー感だ。だが最新のハイパフォーマンスSUVに乗り慣れているのなら、もう少し破壊的なパワーと、刺激的な音響を欲するかもしれない。実際、マカンを選ぶドライバーもの多くがGTSやターボに目移りするようだが、SUV基準でなくても、マカンSの直線加速が遅いとは決していえない。
一方で、アダプティブダンパーとコイルサスペンション、20インチ・ホイールという組み合わせは、洗練された優れた乗り心地を構成している。横方向のグリップ力も高く、ハンドリングレスポンスも良好。アルファ・ロメオ・ステルヴィオほど痛烈ではないが、操縦性は秀逸だといえる。
マカンなら選びたいエアサスペンション
だが素のマカンかマカンSか、エンジンの気筒数は問わず、エアサスペンションの方がより良いはずだ。乗り心地の面だけでなく、車高を調整も可能だから、オフロード走行で有用な最低地上高を増やすこともできる。
加えて車重に抗するようなハンドリングを備えるマカンの場合、バネ下重量やスプリングレートの最適化も重要で、エアサスペンションならより理想的でもある。どんなコンパクトSUVよりもコーナリング時の姿勢をフラットに保ち、バランスを崩すことなく機敏で直感的な操舵性を与えてくれることになるだろう。
だとしても、コイルサスペンションのマカンも十二分に素晴らしい。ほとんどのライバルを凌駕する優れたハンドリングとコミュニケーション性を備えていることには違いない。もし余計な考えが吹き飛ぶような痛快な走りを味わいたいのなら、ポルシェらしくさらに上位グレードということになってくる。
2019年版としてフェイスリフトを受けたマカンだが、実用性やボディサイズという点ではそのまま。ラゲッジスペースはハッチバック・モデルよりは広いものの、乗員スペースは特に広々というほどでもない。インテリアデザインは若干時代遅れ感がなくもないが、アップデートされたPCMインフォテイメント・システムが、大きく雰囲気を引き上げている。操作性の良い物理スイッチが残されている反面、ライバルが備える、遊び心のあるデジタルモニターは付いてこない。
SUVではなく、優れたドライバーズカー
標準装備のコンフォート・シートは、身重の高いドライバーにとっては座面が短く、サイドサポートも不足気味だ。市街地で走らせていると、スチールコイル・サスペンションはやや落ち着きが無く、車高の高いSUVの割には乗り心地は穏やかなものではない。パドルシフトで操作できる7速ツインクラッチATは、時折強いシフトショックを生む点も、慣れるまでは市街地では気になるだろう。
といっても、このクルマの抜群な完成度からすると、些細な汚れ程度でしかない。V6エンジンを搭載したモデルの中で、ポルシェ・マカンは非常に優れたドライバーズカーだといえる。
またマカンSは仕立て方も重要で、スポーツ・エグゾーストシステムとエアスプリングを組み合わせれば、すべてを叶えてくれるハイパフォーマンスSUVの出来上がり。余裕があれば、PTVプラス・トルクベクタリング・システムと、スポーツシート、程よい大きさのアルミホイールも選びたい。
実用性という面では、マカンは一般的な中サイズのSUVよりも劣ることは確か。あくまでも「ポルシェ」として、実用的なコンパクトな4シーターという位置づけだと思う。ファミリーカーとしても使うことはできるが、荷物を沢山詰めるようなクルマではない。むしろドライバーズカー的な走行性の高さを加味すれば、SUVとして捉えないくらいの方が正しいのかもしれない。それがマカンが売れている事実にもつながっている。
ポルシェ・マカンSのスペック
価格:4万8750ポンド(633万円)
全長:4697mm
全幅:1923mm
全高:1624mm
最高速度:252km/h
0-100km/h加速:5.1秒
燃費:-
CO2排出量:-
乾燥重量:1865kg
パワートレイン:V型6気筒2995ccターボ
使用燃料:ガソリン
最高出力:354ps/5400-6400rpm
最大トルク:48.8kg-m/1360-4800rpm
ギアボックス:7速ツインクラッチ・オートマティック
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