■「コールドプレイ」のベーシスト、ガイ・ベリーマン氏の愛車2台がオークションに登場
フェラーリ初の市販ミドシップ車である「ディーノGT」シリーズと、フェラーリ初の市販12気筒ミドシップ車である「BB」シリーズ。いずれもスーパーカーブーマーのカリスマ的人気モデルながら、2010年代以降の国際クラシックカー・マーケットにおいては、新車として生まれた時代の格付けを覆すかのように、相場価格が拮抗するという珍事が常態化しつつあるかにも見える。
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今回は、クラシックカー/コレクターズカーのオークション業界における世界最大手、RMサザビーズ英国本社が2021年5月19日から26日に開催したオンライン限定オークション「OPEN ROADS, MAY」に出品された2台、実はさる世界的セレブレティの愛車である1971年型「ディーノ246GT」と、1974年型「フェラーリ365GT4/BB」のオークションレビューから逆転現象を分析してみよう。
●1971 ディーノ「246 GT」
1969年にデビューしたディーノ246GTは、その前年、1968年に生産が開始された「206GT」のスケールアップ・改良版である。
ディーノ206GTはフェラーリが設計し、フィアットで生産される2リッターV6エンジンを、ピニンファリーナのデザインによる総アルミ製ボディに搭載したモデル。当時の常識を超えた驚くべきハンドリングに、芸術的とも称される美しいスタイルで世界に衝撃を与えた。
そしてフェラーリは、エンジンを2.4リッターに拡大するとともに、ボディの基本骨格およびエンジンブロックをスティール化。さらにホイールベースを60mm延長することで実用性や生産性を向上させたディーノGTの本命「246GT」へと進化させる。
このような経緯のもとに誕生し、スポーツカー史上屈指の名作と評されることになったディーノ246GTだが、その生産期間中にはいくつものアップデートを受けている。
最初期モデルの「タイプL」では206GTから踏襲されたセンターロック+スピンナーのホイールは、1971年初頭から生産された「タイプM」以降は5穴のボルトオンタイプへと変更。さらに同年後半から生産開始された「タイプE」のシリーズ中途には、前後のバンパー形状も206GT以来のラジエーターグリルにくわえ込むスタイルから、グリル両脇に取り付けられるシンプルな意匠に変更されるなど、そのマイナーチェンジの内容は多岐にわたるものだった。
今回、RMサザビーズ「OPEN ROADS, MAY」オークションに出品された1971年型246GTは、1624台が作られたという「タイプE」の中でももっとも初期に生産されたと思われる1台で、フロントバンパーはタイプMまでの共通項だったグリル左右にくわえたスタイルを残している。
現代のマーケットにて、人気・相場価格ともにもっとも高い「タイプL」よりはいささか安価になることの多いタイプEながら、このシルバーの個体には特別な付加価値があった。
それは、グラミー賞を受賞したこともある英国のロックバンド「コールドプレイ」のベーシスト、ガイ・ベリーマン氏が現在進行形で愛用している246GTだったのだ。
WEBカタログによると、もともと1971年6月23日にマラネッロ工場をラインオフしたというこの個体は、同年8月にイタリア国内の女性オーナーにデリバリー。そののち数人のイタリア人が所有したあと、1978年にアメリカへと輸出されていった。
アメリカでこのディーノ246GTを入手したのは、ミシガン州在住の愛好家で、彼はその後36年間にわたって所有。2014年に再び大西洋を渡り、ガイ・ベリーマン氏のコレクションに加わることになったとされている。
現在に至るまで「Argento Auteuil Metallizzato(シルバーメタリック)」のボディや黒革のインテリアなどは、基本的にオリジナルが保たれている一方で、ベリーマン氏の委託によりエンジンとその補器類、トランスミッション/クラッチ、サスペンションやブレーキシステムなどは、スペシャリストの手によってオーバーホールされている。
この246GTに、RMサザビーズ英国本社が設定したエスティメートは、21万-24万英ポンド。オンライン競売では22万5000ポンド、日本円に換算すれば約3480万円という、ディーノ246GTタイプEとしてはハイエンドに属する価格で落札されるに至った。
この高評価を決定づけたのは、もちろん個体そのものの魅力もあるだろうが、やはり「ガイ・ベリーマンのディーノ」という付加価値が大きく反映したのは間違いあるまい。
■予想落札価格は同じ、「BB」は「ディーノ」に勝てるのか?
