被害総額36億円以上! 世間に衝撃を与えた巨額詐欺事件
2024年9月、兵庫県警はクラシックカーをめぐる投資を呼びかけ、多額の金銭をだまし取ったとして、詐欺容疑で東京都渋谷区の自動車修理販売業、室崎泰夫容疑者(42歳)を逮捕しました。
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警察の調べによると、室崎容疑者はクラシックカーを仕入れてレストア(復元)販売する投資話を会社役員の男性に持ちかけ、4億円をだまし取った疑いがもたれています。なお、室崎容疑者は同じような投資話を複数の顧客に持ちかけており、総額約56億円を集めた容疑がかけられていますが、自身が経営していた自動車販売会社「STAR CRAFT(スタークラフト)」はすでに破綻しており、36億円以上が被害者に返還されない可能性があります。
以前の記事では、世界的なブームによるクラシックカー相場の高騰の裏には販売店やレストア専門店には大きなリスクが伴い、1つ経営判断を誤れば経営が傾き、他の客が支払った前払金や手付金での補填する自転車操業へと陥り、経営破綻へと追い込まれた際に顧客へ返金ができなければ、夜逃げをするか、室崎容疑者のように詐欺罪で逮捕されるかという厳しい世界であることを紹介しました。
その後、室崎容疑者の事件を調べていくと、新たな事実が判明したので改めて記します。
倒産する1年3か月前に挙行されたビッグイベント
「STAR CRAFT」が経営破綻を迎えたのは2023年8月ですが、その1年3か月前となる2022年5月6日、同社は富士スピードウェイを借り切り、クラシックカー専門誌やスーパーカー系YouTuber(ユーチューバー)とのコラボにより、「STAR CRAFT Classic Day」という創業10周年記念イベントを挙行しています。
イベントに集まったクルマは錚々たる顔ぶれで、YouTuberが所有するアストン・マーティン「ヴァルキリー」と「ヴァルカン」(世界限定24台)を筆頭に、フェラーリやランボルギーニ、ポルシェなどのスーパーカーが富士スピードウェイの本コースを全開走行したほか、展示スペースにはメルセデス・ベンツ「300SL」ほか3台のクラシック・メルセデスを目玉に、ポルシェ「356」やフェラーリ「ディーノ」、同「F355」などが並べられたそうです。
雑誌社やYouTuberとのコラボということで、運営にかかった経費のすべてを「STAR CRAFT」が負担したのではないと思いますが、富士スピードウェイの公式ウェブサイトによると本コースの貸し切り費用は、1時間あたり平日で72万6000円、土日祝日は94万6000円だとか。前出のイベントはゴールデンウィーク期間中の開催だったので、土日祝日料金で貸し切り時間を8時間とすると、場所代だけで750万円にもなります。
さらにイベント運営費や人件費、車両の陸送費、保険代、雑費などを考えれば、少なく見積もっても総額で数千万円の費用はかかっているはずです。あくまでも店の宣伝と顧客サービスを目的としたイベントですから、おそらくイベント自体の収益はほとんど得られなかったことでしょう。
イベント開催前にはクラウドファンディングで資金調達も
華やかなイベント開催の裏側で、この頃には「STAR CRAFT」の債務は雪だるま式に膨らんでおり、数十億円の負債を抱えて経営破綻一歩手前の状態にありました。
室崎容疑者は当座の運転資金すら確保が難しくなっていたようで、イベント開催の半年前となる2022年2月5日には、大手クラウドファンディング・プラットフォームに、1956年式メルセデス・ベンツ「190SL」のレストア資金調達の名目でクラウドファンドを立ち上げています。その目標金額は300万円。借金の大きさに比べれば「焼け石に水」といった印象で、今さらこの程度の資金を集めても、経営の立て直しなど不可能だったのではないでしょうか。
ひょっとすると室崎容疑者は「このベンツを仕上げて売れば、しばらくは持ち堪えられる」と考えていたのかもしれません。もっとも現実は厳しかったようで、同年4月1日のプロジェクト締め切りまでに集まった支援者はたったの17人。目標金額の17%に当たる53万円しか集まりませんでした。
クラウドファンドで微々たる資金を募る一方で、巨費をかけた自社イベントを富士スピードウェイで行うなど、室崎容疑者の行動にチグハグさを感じるかもしれません。
しかし、富裕層相手の高級車ビジネスは、販売店やレストア工房が良い仕事をするには当然として、派手なイベント、豪華なショールーム、若く美人な受付嬢、きめ細かなサービスは必須のものであり、たとえ台所事情が苦しくとも避けては通ることができないのです。もしこれらの顧客サービスを疎かにすれば、あっという間に数少ない顧客は離れてしまい、その時点で経営が行き詰まってしまいます。
選ばれた少数の富裕層を顧客にする高級車ビジネスの難しさ
何千万、何億という大金を移動の道具であるクルマにポンと支払う富裕層は、私たち庶民とは感覚がまったく異なります。
中でも実用性がなく、日常使いができない高級クラシックカーやスーパーカーを買うことができるのは、お金持ちの中でもほんの一握り。セダン型のロールスロイスや、ベンツの高級SUVを買う財力がある人でも、「遊びクルマ」、すなわち実用性のまったくない趣味性の強いクルマに大金を費やすことは、メンタリティの面でなかなかできないでしょう。
彼らが高級車を買うときは、単に魅力的な商品であるというだけでなく、自分が選ばれた存在であるという優越感を満たしてくれることを暗に要求してきます。彼らは一流の自分にふさわしい店でしか、決して高額商品を買うことはありませんし、実用性皆無なクルマに莫大な金額を支払おうとする人は要求する水準も厳しいものとなります。
そうしたことから富裕層相手のビジネスは設備投資やサービスに相応のコストがかかり、入ってくる金額も多ければ出ていく金額を多くなるのです。
しかし、ビジネスはリスクがあります。ましてや高級車販売は取り扱う商品が高額なだけに、何か間違いがあれば莫大な損失を被ることもあります。そして、想定外のことが2回、3回と立て続けに起きれば、老舗や名店と呼ばれるプロショップでも即座に経営が立ち行かなくなるのです。これこそが、高級クラシックカーやスーパーカー販売の厳しくも難しいところだと言えるでしょう。
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