土壌への攻撃性を抑えつつ生産性も向上できるのが強み
7月12日~16日の5日間、北海道帯広市の北愛国交流広場にて「第34回国際農業機械展in帯広」が開催された。4年に1度の開催となるこのイベントは、国内のみならず、海外からも注目を集める展示会。会場は地元北海道の農業や酪農に携わる方たちや、未来の農業などを背負っていく学生たちなどで賑わいをを見せ、5日間で約20万人が来場した。
【今さら聞けない】タイヤの横に書かれている文字や記号の意味とは?
この国際展示会に、長年出展しているのがミシュランだ。今年も会場内のメイン通りに面した位置にブースを構え、たくさんの来場者が訪れていた。取材に訪れた7月13日は、午前中に雨が降るという生憎の空模様だったが、現地で活躍される農家の方や、酪農家の方など現場で働く人たち、そしてこれからの未来を背負っていく学生たちが多かった印象だ。
ミシュランのブースに多く展示されていたのが、農業機械用などの“ラジアル”タイヤだ。私たちが運転する普通車などでは当たり前となっているラジアルタイヤだが、農業用となると、まだまだバイアスタイヤが主流とのこと。構造としてはタイヤを構成するカーカスを斜めに配置し、ねじれを防ぐために逆方向へ複数枚重ねるというもの。低速や悪路走行での乗り心地を確保できるとして、長年使われてきているのだ。
しかし、ミシュランは1970年代に初の農業用ラジアルタイヤを市場に投入。その後、低空気圧技術(Low Pressure Technologies)を導入した農業機械用タイヤを開発する。これにより接地面積が増え、牽引力の向上や面圧の低下につながるのだ。加えて、しっかりと駆動力がかけられるため、機械の燃料消費削減にも効果的なのだ。
「土を研究している専門家とともに、一緒にテストを行っています。土への負担を減らすために、どのような形で、どれくらいの空気圧で土へ踏み入れれば負担が少なくなるのか。タイヤによって土が圧縮されて踏み固まってしまうと養分をうまく吸えなくなり、よい土とならなくなって作物がうまく育たなくなります。そのようなことにならないよう日々研究しているのです」と語るのは、ミシュランB2Bタイヤ事業部の田中禎浩さん。
土への負担を減らすため、少ない空気圧でも高い耐荷重をもたせたIF(Improved Flexion:従来品と比べ、同空気圧なら+20%の耐荷重能力)やVF(Very High Flexion:従来品と比べ、同空気圧なら+40%の耐荷重能力)といったタイヤも多くラインアップしている。
60馬力~170馬力以上のトラクターに最適な、ベストセラーの進化版「アグリビブ2」や、畑での作業と運搬を両立する「カーゴエックスビブ」といった、さまざまな用途のタイヤを展示。そのなかでも来場者の注目を集めていたのが、参考出品となっていたエボビブというタイヤだ。
CTIS(Central Tire Inflation Systems)という技術を搭載しているのだが、これは作業中に自在にタイヤの空気圧を調整できるというもの。道路から農場へ入る際に空気圧を落としたり、逆に道路へ出る際に空気圧を下げることが手軽に行えるようになるのだ。
これにより、作業を止めることがないので生産効率の向上にもつながる。ヨーロッパではすでに投入されている技術だが、日本での導入を目指しているという。さらに、タイヤの履き替えなどで費用や時間のロスといった負担を減らすべく、通年で使用できる、いわゆるオールシーズンタイヤ「クロスグリップ」も展示。こちらは2018年9月に発売を予定しており、多くの来場者が具体的な説明を受けていた。
また、左右のタイヤの回転差によって、その場でクルクルと回転することができるスキッドステアローダーという車両向けに、空気の入っていないエアレスラジアルタイヤ「エックス トゥイール オールテレーン」も参考出品された。主に堆肥などを運搬するために使われるのだが、木材などを踏みつけてもタイヤのゴムが衝撃を吸収するため、乗り心地も確保しているという。ホイール部と単一ユニットとなっているので、いわゆるタイヤの組み換えの必要もなく、交換するだけでOK。時間の短縮にもつながるほか、トレッドは摩耗したら張り替える(リトレッド)が可能なため、経済的でもあるのだ。
取材時、実際にミシュランタイヤを使用しているという農家の方にお話を伺った。すると、他メーカーのタイヤでは作業中にリム部に泥が噛んでしまい、そこからエアーが抜けてしまったり、サイドウォールを擦ってしまったら、切れてしまってパンクしたというトラブルを聞いたことがあるという。そうなると、限られた収穫期に最適な状態の作物を収穫できないといったトラブルに繋がってしまうことも。しかし、ミシュランではこれまでそのようなトラブルに遭ったことはないそうだ。タイヤ交換を検討している友人に、ミシュランを勧めたというエピソードも教えてくれた。
「収穫期というのは、どの農家さんもほぼ同じになるようです。となると、農機具の貸し借りはできません。そのような状況で、タイヤが原因で作業を止めてしまうようなことがあってはなりません。いかに生産者の負担を減らすことができるか。それが大事です」と田中さん。
会場を見渡すと、展示してあった車両の約7割がミシュランのタイヤを標準装備していた。それも、高出力の車両ばかり。力強いからこそ、土への攻撃性も高まってしまう。いかに土への負担を軽減するかということを、農業機械メーカーも理解している証拠。いち早く農業用ラジアルタイヤをミシュランは、今後も生産者の負担を減らすべく新しい技術を世に送り出すことだろう。
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