2023年シーズンで8年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。南北アメリカ大陸3連戦の初戦となるアメリカGPで、ハースはVF-23の大型アップデートを行った。現在のクルマとはコンセプトが異なる新しいパーツが投入されたが、小松エンジニアはこのアップデートについて、一部で進歩があったと語る。スプリント開催の慌ただしい週末のなかでも進歩が見えたのは、2024年に向けていい兆しとなったはずだ。アメリカGPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。
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ヒュルケンベルグ「ピットレーンスタートと引き換えに、クルマのフィーリングはよくなった」ハース F1第19戦決勝
2023年F1第19戦アメリカGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選14番手/スプリント18位/決勝14位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選16番手/スプリント15位/決勝11位
アメリカ大陸3連戦の初戦、アメリカGPでクルマの大型アップデートを行いました。前回のコラムでも書いたとおり、このアップデートで投入した各パーツは、VF-23のこれまでのコンセプトとは異なるものです。コンセプトを変えたらクルマがどうなるのかを把握することが最大の目的でした。
その感想としては、よくも悪くも想定通りでした。VF-23のオリジナル仕様ではなかなか空力の開発が思うように進まなかったのでコンセプトを大きく変えました。とはいえコンセプトを変えると、初期段階ではどうしてもダウンフォースが減ります。その後、風洞で時間をかけて開発していってやっとゲインが得られるのです。アメリカGPに投入したものはコンセプトを変更してから比較的早い段階のモノなので、ダウンフォースの絶対値はオリジナル仕様とほぼ同等レベルでした。それでも、このコンセプトの方がこれから先の開発は進むだろうという見通しが立ったので、その初期データをとるためにアメリカGPに投入しました。
まだまだ絶対的なダウンフォース不足の面が大きいので、特に予選でのラップタイムに関して大幅に改善されたところは見えませんが、コーナーの進入や低速コーナーの立ち上がなりなどでやや前進がありました。ただアメリカGPはスプリント形式だったので、あまりクルマをいじる機会がなくてこの新しいパッケージのベストを発揮するところまでは到達していません。ですからメキシコシティGP、サンパウロGPと引き続きデータ収集を続ける予定です。
さてスプリントの週末は1時間のフリー走行のみでクルマのスペックを決めなければいけないので、FP1では2台のセットアップをわけてデータ収集に努めました。その結果ケビンのクルマで試したセットアップの方がかなりよかったので、予選に向けて両車ともにケビンのFP1セットアップをベースに微調整しました。
FP1で苦労していたニコはセットアップ変更のおかげでクルマの感触がとてもよくなったものの、Q1の2度目のアタックの際にターン1でコンマ5秒ほどロスしてしまいQ1敗退。大きなミスをせずに走れていれば確実にQ2に進めたと思うので残念です。ケビンはQ2に進出したものの、2度目のアタックがよくなかったので14番手にとどまり、チームとして実力を出し切れた予選とは言えません。
スプリント・シュートアウトでも残念ながらすべてを出し切ることはできませんでした。SQ1では2周目のアタックの際にアウトラップでトラフィックに引っかかったことも少し影響しましたが、それよりもミディアムタイヤの感触がよくなかったことが大きいです。予選でソフトタイヤを履いた時のような安定感がなく、攻め切れませんでした。
16番手、17番手というグリッドからポイントを獲るのは現実的ではなかったので、日曜のレースを優先するために、スプリントでは2台ともSQ1で使用したミディアムを使う予定でした。しかしニコがどうしても新品タイヤで走りたいと言うので、彼は新品タイヤでスプリントに臨むことに。もちろんスプリントの結果のみを見れば、ニコの主張が正しかったのは明らかです。しかし後で書きますが、これで日曜日のレースに向けて犠牲を払うことになってしまいました。
スプリントの結果から、絶対的なダウンフォース不足でタイヤを傷めていることが明らかだったので、レースでは最大限にダウンフォースをつけるためにリヤウイングとクーリングの仕様を変更して2台ともピットレーンスタートを選択しました。ニコは両方のクルマに変更を加えることに反対していましたが、変更しなければどうなるのかは明白だったのでやるしかなかったです。
戦略をわけるため予選14番手のケビンはミディアムタイヤ、16番手のニコはハードタイヤをスタートに選択。第1スティントはほぼ予測どおりに進み、ケビンは早めの10周目にピットインしてハードに履き替えました。
ここで想定外だったのは、このケビンのハードタイヤになんらかの問題があったことです。ピットアウトしてすぐにケビンはステアリングの感触の違和感を訴えました。ラップタイムも悪くて、第1スティントで一緒に走っていたアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)とバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)に大きく離され、ローガン・サージェント(ウイリアムズ)にも抜かれてしまいました。ここですぐにピットインすると2ストップのレースができなくなるので、なんとかミディアムで最後のスティントを走り切れるところまで我慢せざるを得なかったです。最終スティントではペースが戻り、簡単に周冠宇(アルファロメオ)に追いついたもののオーバーテイクには至らず、不本意な16位完走でした。
一方ニコは第1スティントを19周まで引っ張りミディアムに交換。第2スティントのペースはとてもよかったです。本来はもっとこのミディアムで引っ張りたかったのですが、最後のピットストップを終えたサージェントが迫っていたので、34周目にピットインして再びミディアムを履きました。
問題は、上述のとおりスプリントで新品タイヤを履いたため、この2セット目のミディアムが中古しか残っていなかったことです。22周のスティントだったのですが、最後はタイヤが保たず抜かれてしまいました。新品タイヤがあればアルボンにも勝てたと思うので、スプリントでタイヤを使ってしまったことが悔やまれますが、タイヤに何らかの問題があったと思われるケビンの第2スティント以外は、ふたりともスプリントよりもかなりタイヤを上手く保たせて走ることができました。
新しいパッケージでまだセットアップを煮詰められていないので、これが今後2戦での課題となります。メキシコは高地なのでダウンフォースが減り大変ですが、このパッケージを最大限に使えるように週末を進めていきたいと思います。
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