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サイズが生む敏捷性に魅了 ポルシェ356 ブランド初の量産車 1948年のゲームチェンジャー(6)

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サイズが生む敏捷性に魅了 ポルシェ356 ブランド初の量産車 1948年のゲームチェンジャー(6)

最初期のエンジンはビートルの改良版

75年前、生産数では順調なスタートを切れなかったのが、ポルシェ初の量産モデル、356だ。新たな自動車メーカーとして、オーストリア北部のグミュントに構えた工場で最初期型が作られたのは、52台に留まった。

【画像】1948年のゲームチェンジャー ポルシェ356とモーリス・マイナー ミニや電動版356も 全125枚

フェルディナンド・ポルシェ氏の名前は、ナチス政権の要請で設計されたKdFワーゲン、後のフォルクスワーゲン・ビートルや、アウトウニオン・グランプリ・マシンの開発などを通じ、自動車業界では知られていた。だが、一般的に認知されてはいなかった。

フェルディナンドの息子、フェリーの協力を得ながら、疎開先のオーストリアで試作車を製作。ドイツのコーチビルダー、ロイター社と量産ボディの生産契約が結ばれ、シュトゥットガルトのツッフェンハウゼンへ生産拠点は戻るが、規模は小さなものだった。

当初の356のエンジンは1.1Lの空冷式・水平対向4気筒で、基本的にはビートルの改良版。ツインキャブレターと新しいエグゾースト、基本的なチューニングなどで、10psのパワーアップが図られていたが。

独立懸架式のトーションバー・サスペンションや、ヘッドライトなどの小さな部品も、フォルクスワーゲンから流用していた。いずれも、フェルディナンドがビートルで開発したものだった。

だが、ボディとシャシー、インテリアは独自設計。1955年まで生産されたプレAと呼ばれる初期型でも、毎年のようにアップデートが加えられていった。

ポルシェの愛すべきDNAが香る

1951年になると、ポルシェはオプションとして1286ccのエンジンを356に用意。1952年には1488cc仕様も設定された。いずれも、ビートルの排気量拡大より遥か以前に進められている。

ポルシェ独自による、量産車初となるオール・シンクロのトランスミッションも1952年に登場。リアエンジンのスポーツカーとして、特徴を濃くしていった。

プレAと呼ばれる初期の356は、グッドウッド・サーキットでも見慣れた存在ながら、特別であることを静かに主張する。とりわけ、サーキット向けに手が加えられた、ラージ・シトラニ氏のライトブルーの1台は存在感が強い。後期の1500スーパーだ。

エンジンの始動前に、ダッシュボードの底面へ指を伸ばし、ボタンを10秒ほど押してガソリンを送る。ハンドブレーキは、ステアリングコラムの影に隠れている。設計が古いモデルであることを、そのプロセスから感じる。

発進させて400mも走らないうちに、ポルシェの愛すべきDNAがひしひしと香ってくる。低回転域ではフォルクスワーゲンのフラット4に似た振る舞いのエンジンは、シフトダウンしてアクセルペダルを傾けると、まったく異なる勢いで吹け上がる。

クレッシェンドしていくサウンドも痛快。1954年式のプレAは55psしか発揮しないものの、ポルシェが施した改良によって中回転域以上で明らかな違いを生んでいる。加速は想像以上に活発。スペックシートには、驚くような数字が並ばないとしても。

最高出力を踏まえれば期待以上のスリル

アクセルレスポンスが興奮を誘う。ペダルの角度に応じて、エンジンが変化していく過程が楽しい。徐々にエネルギーが高まり、最高出力の小ささを踏まえれば驚くほど。ドライバーの背中がシートへ押さえつけられる感覚も、僅かにある。

さらに356を際立たせていたのが、ステアリングフィールや操縦性。職人の技術の結晶といえる一体成型ボディが素晴らしい剛性を生み、有能なシャシーを機能させる素地を作っている。ドアやボンネット、エンジンリッドの継ぎ目は、ピシッと揃っている。

この頃のスポーツカーでは珍しくなかった、シャシーのしなりや振動とは無縁。スプリングレートもこの頃としては高く、コーナーの縁石をかすめるとレーシングカーのように振動を伝える。ボディロールもしっかり抑え込まれている。

バケットシートが身体を保持し、フラットで速く、素晴らしいドライビング体験を堪能できる。荒れた路面で、足まわりが暴れない限り。

リアエンジン・レイアウトのおかげで、ステアリングホイールは軽いが、コミュニケーション力には唸らされる。高速域では軽すぎてドライバーを戸惑わせる可能性もあるが、初期の356 プレAにはそれ以上まで加速させる余力がない。

コンパクトさが生む敏捷性へ魅了される

ポルシェはその後の911で大成功を収めるが、世界中のマニアが356へ魅了される理由こそ、このコンパクトさが生む敏捷性。グッドウッド・サーキットを走らせれば、そのタイトな身のこなしに惹き込まれる。

リア寄りの重量配分は感取できるものの、初期の911より自然で回頭性にも優れる。アクセルペダルを急に緩めても、振り子のように急なオーバーステアへ転じる気配はない。ポルシェの特性に慣れていないドライバーでも、比較的すぐに馴染めるはず。

意欲的にコーナーへ侵入し、出口では強力なトラクションを発揮できる。ポルシェがバランスを整えるのに時間を要した911より2気筒少ないぶん、356は扱いやすい。

新しいスポーツカー・メーカーの、成功の鍵を握っていた356。1948年から1966年の17年という間、ポルシェ唯一の量産車としてブランドを支える存在だったが、不足なく頼もしい大黒柱であったことは間違いないだろう。

協力:エクスポート56社

ポルシェ356 プレA(1948~1955年/欧州仕様)のスペック

価格:1万4500スイスフラン(新車時)/45万ポンド(約7245万円)以下(現在)
販売台数:7万7766台(356合計/1948~1966年)
全長:3870-4010mm
全幅:1660mm
全高:1220-1320mm
最高速度:140km/h
0-97km/h加速:23.5秒
燃費:12.4-14.2km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:680kg
パワートレイン:水平対向4気筒1131cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:51ps/2600rpm
最大トルク:5.7kg-m/2400rpm
ギアボックス:4速マニュアル

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