1973年に正式発表され、その数年後、1970年代後半に日本で沸き上がったスーパーカーブーム時代には、宿敵ランボルギーニ「カウンタックLP400」と覇権を争った365GT4/BBは、12気筒ストラダーレとしてはフェラーリ初のミドシップ車である。
現代の目でも見惚れてしまいそうな斬新さにくわえて、ディーノの係累であることを物語る古典的エレガンスもあわせ持つボディは、もともと1968年にピニンファリーナが発表したスタディモデル「P6」の生産型であるともいわれている。
●1974 フェラーリ「365 GT4/BB」
有名なペットネーム「BB(Berlinetta Boxer)」にも示されるとおり、前任モデルにあたる「365GTB/4デイトナ」用に新設計された、排気量4390ccの60度V型12気筒4カムシャフトエンジンのVバンク角を180度まで拡大。4基の3チョーク式ウェバー気化器が組み合わされて、380psのパワーを発揮する。
そしてパワートレインの前後長を短く抑えるため、エンジン直下に2階建て構造に配された5速MTを介して302km/hの最高速を公称していた。
ただしこのカタログデータは、BBがデビューする半年前に最高速度300km/hを標榜して挑戦状を叩きつけてきた、カウンタックLP400を上回ることだけを目的に設定された政治的数値というのが今や定説となっているようだが、それでもBBの魅力の前には何らの問題ともなりえないともいえよう。
このほど「OPEN ROADS, MAY」オークションに出品された365GT4/BBは、前述のディーノ246GTと同じく、オルタナティヴ・ロックの世界的スーパースター「コールドプレイ」のベーシスト、ガイ・ベリーマン氏からの出品である。
フェラーリの公式WEBページにも登場するほどに熱心なクラシック・フェラーリ愛好家である彼は、モノトーンのボディカラーを好むようで、こちらも「Grigio Ferro(スティールグレー)」のボディカラーに「Rosso(赤)」のレザー内装を組み合わせた一台である。また、387台が作られたといわれる365GT4/BBのうち、わずか58台のみという英国マーケット向け右ハンドル仕様とのことだった。
1974年5月に完成したこの個体は、その翌月かの有名なイギリス正規代理店「マラネッロ・コンセッショネアーズ」によって英国に渡ったのち、ファーストオーナーに納車されたという。
そののち3人の歴代オーナーのもとで大切に所蔵されたあと、2014年にガイ・ベリーマン氏が入手。彼の要望により、2015年から2017年にかけて、約7万ポンドを投じたレストアが施されることになり、一時はイエローに再塗装されていたボディも、オリジナル純正カラーのグレーメタリックで仕立て直された。
今回のオークション出品に際してRMサザビーズ英国本社では、同時に出品されたディーノ246GTとまったく同額となる、21万-24万ポンドのエスティメートを設定していた。ところが、競売では入札が伸びず、エスティメート下限を割り込む20万9000ポンド、日本円換算で約3233万円にて落札された。つまり、ディーノ246GTの落札価格には及ばない結果に終わってしまったのである。
マイナーチェンジ版にあたる「512BB」ないしは「512BBi」では、これまでにもディーノ246GTの相場価格に及ばない事例は珍しくもなかったのだが、BBシリーズのオリジナルにしてもっともピュアなモデル、そして希少価値ももっとも高いはずの「365GT4/BB」が、レアな「206GT」でもない246GTに敗れるというのは、ちょっとしたニュースともいえるだろう。
世界的ミュージシャン「ガイ・ベリーマンの愛車」というバリューは、双方とも同条件。ならばコンディションやハンドル位置の違いによるもの、あるいはたまたま入札者に恵まれなかったという、オークションならではの偶発的な理由によるものなのか。それとも、グローバルなマーケットの趨勢がディーノを選んだのかは、いささか判断が難しい。
今後の国際マーケットの動向に、注目していきたいところである。
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みんなのコメント
こうして並べてみるとBB世代だけどディーノの美しさが際立つね