最新のジープ・コンパスを駆り、厳寒の北海道でショートツーリングを行った。距離こそ250kmと“ショート”だが、豪雪地帯を貫き、ときにはホワイトアウトするほどの吹雪に見舞われるなど、雪国でない地域に住む人間にとってはなかなか過酷な行程だ。千歳から支笏湖周辺を巡る旅で、ジープのサバイバル性能を体感する。TEXT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
エントリーモデルにこそ、ブランドの理念は表れる
【簡易キャンパーで遊ぼう!】日産NV200バネット〈NISSAN PS FIELD CRAFT〉
1月下旬、厳寒の北海道を舞台に、豪雪地帯を貫くショートツーリングを行う機会を得た。千歳空港から支笏湖を経由し、洞爺湖の手前にある北湯沢という温泉街を往復するルートで、総走行距離は約250kmほどになる見込みだ。
確かに距離は短いが、ほぼ全行程に渡ってスノーコンディションとなっており、平均速度はかなり抑えられてしまうはず。雪道に不慣れな東京生まれ東京育ちの筆者にとって、ちょっとした冒険となることは間違いない。
車種はジープのラインナップの中で最もお手頃なコンパスを選んだ。レネゲードがエントリーモデルと認識していたが、最廉価グレード同士を比べると、前者が323万円、後者が355万円と、意外にもコンパスのほうが安い。
ラングラーがジープの最高峰であることはいうまでもないが、極限の状況下に於けるジープの底力を量り、ブランドとしてのフィロソフィを知るには、むしろ廉価モデルのほうが相応しいだろう。
千歳空港近くにある千歳モーターランドを出発し、国道36号線を北上する。市内はところどころ雪が溶けていてアスファルトが見える。しょっぱなからクルマがドロドロに汚れそうで、撮影を控えた我々にとってはかなり厳しい状況だ。氷点下なのに撮影現場で洗車などしたくない。
そんなわけで雪解け水を跳ね上げないようゆっくり走っていたのだが、大型トラックに抜かれざまに泥水を派手にぶっかけられた時点で諦めた。
日本市場におけるコンパスは全グレードとも2.4Lのガソリンユニットを搭載するが、唯一のAWDとなるリミテッドのみ9速ATと組み合わされる。変速マナーはすばらしく、市街地から高速道路に至るまで、ストレスを覚える場面は皆無だ。ジープの名が与えられているものの、良質なサルーンとしての役割も十分に果たしてくれるだろう。
恵庭から針路を西に取り、県道117号線に入るやいなや、路面がツルツルのアイスバーンになった。しかも片輪は完全なアイスバーン、もう片輪はうっすらと雪が乗ったアイスバーンという、かなり緊張を強いられる路面状況だ。
だが、試乗車が履いていたスタッドレスタイヤ「グッドイヤー・アイスナビSUV」のおかげもあって、コンパスはしっかりと路面を掴みながら歩を進めていく。もちろん無茶は禁物だが、グリップを失って姿勢を崩すような場面はなかった。
国道453号線に当たり、支笏湖を目指して南下する。このあたりの地理に詳しい人であれば、なぜコイツはわざわざ遠回りしているのだろうとお気づきになったかと思われるが、それはこの国道453号線のワインディングロードを堪能するためだ。
堪能と言っても公道なのだから、もちろんクローズドコースのようにドリフトの真似事をするわけにはいかない。ただ、速度こそ控え目でも、雪道なりの独特の“グリップ感”を手探りしながらコーナーをクリアしていく行為には、緊張感とともにどこか快感が伴う。
そんな目的をもって下りコーナーの続く国道453号線に臨んだのだが、そこで見せたコンパスの振る舞いはなかなかのものだった。
ここで我々のような平均的なドライバーが求めるものは、必ずしも卓越した悪路走破性であったり、WRCマシンのような圧倒的な速さではない。なるべく普段通りの平常心で運転ができて、路面がどうなっているのかわかることだ。それができれば安心感が高まり、前述のような「グリップを探る」運転が楽しめるのだ。
フラッグシップのラングラーでも感じたことだが、ジープの各モデルは必要なインフォメーションをいたずらに封じ込めない。もちろん不快なNVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)は抑えているのだが、「なにがどうなっているのかわからないが、なんとなく大丈夫だ」とはならない。「状況が手に取るようにわかるから安心できる」のだ。それはエントリーモデルであるコンパスにもしっかり受け継がれている。
ジープの車内にいれば、とりあえず死ぬことはない気がする
ちょうど陽が暮れた頃に宿泊地である北湯沢のホテルに到着する。翌日は朝食を手短に済ませ、前日よりも雪深い林道に挑むことにした。前日は国道や県道をなぞったため、スノーコンディションとは言いつつもしっかり除雪されていた。もっとフッカフカの新雪ではどうなるのか、試してみたかったのだ。
前の晩にかなり雪が降ったらしく、コンパスのルーフやボンネットにはかなりの雪が積もっている。ホテルを出て裏手に回ると、いきなり深い新雪に覆われた細い林道が現れた。すでに雪は降っておらず、ときおり太陽も顔を見せていたが、風が吹くと積もったパウダースノーが舞い上がって前が見づらくなる。
そんななか、車体を揺らすような突風に見舞われ、前が完全に見えなくなった。太陽は出ていて明るいのだが、おかげで光が乱反射して視界が真っ白になってしまった。これがホワイトアウトというやつか。
こうなってしまったらジープも何も関係ない。普通のクルマじゃ見えないけれど、ジープなら見える、なんてことはあるはずがない。ゆっくりとスピードを落としつつも追突されないように急停止はせず、ホワイトアウトする直前に見た光景の記憶を頼りに、ゆっくりと時間をかけて停止状態に持っていく。
完全に視界を失ったのはほんの一瞬だったはずだが、その一瞬のうちにクルマは何mも進むわけで、かなり危険であることは間違いない。
だがこうした極限の状況でも、ジープの車内にはどことなく「守られている感」が漂っているのは本当だ。それはジープならではのボディの堅牢性のおかげかも知れないし、インテリアのデザインによって演出されているのかも知れないし、そもそもジープという名前が生み出す先入観のおかげなのかも知れない。いずれにせよ、「この中にいれば死なないだろう」みたいな不思議な安心感があって、それはジープというブランドに共通する感覚だ。ラングラーはもちろんレネゲードでも感じられたのは、日本屈指の酷道を走破した際に確認済みだ。
帰路は国道453号線を迂回せず、直線的に千歳を目指し、全250kmを走り抜けて千歳モーターランドに帰着した。
悪路走破性だけを見たら、もちろんコンパスはラングラーよりも劣るだろう。だが、四つのタイヤの位置が手に取るようにわかり、路面の状況がステアリングやシートを通じてドライバーに伝わる。だから過酷な状況下でも無用な不安を煽られない。ラングラーの卓越した悪路走破性は、確かに人を魅了する。だが、それ以上にコンパスで感じた安心感こそがジープの本当の魅力なのかも知れない。
高い悪路走破性もドライバーが自信をもって引き出せなければ意味がないわけで、その引き出しやすさにおいてはコンパスもラングラーも変わらないのだ。
ジープ・コンパス リミテッド
全長×全幅×全高:4400×1810×1640mm ホイールベース:2635mm 車両重量:1600kg エンジン形式:直列4気筒DOHC 総排気量:2359cc 最高出力:129kW(175ps)/6400rpm 最大トルク:229Nm/3900rpm トランスミッション:9速AT 駆動方式:F・AWD(フロントエンジン・オールホイールドライブ) タイヤサイズ:225/55R18 車両価格:419万円
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