2016年6月より販売が開始されたジャガー初のSUV、F-PACEに試乗してきた。八ヶ岳周辺のワインディングと高速道路をドライブし、2.0LディーゼルとV6型3.0Lスーパーチャージドモデルを体験し、思いを巡らせてみた。
<レポート:髙橋 明/Akira Takahashi>
■ラインアップとポジショニング
F-PACEのエンジンは2タイプ。ディーゼルとガソリン。ディーゼルは2.0Lターボでジャガーオリジナルの「インジニウム」エンジン。180ps/430Nmという出力だ。2.0Lディーゼルで430Nmのトルクは、370Nmから400Nm付近の出力モデルが多い中トップクラスの出力といえる。ガソリンは3.0L・V6型にスーパーチャージャーを搭載した、340ps/450Nm と380ps/450Nmの出力違いがラインアップされている。
価格からエントリーモデルとされるのはディーゼル搭載モデルで、639万円から。またトップグレードは限定車を除くとガソリンの高出力バージョン「S」グレードで981万円という設定。F-PACEはクロスオーバーの要素が強く、スポーツ性が高い。そのためいわゆる悪路を得意とするSUVはライバルとはならない。このあたりでランドローバーとの住み分けがある。見渡せばポルシェ・マカンが価格設定からもガチ勝負で、マカンは685万円から1066万円という設定になっている。2車の最大の違いはディーゼルエンジン搭載モデルの有無になる。
F-PACEのボディサイズは全長4740mm×全幅1935mm×全高1665mm、ホイールベース2875mm。ちなみに、マカンは全長4680mmm×全幅1925mm、全高1625mm、ホイールベース2805mmとなっている。
さて、F-PACEのネーミングはジャガーのスポーツ系ブランドを意味する「F」と、英語のスピード配分やテンポの意である「pace」が組み合わされたもの。ハイペースとかスローペースとかいうペースだ。つまり、スポーツ性を期待していいクロスオーバーというのがネーミングから想像できる。
■もはやディーゼルかガソリンかの違いが解らない
試乗は2モデル。ディーゼルのR-SPORTとガソリンのSグレード。最初はディーゼルからの試乗だったが、乗り込んでエンジンをかけてみてもディーゼルと感じない静かさだ。そして動き出しで感じるディーゼル特有のゴロゴロ感がなく、やはりディーゼルだと感じない。さらに加速していくともっとディーゼルだと感じないのだ。
これは、ディーゼル特有のカリカリとしたノック音が全くないからだ。そして回転の上がり方、下がり方がガソリンエンジンと遜色がなく、レスポンスよく反応する。さらに、巡航走行するとディーゼル特有の気持ち良さである、低回転大トルクという性能が存分に発揮され、回転は低く抑えられたまま、高速巡航できる。だから、きわめて静かなのだ。長距離をクルージングするにはディーゼルがいいという欧州の常識が、間違いなく体験できるし国内においても、その常識は通用する。
■高速ワインディングが楽しくなるハンドリング
ハンドリングは「これがSUVなのか?」というほどスポーティで、楽しい。試乗車にはオプションの20インチサイズのタイヤ&ホイールが装着され、メカニズムとしてはオンデマンド式のAWD、磁性体ダンパーを持つアダプティブダイナミクスを装備していた。だからダイナミックモードをチョイスすると、ディーゼルとは思えない瞬発力としっかりとしたハンドリング手応えがある。
ロールの感じ方もまるで乗用車と違わない。乗用車と比較しシート位置が高い分、視界が高くなり広い視野を得られ、安心感が高い。ワインディングでは、かなりの速度からハードにブレーキングし、ステアしてコーナーに進入するとスッとノーズが入り、リヤタイヤの踏ん張りを常に感じながら駆け抜けることができる。
極端に言えば、進入時にノーズが回頭した瞬間からアクセルを開けることができる。四輪にトルクベクタリング・バイ・ブレーキング機能が標準装備されているので、アンダーステアを瞬時に感知してアンダーを消してしまうからだ。だから、進入速度はどんどん速くなり、20インチのタイヤでもオーバーサイズとならないコーナリングが楽しめる。
トランスミッションはZF製8速ATで、レスポンスも、またシフトショックも申し分なく滑らかだ。高級車御用達のトランスミッションだけに不満は全くない。
この走りを体験したあとガソリンモデルに乗る。「S」グレードにはアダプティブダイナミクスは標準装備されているので、同様の走りを試す。すると、ディーゼルでは味わえないエンジンサウンドの世界が存在した。
サウンドチューニングなのだろうが、非常に掻き立てられるサウンドで、ジャガーのスポーツカーF-TYPEに試乗したときを思い出す。それほどスポーティで過激ともいえるサウンドがいい。パワーやトルク感にも不満は全くない。非常に走りが楽しいモデルだと断言できる。
これはドイツ車のようにアウトバーンを200km/h以上の速度で巡航するための高級車づくりという文化と、イギリスのワイディングを快適にぶっ飛ばすクルマ造りの違いを感じるのだ。英国のワインディングは通常60マイル(100km/h程度)だが、部分的には70マイル制限になる。約112km/hだ。そんな速度域でハンドルを切る走りをするのだから、ふにゃふにゃでは走れないのはあたり前だ。
また、雪道や湿った草地などでの安定した走行をするためのASPC(オールサーフェスプログレスコントロール)の標準装備があり、安心感は高い。
■ひと目でジャガーと分かるデザイン
試乗車のエクステリアを見てほしい。ブラックカラーのホイールを履くF-PACEは何ともカッコいい。単純にカッコいい。もちろん好みは人それぞれにあるので、一概には言えないが黒いホイールは刺さる。
ヘッドライトやグリルのデザインは、ジャガーブランドであることがひと目でわり、鋭い顔を持っている。また、同様にインテリアも他のジャガーブランドと同様の景色が広がっている。ジャガー独特のロータリー式ギヤセレクターも装備し、液晶のメーターパネルも装備される。
さらに赤と黒のコンビレザーの内装は、乗る人を選ぶほど洒落たインテリアだ。ラゲッジスペースも508Lの容量がありSUVとしての機能は充実している。
プレミアムブランドと言えばドイツ3社がパッと頭に浮かぶが、英国ブランド・ジャガーの存在感が一気に高まった気がする。このところXEやXFが立て続けにリリースされ、F-TYPEの衝撃的なデビューも記憶に新しい。そしてこのSUVカテゴリーなのに「F」シリーズのネーミングを持つF-PACEの存在と、いずれも存在感が強く、そして何より、ドイツ車とは違った走りの魅力、デザインの魅力、ブランドの魅力があるのだ。
クルマ好き=走り好き=ワインディング好きという公式があるような気がする。ぜひ、クルマ好きのエグゼクティブにはチョイスしてほしいと思う試乗だった。
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