構成はノートと同じもパワートレインはセレナ用に専用チューン
「充電を気にすることなく、どこまでも走れる。電気自動車のまったく新しいカタチ」。それがノートに続き“e-POWER”を搭載したセレナe-POWERだ。電気自動車でありながら外部からの充電なしに、1.2リッターエンジンで発電して電気を貯めてモーター走行できる、かつてない“シリーズハイブリッド”のミニバン、インテリジェントモビリティなのである。
「電気自動車の新しいカタチ」の日産ノートe-POWERは新しい技術じゃないってホント?
まずは従来より設定のあるスマートシンプルハイブリッド(以下、S-HV)との違いから。エクステリアではブルーアクセントの追加、ハイウェイスターを含む全グレードの15インチスペシャルエアロホイール、リヤサイドスポイラーが装備されている。インテリアではブルーアクセントの加飾&スタータースイッチ、メーター、バイワイヤーシフトノブ、前席中央下にバッテリーとインバーターを収めるため新設されたコンソールトレイがe-POWER専用だ。
そしてセレナe-POWERは7人乗り限定となる。つまりセレナ独自のユーティリティポイントだったマルチセンターシートは廃止。2列目席はS-HVの2列目席左側席にアームレストを付けたものを左右に2脚設置。この設定はヴォクシー&ノアHV、ステップワゴンスパーダHV同様で、上級グレードとしての位置付けからより贅沢な着座感が得られるキャプテンシート仕様とし、またハイウェイスターでも燃費優先のエコ15インチタイヤを履くことから耐荷重(フル乗車時の車両総重量)の要件も含まれる。
では、2017年の国産コンパクトカー販売台数No.1、2018年1月国産乗用車販売台数No.1であるノートe-POWERとはどう違うのか? じつはノートとセレナのe-POWER同士では車重が540kgも違う(S-HV比較では80kg前後重い)。そこでリーフと同じEM57と呼ばれるモーターの出力を25%UPさせて136馬力/320N・mに。同時にバッテリー容量を20%アップの1.8kWhに。そして1.2リッターエンジンの出力を7%アップの84馬力に増強しオイルクーラーを追加。
これで素早い加速力、バッテリー走行距離の拡大、高負荷対応が実現・可能になったのである。さらにノートe-POWERにない機能としてマナーモード、チャージモードを新装備。
マナーモードとは深夜の住宅街の走行などで便利な、強制的にモーター走行させるエンジンがかかりにくい制御のこと。それと連動するのが事前にエンジンで発電し、バッテリー容量を貯めておくチャージモードだ。もちろん室内空間の大きさから、電気自動車にとってつらい暖房出力性能も向上させているという。
ちなみにバッテリーが90%充電状態でのモーター走行距離は最大約2.7km。また、1.2リッターエンジンの出力アップは、たとえばバッテリー残量が少ない場面で急勾配のワインディング「箱根ターンパイク」を登り切れる性能要件で決められたのだ。
しかし、セレナe-POWERがミニバンにまったく新しい世界、快適性能をもたらしてくれた最大のポイントは、モーター走行によるウルトラスムースな加速性能、電気自動車ならではの静粛性だろう。
フロントラミネートウインドウガラス、日産初の4層センターフロアカーペットなど25アイテムにおよぶ遮音材を追加。エンジンが始動したときのノイズレベルはノートe-POWER比20%減という。
クラストップレベルとなる26.2km/Lの燃費性能はもちろんだが、個人的にはアクセルペダル操作だけで加減速、停止まで行える「ワンペダル」機能こそが新しい世界感だと思っている。
EVでもブレーキ操作はドライバーのペダル操作にゆだねられ、下手なドライバーがブレーキペダルを踏めば不快な前後Gが発生。とくに重心の高いミニバンだと乗員の上半身、頭は大きく揺れて不快なだけでなく、疲労感にも直結。クルマ酔いの原因にもなる。
しかし、ノーマル/エコ/S(スマート)から選べるドライブモードのエコ/S(スマートモード)で機能する、アクセルオフによるノートe-POWERと同じ最大0.15Gの減速力(リーフは最大0.2G)が得られるワンペダル操作なら、下手にブレーキを踏まれるよりはるかにスムースに減速する。
しかもノートe-POWERにはない、ミニバンの重心の高さに配慮したと思われる約60km/h以上になると、減速Gを0.1G以下に抑える制御まで盛り込まれているのだ。速度域の高い高速走行で、より自然な減速力を発揮してくれるわけである。そのため終始、誰もがブレーキングの達人になったかのようなスムースさ極まる減速操作を行え、ミニバンの後席乗員の快適度を飛躍的に向上させてくれるわけだ。
しかも、ブレーキを踏む機会が70%減にもなるという(ノートe-POWERのデータ)ワンペダルドライブは、長時間・長距離ドライブにおいて、同一車線半自動運転のプロパイロット(上級グレードにのみオプションというのが残念だが)とともに、ドライバーの疲労度低減に直結する。
そうそう、個人的にもセレナS-HVで不満だったメーター内の遠く、小さいインフォメーション画面に表示されていたバックカメラなどの映像は、このe-POWERからナビに移動。見やすさは大幅に改善されている。
また、プロパイロットの制御そのものは変わっていないが、カメラが判断してからのレスポンスがモーター駆動のほうが早いため、追従性能が向上したかのように感じられて前後方向のギクシャクも減少。プロパイロットそのものが進化したように感じられるほどである。つまり、e-POWERとミニバンの相性は想像以上にいいのである。
乗員のクルマ酔いにも効果のあるe-POWERのワンペダルドライブ
さて、ここからはセレナe-POWERの走行性能が、ほぼ2リッターエンジンを動力源とするS-HVとどう違うのかについて報告したい。試乗したのはe-POWERのハイウェイスターVである。
ところで、セレナe-POWERにはドライブモードとしてエコ/ノーマル/S(スマート)モードが備わるのだが、ズバリ、セレナe-POWERならではのアクセルオフでの最大0・15Gの減速力が得られ、完全停止まで持っていけるワンペダル走行が可能なのはエコとスマートモードのみ。
なので、まずは市街地走行に適したエコモードで発進する。いかにモータートルクが瞬時に立ち上がるとはいっても、このモードは電費最優先。さすがに加速力は穏やか。とはいえ、とくにe-POWERのエンジンが始動する登坂シーンでは、S-HVとの動力性能差はe-POWERのほうが80kg前後重いのにもかかわらず、むしろ苦しげなエンジンノイズを放つ2リッターエンジンより静かに駆け上がってくれるのだ。
操縦性、ステアリングの応答性もまたセレナらしい、ファミリーミニバンとしてふさわしい穏やかなもの。しかしS-HVもそうだが、フットワークは想像以上にしっかりしたもので、山道を気持ちよく飛ばすことさえできる安定感、懐の深さを持ち合わせる。
セレナe-POWERはバッテリー積載によって重心が低まるため、15インチタイヤ装着でも絶大な安定感と、S-HVのハイウェイスターが苦手な、荒れた路面での足まわりのバタつきのないしっとりとした快適感ある乗り心地を両立。ここは大いに評価したいところだ。
ノーマルモードはブレーキングする機会の少ない高速走行に向いている。エコモードに対して2リッターエンジンを積むS-HV同等の動力性能が得られ、アクセルレスポンスが高まるものの、e-POWER最大の魅力である新しさのあるワンペダルが使えないため、開発段階で「必要か? 不要か?」と議論もあったいうモードだ。ちなみにノートe-POWERユーザーは大多数がエコまたはSモードで乗っているそうだから、これ以上の話は割愛。
で、セレナe-POWERからあえてスポーツではなくスマートモードと呼ぶようになったSモードで走りだせば、全域でのトルク感、アクセルレスポンスが劇的に向上(エコモードに対して)。右足とモーターが直結したかのような走りやすさがあり、交差点の右折などでも意のままにスッと前に出られる安心感さえ手に入るのだ。
そしてなんといってもエコモード同様の回生ブレーキによる、スムースな減速感が得られるワンペダルがもたらす新鮮なドライブフィールがe-POWERらしさ。およそ60km/h以下では最大0.15Gの減速力が得られるため、下手にブレーキを踏むよりはるかにスムースに速度を落とし、慣れれば(半日も乗っていれば)ピタリと停止線位置に完全停止することだってできる。
およそ60km/h以上になると、高速走行対策でワンペダルによる最大減速Gは0.1G以下になり、減速効果は弱まるものの、よりスマートに減速してくれる。実際に2列目席に乗ってみると、ワンペダルが機能しないノーマルモードでブレーキを踏まれるより、減速時の上半身、頭の揺れが小さくなることを体感。快適度が高まると同時に、車酔いしやすい人にも効果があると思えた。そう、重心が高く、乗員の揺すられ感が強くなりがちなミニバンにとって、e-POWERが最適なパワーユニットといえる理由がそこにある。
もちろんバッテリーが十分にあれば電気自動車ゆえモーター駆動のみの静かな移動空間となり、プロパイロットをOP装備すれば(できればe-POWERは上級グレードなのだから標準化してほしいが)、ドライバー、乗員ともに長時間、長距離のドライブでもかつてない快適感、疲労度の少なさを実感できるに違いない。
では、エンジンがしゃしゃり出てくる!? のはどんな場面か。まずは当然だが、バッテリー残量が少なくなり、発電する必要があるとき。そして暖房を使うときだ。後者はエンジンが1.2リッターと、熱源が小さいからである。ちなみにエンジンが回っていても火が入らず、ガソリンも消費しないモータリングというモードも存在する。これはブレーキを作動させるため負圧が足りないとき、そして長い下り坂を走り、バッテリーがパンパンになってしまったときにあえて電気を消費するためのモードである。
念のため言っておくと、入念な遮音対策が施されていることもあって、たとえエンジンに火が入って始動しても、発生するノイズレベルはノートe-POWER比で約20%低減されているから、モーター走行時との煩(うるさ)さの差は格段に小さい。よって1-3列目席の会話も、容易な静粛性がエンジン始動の有無にかかわらず確保されているというわけだ。
くり返すけれど、セレナe-POWERは新しいカタチの電気自動車、ミニバンである。価格はS-HVに対して約50万円高だ。えっ、そんなに違うの……と思うのは早合点。他メーカーのライバル車のガソリン車とHVの差額もそんなものである。
つまり、すでにコスト的にこなれたノートのシステムを使うことで、ミニバンの電気自動車をユーザーが納得できる範囲の価格に抑えてくれたのがセレナe-POWER。ノートe-POWER同様、大ヒットすること間違いなしと思える。
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